短編2
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ある冬の訪問客

私の実家は小さな旅館を営んでいる。

この話は、そこで起こった出来事だ。

あれは数年前…雪のよく降る、年の暮れも近い日の事だった。

夜遅くに訪ねてきた、一人の若い男性。

予約はしていないのだが、一晩泊めて欲しいという。

雪だらけになった男性を見て、「これはこれは…外は寒かったでしょう」と父は慌てて宿泊の準備をしていた。

とりあえずストーブのついた広間へ案内し、温かいコーヒーを出すと男性は美味しそうにそれを飲んでいた。

…何でも、この近くで車が急にトラブってしまい困っていたのだという。

「でも、ここは良い宿屋さんですねぇ…冷えきった体や心が、温かくて生き返るようですよ」

とても有り難そうに何度も礼を言うと、案内された二階の客室へと上がって行った…

一夜が明け、その翌朝の事。

いつになっても起きて来ないので、父が客室を見に行くと部屋の中は空っぽだった。

「これは、逃げられたかな…?」

ふと部屋のテーブルの上を見ると、一つの書き置きが残されていた。

「温かいおもてなし、ありがとうございました」

そう書かれていた。

そして、その数時間後の事だった。

家の近くで一台の車が見つかったのだ。

その車の中には一人の若い男性が乗っていて、すでに亡くなっていた。

昨夜、家に泊まった男性だった。

警察の調べによれば、暖房をつけっぱなしで車内で眠っていたところ、マフラーが雪で詰まり一酸化炭素中毒を起こしたのだろうという話だった。

そして、男性は昨夜にはすでに亡くなっていただろうと話していた。

「最後は、温かい家の中で一晩過ごしたかったのかねぇ……」

父は昨夜の事を思い出しながら、少し寂しげにそう呟いていた。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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