中編5
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ある死神の話

『死神』の役割は極めて単純だ。

死神よりさらに上の存在が決めなさった、

人間の『寿命』とやらが

尽きた人間の魂を

刈り取ってしまうのだ。

今日が命日とも知らないで、

アホ面してる人間の魂を

刈り取ってしまうのは爽快だ!

さぁさぁさぁ、

今回のターゲットを見つけたぞ。

まだ小さいガキだな。

『上』から渡される

ターゲットの情報欄には、

『病死』と書いてある。

成る程、確かに衰弱してるな。

そろそろ刈り時というものだな。

だが、いつもどおり、

さっさと刈ってしまうのも

なかなか面白いのだが、

もっと面白い方法はないかな?

より爽快に…、そうだ!

幸せの絶頂からのどん底!

これだ。

人間のアホ面を拝むには

一番の方法じゃないか。

とある病院の一室。

『一郎、また来るからね。』

病室のベッドで横になる幼い息子に、

母親は優しく微笑む。

『うん、またね。』

少年――一郎は、

無邪気な笑顔で答える。

それに母親は、

かえって胸を締め付けられる。

息子はもう長くないと、

担当医が言っていたのだ。

母親が帰った後、

一郎は母親に買ってもらったおもちゃで

1人で遊び始めた。

よし、今から俺の作戦決行だ。

まず手始めに…そうだな…。

『やぁ、一郎くん。』

俺はガキに声をかける。

それにガキは驚いた様子だった。

そうそう、そういうアホ面が

俺は好きなんだよ~。

なんて言ってしまったら

作戦はぶち壊しだ。

『おじちゃん…どこから入ってきたの?』

『誰がおじちゃんだ!

おにーさんと呼べ。』

『おにーちゃんは誰?』

『おにーちゃんはなぁ、

ひとりぼっちの一郎くんが

寂しがるといけないから、

神様に言われて一郎くんのお友達に

なりに来たんだよー。』

突然部屋に現れた男が

こんなこと言い出したら、

まぁ普通は120%

不審者だろうな。

『知らない人と話しちゃいけないって

ママに言われてるんだ。』

ほらな。

最近はこんな小さいガキまで

警戒心が強いのだ。

『一郎くん、心配しなくていいよ。

おにーちゃんは、

プレゼントを持ってきたんだ。』

そう言って俺は、

予めその辺の店からパクってきた

おもちゃを差し出した。

『あっ、パワーレンジャーだ!』

食い付いた食い付いた♪

この年のガキは、

戦隊ものが好きなんだろ?

『ありがとうおじちゃ…おにーちゃん。』

『いいからいいから。

それより、一郎くんは病気なのかい?』

『うん、そうなんだ。

でもママはね、

もうすぐで治るって

言ってたんだ。』

『へえ、それはよかったねぇ一郎くん。』

ばーかばーか。

お前は助からないのさ。

俺がお前の魂

刈っちまうんだからな。

『一郎くん、君はきっと

よくなるよ。きっとね。』

『ありがとう。

それと、おにーちゃん。

僕、ケーキが食べたいんだ。』

『ケーキ?

ママに買ってもらえば

いいじゃないか?』

『病気に悪いとかで、

いつもダメって言われるけど…、

もうすぐ治るんならいいよね?』

これはチャンスだ!

よし、ケーキを食べて、

具合が悪くなってご臨終。

幸せの絶頂からどん底だ!

シナリオが見えたぞ~♪

『よし、一郎くん。

ケーキをあげよう。』

俺は別の場所から

ケーキをパクってきて

ガキに与えてやった。

『ありがとう!!』

満面の笑みのガキ。

さぁ食え食え。

そのまま体調崩せ♪

『そうだ、ゲームしよう、一郎くん。』

『うん、する~!』

ケーキ食いながら、

楽しく遊んでる最中に

容態が急変…。

くくく、完璧だ。

『じゃあ、しりとりしようよ、おにーちゃん。』

『わかった、それじゃあ、……りんご。』

『ごりら。』

『らくだ。』

『だいこん!』

『一郎くん、「ん」ついちゃったよー。』

『あ、本当だ!あははは。』

『あははは…』

頭悪いなこのガキ。

とっとと体調崩せ!

『カメラ。』

『らっこ。』

『ココア。』

『「あ」かぁ、うーん、うーん。』

こいつケーキ平らげたのに

全然元気じゃねーか。

しりとりも飽きてきたし…、

いっそ普通に刈るか?

『一郎くん、そろそろ、

おにーちゃん帰る時間だ。』

『えぇっもう?』

『ごめんね、また来るよ。』

くっ…、もっと簡単に

面白いもんが見られると

思ってたのにな。

『おい、いつまでも

何やってんだよ。』

振りかえると、

別の死神がいた。

『いつまでもお前が

モタモタしてるから、

代わりに俺が

あのガキ刈りに来たぞ。』

『はぁ?

あれは俺のもんだ。』

『なんだお前、

情が移ったのかよ。』

『移るか馬鹿!

とにかくあれは、

俺のターゲットだぞ!』

ここまで色々したのに、

他の死神に刈られてたまるかぁ!

『馬鹿馬鹿しい…。』

その死神は「鎌」を取り出して、

病室へと向かっていく。

『待てコラァ!』

俺も「鎌」を取り出して、

その死神の行く手を塞ぐ。

『やんのか、てめぇ。』

『一郎は俺の獲物だ!』

よくもまぁそんな

くだらない理由で、

あんな死闘ができたよ…。

人の魂刈るための鎌で

死神が斬り合うなんて…。

相手の死神は殺してしまったし、

俺もこんな致命傷を…。

馬鹿馬鹿しい。

あ~、馬鹿馬鹿しい。

あのガキのアホ面

見たいだけだったのに。

笑顔しか見てねぇよ…。

そのまま、

俺の体は消滅した。

『先生本当ですか!』

一郎の母親が声をあげる。

『えぇ…、

レントゲンを撮ったら、

一郎くんの病気が、

回復に向かってるんですよ。』

母親は大喜びで

一郎の病室に向かう。

『一郎、一郎!

よかったわね、

あなたの病気は

きっと治るわよ。』

『……。』

『どうしたの?

ど、どこか悪いの!?』

『おにーちゃん、

また来るって言ったのに。』

『え?』

一郎は窓の外を眺める。

『おにーちゃん、

しりとり、

まだ途中だったよね。

また続きやろうよ。

僕の「あ」からだったよね。』

一郎は笑顔で言う。

『「あ」りがとう!』

怖い話投稿:ホラーテラー テティさん  

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