結局、あの子は流産していまい、精神的に病んでしまったと、噂が流れた。
そんな頃、あたしは理科教師に呼び出された。
ひと気がない、おかしな時間だった。
あの時、何か見なかったか?
冷たいその目は、教師のものではない。
あたしが思わず後ずさった時だった。
あの子が現れた。
大きな筒状の硝子瓶を愛おしげに抱え、頬ずりをしている。
唇には微笑を浮かべているが、目がおかしい。
そして硝子瓶の中では、液体に、赤ん坊が浮いていた。
ヒィともヒァともつなかい声を理科教師があげる。
『私の…、私の赤ちゃん…』
コツコツコツ
ゆっくり、こちらに近づいてくる。
『私の…私の…私と…』
『あなたの』
理科教師に向けたその目は、完全に白目だった。
気を失った、あたしが目を覚ました時、そこには誰もいなかった。
『校長?』
私は黙りこんでしまった校長に声をかけた。
『あぁ、ごめんなさいね。ちょっと、ぼうっとしちゃったわ。』
校長はごまかすように、コーヒーを飲み干した。
『あたしもそろそろ帰ります。先生も無理はいけませんよ。』
少ししの雑談の後、校長は校長室へともどっていった。彼女も言った通り間もなく帰るだろう。
私は白衣を脱ぐと今は保健室の倉庫になっている部屋へ向かった。
彼女、思い出してたのかしら。
キャスター付きの棚を動かすと地下室の入口が現れた。
見下ろすだけで、開けはしない。
入口を足で踏み付ける。
彼女を始末する用意を、あいつがしていてくれたおかげで、私はあいつらの始末ができた。
新校舎を建てる際、理科室は保健室へと改築され、理科準備室は倉庫となった。
私にはこれ以上ない幸運だった。
あいつらはこれからも、この下だ。
私は容貌がよほど変わったのだろう。
後から赴任してきた彼女は、私に全く気づかなかった。
『あぁ、いけない。』
入口を元通りに隠すと、私は保健室へ足早に戻り、ロッカーのカギを開けた。
『よーしよし。いい子ですね。ママはお仕事、終わりましたよ〜。もう、帰らなきゃいけないけど、また明日来ますからね〜』
私の様に馬鹿な男に騙される女をつくらない。
仕事には情熱を傾け続けている。
あやす度に、ちゃぷんちゃぷんと中の液体が揺れ動く。
暗い校舎に赤ん坊の泣き声が響いた……
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話