月明かりが、大輔の横顔の輪郭を映し出した。
ママはもうじき死ぬ。
その位僕には分かっている。
もし神様がいて、この天変地異も神様の仕業なら、これは啓示なのだ。
ママを殺すこと。
これは前から用意していた選択肢だった。
しかしその必要はなくなった。
世界は壊れ、そして光が差した。
立花さんは、どうやら瓦礫を直撃したようだ。
彼の魂は、もうこの世にはない。
これがいくら大規模な地震だといっても、他国まで壊滅状態とは考えにくい。
きっとどこかの合衆国が、救助を出してくれるだろう。
もともと日本は二つのプレートの境に位置しているんだ。
どんな大地震が起こったって不思議じゃない。
ピンチをチャンスに変える、それは陳腐な言葉のようだが、この状況を良く言い表していた。
そう、僕は生き残り、選択肢を与えられた。
自己満足の愛はもううんざりだ。
最善の選択をし、最善の行動を取った。
それまでだ。
とにかく選択肢は一つ。
他の大人と合流すること。
ママに頼ることはできない。
できれば僕を知らない人間がいい。
この施設の大体の地理は頭に入っていた。
さっきから何度もいろいろいじったけど、エレベーターは故障している。
階段で行くしかない。
しばらく降りると視界が開け、外の様子が見えた。
まあ大体予想の通りだ。
カオス。
この世界に生きる殆どの人間は公私ともに秩序の尖兵であり、それは周りの大人も例外ではなかった。
だからこそ、一度できた力関係を覆すことができない。
システムに依存し、変化を拒み、そして他の存在を拒む。
それが秩序。
腐ったシステムを変えるには、カオスが必要なのだ。
底なしの混沌。
救済はその先にある。
道路は地割れを起こしているところもあれば、建造物がほとんど無事なところもあった。
なるほど、全てが崩壊したというわけではないらしい。
となれば、僕以外の生存者がいる可能性は、これでますます強くなった。
脱出するのだ、日本から。
不意に、犬の鳴き声が聞こえた。
犬は僕の方へ走りだし、続いて僕の方を照らす光があった。
人間だ。大人だ。
と、ここでいったん期待は裏切られた。
その男は地上で最も僕が軽蔑する人種の一人であり、俗に言う「ホームレス」という奴だった。
あまり役に立ちそうとは思えない。
「坊主、どうしたんだ?」
「あのね、地震でね、建物が崩れちゃって・・・・。気づいたらここにいたんだ」
「お母さんは?」
「分かんない・・・・」
ホームレスの男は、しばらく辺りを見回し、そしてさっきまで僕がいた建物に目を付けた。
「あのへんはどうかな・・・・」
最悪だ。勘だけはいいらしい。
「ああ、あっちは建物がどんどん崩れてんるんだ。
行ったらおじさんも死んじゃうよ!!」
しかしホームレスは返事をせず、建物の方へ歩を進めた。
最悪だ。こんな低俗な人間の手で、僕の計画が邪魔されるなんて。
虫唾が走る。
「やめなよ、おじさん!!」
ホームレスは口を閉ざしている。
くそ、何とか言ってみたらどうなんだ。
しまいには殺意され抱くようになった。
出来れば力ずくでこの男を止めたかったが、子供の僕には無理だろう。
仕方なく、僕はこの男についていくことにした。
ちょっと昨日から寝てないんで、続きは少し後に書き始めます。
ガッツいちもつさん、待っていてください。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話