短編2
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『イッテラッシャイ』

「っしゃあ、行ってくるか。」

まだ眠気の覚めない自分に気合いを入れる。

まだ片付けきれていない段ボールを避けながら靴を履き、玄関のドアを開けた。

『いってらっしゃい』

部屋の奥からの声に送られ、ドアを閉める。

……?

俺は独り暮らしだ。

俺は直前まで部屋にいた。

部屋を出る時、窓の鍵を閉めたし、ここは5階だ。

最新のセキュリティを誇るマンションだから、不審者の潜入は難しいはず。

貴重品は金庫の中で、万一に備え、保険にも入っている。

盗れるものなら、盗ってみやがれ。今日の取引先相手の方が、今は大事だ。

会社に着き、同僚に今朝の出来事を言った。

彼はこう言う。

「セキュリティを通過したにせよ、強盗だったら出かける前に襲うはずだ。泥棒だったら、『いってらっしゃい』なんて言うか?」

同僚の言う通りだ。

しかも、あの声は間違いなく女の声だった。

ま、まさか・・・

あ、あの部屋に・・・

オバ・・オバ・・

おばさん

が住んでいる?

極度に霊というものが苦手な俺はプラスに考えようともした。

でも、もし帰ってドアを開けたときにまた声が聞こえたら・・・。

不安は的中した。

帰りもおそくなり、駐車場から部屋を見上げると…

部屋の電気は消えているが、青白い光と何かの影がカーテンに揺れている。

部屋に入れるはずもなく、その晩は駐車場の車の中で過ごす。

…夜が空けた。

最悪なことに、今日の商談で必要なプレゼンの資料が部屋の机の中にある。

幽霊が怖くて、準備できませんでちた…なんて子供じみた言い訳が通用するほど、会社は甘くない。

会社に行く時間が迫っている!

同僚の携帯電話に留守電を残す。

「俺の身に何かあったら、後を頼む…」

俺は自分に言い聞かせた。

俺は空手三段だ!

(相手は幽霊だけど)

おまけに、そろばん2級だ!

(関係ないけど)

相手はきれいな女かもしれない!!

(おばさんだけど)

意を決してエレベーターを上り、オートロックを解除した……。

額の汗を拭い、耳をすます。

やはり、それは聞こえてきた・・・・

「…いってらっしゃい。

続いて、天気予報です。」

つけっぱなしだったTVを切ったとき、同僚から携帯に電話がかかってきた。

「大丈夫か?」

「う、うん。今日は晴れるみたいだね。」

「……は?」

怖い話投稿:ホラーテラー ソウさん  

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