中編4
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嫌な家

俺は親父の仕事の関係で、子供のころから引越しを繰り返していた。

中学2年の時に、2回目の引越しでその家に移った。

二階建ての木造一軒家だった。

何度も引越しを繰り返してきたため、

家というものになんの感情も持つことなく育ってきた俺だったが、

その家を前にした時は、これまでのどの家にも感じたことのない嫌な気持ちになった。

中に入ってみても、何がどうと言うわけでもないが、なんとなくこの家から早く引っ越したいと思った。

俺は2階の一室をもらい、その隣が弟の部屋になった。

ところが、すみ始めて何日もしないうちに、夜に限って階段下でよく転ぶようになった。

2階建ての家が決して初めてというわけではなかった。

なのに何故こんなに良く転ぶのかと不思議に感じ、どうしてなんだろうと思うようになった。

よく考えると、転ぶときは必ず何か考えたりしていて、階段と足元をしっかり見ていないからだと言うことに気づいたが、それにしても最後の一、二段あたりに限って体のバランスを崩すのは何故だろう?

階段を上り下りするときに頭の中で階段の数を数えてみることにした。

14段ある階段を数さえ数えていれば、タイミングを外すことはないだろう・・・

そう思ったからだった。

ところが、ほとんど毎回の用に階段の数が違う。

そんなことがあるわけない。

毎回階段の数が違うなんて、バカバカしくて両親にも話せない。

上るときは13段、下りるときは15段、あるいは上るときは15段、下りるときは13段。

14段より一つ多いか一つ少ない事がしょっちゅうあった。

段数が変わるので、下りきったと思ったらまだ階段があったり、まだあるとおもっていたらすでに1階だったりした。

上りのときは上りきればよいからいいとして、下りのときは階段を下りる感覚をなんとなく体が覚えているので特に危なかった。

だからバランスを崩して転ぶのか・・・。

そんなことが分かっても、階段の数がころころ変わる意味が分からない。

結局、家族にも話してみたが、予想通り全く信じてもらえないし、実際転ぶのは俺だけだったため、おかしいのは俺、という事で片付けられた。

この階段の真下には、階段下の空間を利用した三角形の物置倉庫があった。

ある休日の昼間、掃除道具を出そうとこの物置の扉を開けると、掃除道具といくつか積み上げられた靴の箱との間に、中年男性の顔が斜めに置いてあった。

何だろう、これ?

よくできたお面でも置いてあるのかな?としか思わなかったその顔が動いて俺を見上げたかと思うと、その目に睨みつけられた。

びっくりして扉を閉めた。

きっと見間違いだろう、と心を落ち着かせてからもう一度中を覗いてみると、そこには何もなかった。

しかし見間違えるようなものは何もなく、かえって不気味だった。

その晩寝ていた俺は、トイレに目が覚めた。

ぼんやりした意識の中で、明かりをつけようと天井に向かって手を伸ばしたが、すぐに手に当たるはずの紐がない。

「あれ?おかしいな、いつもならすぐに当たるのに・・・」

と思いながら、大きく手を動かしてみたが、どうしても紐に触ることが出来ない。

仕方ない、ちゃんと起きるか・・・と周りを見ると、部屋の中が真っ暗ではなく、薄明るくなっている。

明かりもないのに、何でこんなに薄明るいんだろう?

よく注意してみると、何と自分の部屋ではなかった。

部屋中全部が灰色になっていて、全く何もない。

ぐるりと見回しても、すべて灰色の広い世界にポツンと一人だけ座っている。

自分の上も真下も同じ色だから、空に浮いているような気分になった。

「なんだ・・一体」

まずは落ち着こうと、動転する気持ちを抑えた。

座っている場所に手をやると、今まで寝ていた布団の感触がある。

灰色にしか見えないが、ちゃんと布団の上にはいるようだ。

ならば、と四つん這いになってすぐ側にある机に触ろうとしてみた。

布団の感触から手足が完全に離れきらないように注意しながら前に進んで手を伸ばしてみたが、ここでも机に触ることが出来なかった。

足の感触を頼りに一旦もとの場所に戻って、今度は反対側のすぐ横にあるソファーのあたりに手をやってみたが、手はむなしく空を切って布団の端を触った。

布団はソファーの前に敷いてあるため、机の反対側ならどこに手をやってもソファーに触るはずなのに、何もない。

せめてどこからか音でも聞こえてくれればと思ったが、いくら耳を澄ましても何一つ聞こえない。

こうなると、頼りは座っている足の下に感じる布団の感触だけだった。

もし布団の感触から離れ、少しでも前に進めば、もう一生戻ってこられないような気がした。

しかし、布団を感じるのなら、もう一度寝れば夢から覚めるかのように元に戻るのでは、と願って寝ることにした。

もうその頃には、尿意の感覚など全くなかった。

あまりの尿意にもう一度目が覚めたときには、いつもの朝だった。

この同じ場所ではもう寝られない、と思った俺は、押入れの物を出して中に布団を敷き、その晩からそこで寝ることにした。

その生活を、この家から引っ越すまでずっと続けることにした。

続く

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん   

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