中編5
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思い出の女の子

最近視線を感じる。

気づいたのは駅前の書店だった。

いつも買っている週刊誌の発売日だったので、店に入りすぐレジに向かったのだが、背中越しに誰かに見られている感じがした。

振り向けば小さな女の子(5〜7才くらい)が立っていた。

白いブラウス?に赤いスカート、肩までの短い髪で笑顔を浮かべずっと見ている。

どっかで見た事あるな?という印象だった。

会計を済ませ、俺が「こんにちは」と言うと女の子も「こんにちは」と挨拶してきた。

ロリコンではないが『可愛い子だなぁ』と思っていると、女の子は頬を赤く染め「ありがとう、お兄ちゃん♪」と言った。

「えっ?」俺は驚いた。

まさか心の中を読んだ訳じゃないだろうな?とバカな事を考えた。

「うふふ」女の子は両手で口を塞ぐように笑ったいた。

少し怖くなった俺は、「じゃあね、バイバイ」と右手を振り店を後にした。

女の子は少し悲しげな笑顔で手を振っていた。

それから一週間後、俺はあの書店に来ていた。

また女の子はいるだろうか?と思っていると、文房具コーナーから視線を感じる…

見るとあの女の子だった。

あまり関わらない方がいいな、と俺は気づかないフリをして店を出た。

車に乗り込もうとすると、「お兄ちゃん♪」と声をかけられた。振り向くと女の子が助手席側にいた。

俺は引きつった笑顔で「どうしたの?お母さんと一緒じゃないの?」と聞くと

「私1人だよ。お兄ちゃんにちょっとお願いがあるんだけど…」と恥じらいながら言う。

「な…なに?」嫌な予感がした。

「お兄ちゃん家に連れてって♪」と満面の笑顔。

俺は誰かに見られて誘拐犯にされたら適わないと、「知らない人に付いていったらダメだよ。お母さん心配するよ」と最もらしく言う。

「お父さんもお母さんもいないの……私ひとりぼっちだから……ねぇ、どうしてもダメ?」と泣きそうな顔になった。

可哀想だけどこの子の為に良くないと思い「ごめんね、連れて行ってあげる事は出来ないよ」と言うと

「……分かった……でもお兄ちゃんやっぱり優しいね」と少し笑顔をみせ

「お兄ちゃん、一つだけ約束して。今日はMお姉ちゃん(俺の彼女)の家には行かないで…絶対…絶対だよ!!」

「えっ?なんでMの事知ってるの?なんで…」と言いかけると女の子は透き通るように消えていった。

俺は驚きを隠せず立ち尽くしていた。

今日はMの実家でMの両親と4人で、親父さんの退職慰労会をする予定だった。

行くなと言われても…

父親のいない俺を実の息子のように可愛がってくれた人だ。お袋さんも明るくて優しい。

長年勤めた会社の定年を迎え、これから第二の人生を祝う門出なので行かない訳にはいかない。

気にはなったが、時間通りMの家に向かう事にした。

7時頃着いて、みんなでワイワイとご飯を食べていた。親父さんは「〇〇くん、今日は泊まっていくだろう?」と上機嫌で言った。

酒も入り女の子との約束も忘れていた俺は、明日は休みだし泊まる事にした。

夜中1時頃だったと思う。なんか焦げ臭い、息が詰まるような匂いで目が覚めた。

!?黒煙が立ち上っている。火事だ!!

見まわすと隣で寝ていたMがいない。部屋を出て階段を下りようとしたが、物凄い煙でとても下りるのは不可能だった。

「M〜!!」俺は叫んだ。

呼吸が苦しくなってきて、『みんな死ぬのかな…』と思っていると

「お兄ちゃん!こっち!こっちに早く来て!」

あの女の子が窓辺に浮かんでいた。

「お兄ちゃん、ここから飛び降りるの!早く!」

気が動転していた俺は「Mは?親父さんやお袋さんは?」と聞くと

「みんなもう死んじゃったよ…私、お兄ちゃんには死んで欲しくないの!早く!」

ショックだった。

大切な人がみんな死んでしまった。

俺はへたり込んで意識を失った。

目を覚ますと病院だった。俺の両親と弟が「よかった!本当によかった!」と抱き合っていた。

Mと両親が亡くなった事を知ると、俺は涙がとめどなく流れた。

火事の原因は親父さんの煙草の不始末だったようだ。

Mは階段の下で倒れていたらしい。

学生時代からの付き合いで結婚も考えていたM、いつも温かく迎えてくれたMの両親の死。

俺は一年経っても立ち直れなかった。

Mの死後会社を辞めた俺は引き籠もりがちだったが、一周忌にMらの墓参りに出かけた。

墓前に手を合わせお参りをしていると、「お兄ちゃん♪」と呼ぶ声が聞こえた。

振り返ると、うしろにあの女の子が立っていた。

俺は懐かしい気持ちがこみ上げて来たが、それと同時に疑問が浮かんできた。

それを女の子に聞こうとすると、俺に手のひらを向け言葉を遮るように

「ごめんね…あの事故は防ぎようがなかったの…お姉ちゃん達が亡くなるのは決まっていた事なの……でも、お兄ちゃんは違う!だから私……」

「ありがとう…でもMが死んでから俺の時間は止まったままだ…あの時一緒に死んでいたら……」

すると女の子は「たか兄ちゃん(仮)!ダメだよそんな事いっちゃ!Mお姉ちゃんが聞いたら悲しむよ!お兄ちゃんには幸せになってもらわないとダメなんだから!」と泣きながら言った。

なんで俺の名前知ってるんだ?それに前にも思ったけど、俺はこの子を見た事があるような気がしていた。

・・・・・思い出した!

小学校の時仲の良かったFの妹のTちゃんだ。

体が弱く学校も休みがちだったTちゃん、俺が遊びに行くといつも「お兄ちゃん遊んで♪」とせがんでた。

俺も妹のように可愛がっていて、とても懐いてくれていた。

俺が4年生の時Tちゃんの病状が悪化して、大きな病院がある都市に引っ越ししたのだが、急だったので別れ際に会えなかったのだ。

引っ越ししてまもなくTちゃんが亡くなったと聞いていた。

「Tちゃんだったんだね…」そう言うとTちゃんは

面影のある笑顔で「たか兄ちゃん元気でね。あの時お別れ言えなかったけど……たくさん遊んでくれてありがとう。これで本当にさよならだよ」

そう言うとTちゃんはすーっと消えていった。

俺は涙が出てきた。

「Tちゃん、俺の方こそ助けてくれてありがとう。俺必ず幸せになるよ。だから心配しないで。さようならTちゃん」

俺はTちゃんの消えた澄んだ空に向け語りかけた。

怖い話投稿:ホラーテラー 蒼天さん  

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