中編5
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逃げられない悪夢 完

逃げられない悪夢の続きです。

Jは恐る恐るドアを開けた。

そこにいたのは、緊急で駆けつけた「警察官」と同じ敷地内に住んでいる「大家さん」だった。

J「いま・・今、僕の部屋の前に居た男が犯人です!見ませんでしたか!?」

警察官「・・・?」

大家さん「・・・?」

その言葉に大家さんと警察官は、首をかしげながら顔を見合わせた。

警察官「いえ、誰も見ませんでしたよ?ずっとチャイムを鳴らしても、出てこられなかったので、大家さんにカギを開けてもらったんですが」

J「・・・・・あけろって言いながら、ドア叩きました?」

警察官「?・・・・いえ」

大家さん「なんだ?イタズラで110番したのかい?」

J「いや!違います!そうだ!隣で事件が起きてます!少なくとも家庭内暴力してますよ!」

大家「・・・・」

警察官「うーん・・」

J「?」

警察官と大家は険しい表情でJを見ていた。

J「なんですか?」

警察官「いや、ね。お隣さん、旅行でお留守なんですよ」

J「は?声が聞こえたんですよ?」

警察官「えぇ、チャイムを鳴らしても出てこられなかったので、大家さんに頼んで開けてもらったんですが」

大家さん「誰もいないよ!隣に住んでいるのは学生さんで一人暮らしだし!とんだ迷惑だよ!」

この話に納得できなかったJは、隣の部屋を確認したそうだ。

しかし、やはり誰も居なかった。事件の形跡すらなかったんだ。

結局、Jのイタズラということでこの事件は処理された。Jは近くの交番に呼び出され「始末書」みたいなものを書かされた。

これで全てが終わったと思えたのだが・・・

数日後、Jが起きると部屋中が荒らされていた。

コップやガラスが割られ、包丁が床に落ちていた。

壁や家具のいたる所に争った跡や、包丁の切傷がある。

これを見た瞬間、Jは絶叫したという。

もちろんJの部屋はあの日以来、厳重に鍵をかけている。

Jは隣の部屋で過去に事件があり、その霊が自分を襲い始めていると考えた。

そして彼は引越した。

・・・・・

俺「そ、それは恐いね。その後は大丈夫なの?」

J「いや・・それがね・・」

なんとここ一年でJは5回も引っ越していた。

新しい場所に引越しても、数ヶ月すると全く同じ恐怖を体験してしまうという。

そして、部屋の中を荒らされたところで、身の危険を感じ引越していた。

部屋の荒れ方は、回を増すごとに酷くなっていて、時にはJが包丁で切られるような怪我をしていることもあった。

今では本当に命の危険を感じるという。

俺「追いかけてきてるのかな・・・」

J「たぶん・・・」

俺「御祓いは?」

J「効果なかった」

俺「やばいな・・・」

J「隣から声が聞こえてたら、2日後の朝には部屋が荒らされてるんだ。」

俺「ここはまだなのか?」

J「昨日の夜、聞こえたんだ・・・」

そして、Jはすがりつくように俺に頼んできた。

J「今日の夜だけ泊まっていって欲しい。頼む。恐いんだ。何が起こるのか確かめてくれ」

時刻は深夜の1時を指していた。

俺はJと2人で徹夜で、何が起きるのかを確かめることにした。

引越しを繰り返し、見えない「恐怖」から逃げ続けるJ。彼の追い詰められている心境を考えると、とてもNOとは言えなかった。

時刻は深夜の2時くらいをまわった頃。

宅呑みで煽った酒が回り始め、俺とJは睡魔と懸命に戦っていた。

深夜の3時をまわった頃。

俺とJはお互いにうとうとしながら

俺「おーい・・寝たのか?」

J「・・一瞬だけ・・」

このような朦朧とした会話をしていた。

(俺がいるから何も起きないだろう・・)

そう自分に言い訳をしながら、夢と現実の狭間から、俺は一気に夢の世界へと堕ちていった。

・・・・・

「ガシャーン!」

ダダダダダダダダダ

「パリーン!」

バタバタバタバタ

「ドン!ガン!」

何かが壊れる物音で一気に現実の世界に引き戻された。

胸の中と背中の下から、冷たいものがこみ上げる。

Jの部屋に居ることを思い出し、意識が覚醒した。

暗闇の中。

包丁を持って奇声をあげている男が…

部屋の真ん中に立っていた。

壁を殴り、物を壊しながら

包丁を振り回している。

真っ暗なシルエットの顔を見た。

俺と目が合った。気がした。

包丁が外からの光に反射して、不気味に輝いている。

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!」

突然、奇声をあげながら男が

寝ている俺に襲い掛かってきた。

俺「おわああああ!」

寸でのところで男をかわすと、包丁が畳に突き刺さった。

俺は立ち上がって、部屋の電気をつけた。

電灯の照らされたその男は

「J」だった。

ぐったりと座り込み、放心状態で口から涎を垂らしている。

俺「何でお前が!」

声を荒げてJに問いかけた。

しかしJは反応しない。

その後、俺が何をしても反応しなかった。

これはヤバイ!そう思った

俺は急いで救急車を呼び、担架で運ばれるJと一緒に緊急病院に行った。

そこで看護婦にJと俺の勤務先・名前・住所・連絡先を聞かれた。

俺はJの親や親戚の連絡先までは知らなかったんだ。

「彼の命に別状はありません。今日は遅いので帰ってください」

医者のこの一言で、待合室で待っていた俺は自宅に帰った。

そして数日後…

俺はJが運ばれた病院に呼び出された。

Jについてだった。

この話をすることで、Jに刃物で襲われたことを警察に届けないで欲しいとの事だった。

そこで俺が聞いたものは衝撃的な話だった。

Jには親や親戚がいない。

正確には「いない」のではなく

Jは施設で育ったそうだ。

施設に入った原因は

家庭内暴力だった。

毎日、父親が母親とJを殴る。

その頃Jは小学生だった。

地獄の日々だったそうだ。

そしてある日

父親の行き過ぎた暴力は

母親の死という最悪の結果をもたらした。

Jも父親に刃物で腹を刺され、重体だったそうだ。

そしてJの目の前で

父親は自殺した。

幼いJは、一命を取り留めた後、施設に引き取られた。

しかし、あまりのショックで家族に関する全ての記憶を失っていたそうだ。

その頃の小児心療カルテが残っており、運び込まれたJの病名が判明した。

「多重人格障害」

なんらかのキカッケで再発してしまったのだという。

Jは今後、専門的な治療を施さなければいけないので、面会はできないと言われた。

病院を後にした俺は、ふとJの部屋から入院生活で役立つものを差し入れてやろうと思った。

救急車を呼んだ時、ポケットの中にJの部屋の鍵を入れていた。

Jの部屋の前に着き、俺は玄関のドアにカギを差し込んだ。

そこで自分の耳を疑った。

「・・・!・・・!」

誰もいないはずの…

Jの部屋の中から…

怒鳴り声と悲鳴が聞こえてくる。

…Jは本当に病気だったんだろうか

今となっては分からない。

怖い話投稿:ホラーテラー 店長さん  

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