短編2
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死守り(一)

 じゃあ、俺とじじいの話でも。

 柔道五段、がっしりした体格で、土と汗の匂いのするでかい背中。 日に焼けた顔。俺がろくでもない事をする度、ぶっ飛ばされた、荒れた手。

 素直じゃなくて憎まれ口ばっかり叩いてた俺は、それでもやっぱりじじいが好きで、 だから自分なりに、親しみを込めてじじいと呼んでいた。

 これは俺が今も尊敬して止まない、そんなじじいの葬式の通夜での話。

 五年前、七月の終り頃。

 俺の故郷は、今では薄れたとはいえ、それでも土着の、独自の信仰がまだ残っている。

 一般的な葬式の通夜は、酒飲んで騒いで、といった感じだろうか、しかし俺の地元の場合はかなり異様で、四方が襖になっている部屋を締め切り、仏を中心に安置し、血縁の男4人がそれに背を向け、四方に座るというもの。この時は勿論、じじいが中央。

 更に、各々が白木の柄の小刀一振り(村で神事用に管理してるのを借りる)を傍らに置く。

 その時高校生になったばかりだった俺には、それが何の意味かは知らなかったが、その座る役目、『死守り』をする様、祖母に言われた。これは通称『死守り』で『しもり』と呼ぶらしい。

「お前は爺さんの若い頃に瓜二つだ。継いだ血は濃い。お前にしか出来ん」

 要するに鬼除け、なんだそうだ。魂を喰らわれないように、と。

 死守をするに当たってのきまりがある。

 ・何があっても、後ろを振り向いてはいけない。

 ・誰に名を呼ばれても、応えてはいけない。

 ・刀を、完全に鞘から抜き放ってはならない。

 計三つ。

 寝ないなどといった事は大前提で。死守り以外の人間にも、その部屋には決して近付くなだの、襖や扉を開け放つな、だの、色々と決まりがあるとの事だった。 訳が分からなかったが、尊敬していたじじいの通夜、一つ位、じじいの為に立派に成し遂げてやろうと、杯に注いだ酒を飲まされた後、死守りに臨む事を決めた。

 じじいの弟、じじいの息子(叔父)二人、そしてじじいの長女(母)の子の俺。俺が座ったのは、丑寅の方位だった。

 部屋の中は真っ暗で、空気はひんやりしている。線香の匂いと、襖の向こうで祖母が数珠を擦る独特な音が、余計不気味にさせた。暗闇に、死者を囲んで夜明けまで。

 叔父さん達の欠伸とか、衣擦れの音とか、虫や蛙の声とか。 十畳ほどの部屋、暗くて自分の手も見えなかった。

 

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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