その日は仕事終了後、兄と一緒に祖父母の住む家に向かっていた。
祖父母の家は車で二時間程の山の中にある。
当時、免許を取得したばかりの自分は運転が楽しくてしょうがない。
とは言え、不慣れな峠の道では後続車に迷惑が掛かる、ということで、峠に入るまでは自分が、峠に入ってからは兄が運転をするということになった。
時折小雨がパラついて、夜だったせいもあるが雨に濡れた路面にライトが反射して多少視界が悪かった記憶がある。
普段から知らない道を通るのがワクワクしてた自分は、その日も敢えて国道を外れ、目的地に大きく反れない程度に通ったことの無い道を選び、とりとめの無い会話をしながら運転してたんだ。
その時、何故か鳥肌が立った。
…あぁ、そういえば最近、気味の悪いことがあったなぁ…と思いだし、兄に話すことに。
内容は、夜中に1人きりで目的地も無く街中をドライブしていたら、いつの間にやら小さな山道に入り込んでしまい、看板を見たら有名な心霊スポットでビビったよ〜、って話。
自分的には「呼ばれた」感が怖かったので話したんだが、兄はあまり興味が無いのか、話題をモスキート音へ。
当時は確かまだ「モスキート音」という言葉は一般的ではなく、この時は高周波という言葉を使ってたと思う。
兄が言うには、一定の年齢以下にしか聞こえない高周波、実は「超低周波」もあるんだ…と。
それは普通、ヒトの耳には聞こえないが三半規管に伝わり、五感を狂わせると言う。
方向感覚を狂わせ、時には幻聴を聞き、幻覚を見せる。
…あぁ、そうか。
自分の話もその一種ということか。。
話も一段落した所で兄が言う。
「引き返した方がいい。」
確かに道はいつの間にか、街灯も青看板も無い寂しい道へ。
あまり道の知らない自分がこのまま行っても目的地から離れる一方かも知れない。
言われるままに車をUターンさせようとしたその時…
視界いっぱいに墓、墓、墓…。
真夏の小雨なもんだから、墓石から水蒸気がライトに照らされ、白いモヤのように立ち上ってる。
思わず兄の顔を見ると、さすがに驚きの色を隠せない様子。
とりあえず、呪文のように「低周波、低周波」と呟きつつ、その場は速やかに立ち去った。(バックミラーなんて見る余裕は無かったww)
通り慣れた道に出てから兄に運転を変わってもらい、なぜあの時、突然引き返すよう指示を出したのか聞いた。
実は兄も、鳥肌と悪寒でたまらなかったらしい。
気味の悪い話を聞いたせいだ、と科学的な話で気をまぎらわせようとしたが、髪の毛一本一本が全て逆立つ感覚に耐えきれなくなっての「引き返せ」だった。
そこがたまたま墓地だった…と。
お互いの腕を見ると、産毛までの全ての毛が確認できるほど逆立っていた。
超低周波の話は説得力があったのだが、兄は続けて言った。
「呼ばれるってことはあるのかも知れない。墓地には沢山の仏様が眠っている。あのまま行ってたら危なかった。それを仏様が教えてくれたんだ。有り難い。」
…超低周波、関係無しかいww
その後二人で「護ってくれて有難う」の意を込めて手を合わせ、無事に祖父母の家に辿り着いたんだが、峠を越える際に再び「低周波、低周波」と、どこかにしまい忘れた治療器具を探すオバチャンのように唱えたことは、今だに顔を合わせれば出てくる思い出話の一つになっている。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話