中編4
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チョコボール

これは友人のYくんが、唯一の霊的な体験として話してくれたエピソードです。

Yくんはお婆ちゃん子でした。

彼の家庭は複雑で、お母さんは離婚しては再婚を繰り返し

父親が3回代わっています。

住んでいる家は、母親の実家で一軒家です。

当時の家族構成

お婆ちゃん

お母さん

Yくん(中学生)

父親違いの妹(小学生)

父親違いの弟(赤ん坊)

お母さんは「母親」より「女」の自分を大切にする人だった様で

色んな男性を家に引っ張りこんでは、お婆ちゃんやYくんと揉めてたそうです。

更には母親の衣服や交際費で、彼の家は多額の借金を背負ってしまいました。

子供達のお母さん役をこなしていたのが、お婆ちゃんでした。

母親は夜から朝までスナックで働いていて、日中は寝ているからです。

Yくんはお婆ちゃんが大好きでした。

兄弟の面倒を見てくれる上に、僅かな年金の中からお小遣やお菓子、プレゼントも買ってくれます。

お婆ちゃんは自分の欲しいモノを一切買わずに、Yくん達に人並みの幸せを教えてくれました。

授業参観日もお婆ちゃん。

運動会もお婆ちゃん。

どんなに荒んだ状況の中でも、お婆ちゃんはYくんの家庭を支えていました。

ある日の事です。

当時、中学生だったYくんにお婆ちゃんが月に一度のお菓子を買ってきてくれました。

ずっと前からYくんが食べたいと言っていたチョコボールです。

しかし、チョコボールの種類は「キャラメル」でした。Yくんが食べたかったのは「ピーナッツ」だったのです。

彼は感情に任せて、間違えて買ってきたお婆ちゃんを酷く責めてしまいました。

お婆ちゃんは悲しそうに

「Yちゃん。ごめんねぇ」

と再びチョコボールを買いに行きました。

その後ろ姿を見ていたYくんも罪悪感を感じていたそうです。

(帰ってきたら謝ろう)

しかし

その道中…

お婆ちゃんは車に撥ねられ帰らぬ人となりました。

多額の保険金が入り、Yくんの家族は金銭的に困る事が無くなりました。

しかし、それにより母親の男遊びはエスカレートし、お婆ちゃんに支えられていた家庭は急速に崩壊していきます。

Yくんも自分自身を責め続ける日々でした。

そして荒んでいく家庭や罪悪感から目を背け、悪い仲間と遊び始めていきます。

それからYくんは荒れに荒れました。

喧嘩、タバコ、万引き、恐喝、傷害。

何度も警察のお世話になってしまいました。

毎回、母親が保護者として呼び出され、その度に母親は面倒臭そうにYを引き取りにきます。

警察もYくん母子に飽きれ果てていました。

しばらくして

Yくんは自殺ばかりを考える様になっていきます。

その時は、絶望しかなかったと彼は語りました。

Yくんが選んだ自殺は

お婆ちゃんと同じ場所で、走行する車に飛び込むという方法でした。

中学生の幼い彼は、運転手には迷惑でも、自分が死ぬ事で妹や弟に少しでもお金が残れば…

そして亡くなったお婆ちゃんに死んで詫びたい…そう考えていたのです。

彼は高速で走るRV車の前に飛び込みました。

パパーン

キィー

ドン

救急車のサイレンが近づいてきます…

担架で手術室に運ばれる途中の朦朧とした意識の中…

誰かが自分の手を握ってくれている事に気がつきました。

…暖かい…

「Yちゃんごめんね。お婆ちゃん、近くにいてあげられなくて…」

「もう大丈夫だからね…」

それは紛れも無く

亡くなったお婆ちゃんの声と手の温もりでした。

Yは涙を流し、意識を失いました。

目が覚めると、病室のベッドの上でした。

大手術の後、生死の境を三日間さ迷いながらも、Yくんは生還しました。

あれだけの事故で、助かったどころか、後遺症も残らなかったのは奇跡だと医師は言いました。

病室で目を覚ましたYくんは看護婦さんに尋ねました。

Y「あの…誰か見舞いに来ました?」

看護婦「いいえ…どなたも来てません。この部屋は面会謝絶ですよ」

Y「そうですか…」

Yくんは泣いていました…

ベッドの中…

Yくんの手にそえられた「ピーナッツ」のチョコボールを握り締めながら…

お婆ちゃん…

ありがとう…

その後、退院したYくんは、お婆ちゃんの代わりとして立派に妹と弟の世話をしました。

Yくん自身もちゃんと更正し、今は幸せな家庭を築いています。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

怖い話投稿:ホラーテラー 天気さん  

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