短編2
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追憶の粉

ある店の前で男は苦笑いを浮かべた。

男は全てが嫌になり薬に手を出した。

稼いだ金は全て薬に化けた。

そのうち金が尽きた。

付き合っていた女に金を無心し親を騙し薬をやり続けた。

破滅はすぐにやってきた。男は好きな女と家族、それに帰る場所を失った。

1人になった。

孤独を紛らわすには薬しかなかった。

だが金が無かった。

禁断症状で手が震え吐き気と汗が止まらなかった。

売人に土下座をし、お前にはプライドがないのかと罵られ一回分だけ恵んでもらった。

悔しかった。

薬の誘惑に勝てない自分が情けなかった。

混濁する意識で鉛のように重い足を引きずり薬をやる場所を探す自分を呪った。

どれくらい歩いたか解らない。

気が付くとある店の前にいた。

不思議な雰囲気に導かれドアを開けた。

店の中には用途の解らない物から見馴れた物まで様々な物が並べられていた。

「いらっしゃいませ。貴方は初めてですね。ここは会員制なんですよ」

初老の男が目を細めた。

「えー、貴方には会員になる資格がございません。本来なら店にはお通ししません。ですが、貴方は例外です」

禁断症状で半分しか理解が出来なかった。

「貴方は、この店が欲しがる物を持っている。いえ、正しくはこの先に持つ事になります」

この先に持つ物……

霞が掛かった頭で考えたが解らなかった。

「それは貴方が死んで初めて価値が出ます。そうですね、破滅の粉とでも名付けましょうか」

男はゾッとした。

じわじわと死の恐怖が体を支配する。

「貴方が死ぬまでの間は会員様と同じ特典が得られます。どうぞ、ごゆっくり見ていってください」

少しだけ禁断症状が弱くなった気がした。

そしてある物に目が止まった。

「ああ、それは……」

男は話に聞き入った。

店主の話は薬を忘れる程の不思議な魅力があった。

男は店に通うようになった。

店主の話を聞く内に薬から少しずつ遠ざかれた。

ほとんど薬の事を考えなくなった時、店主は言った。

「今の貴方は特典を使用する事が出来ません。その代わり会員になる資格がございます。どうなさいますか?」

男は勿論……

馬鹿だった頃の自分を思い出し苦笑いを浮かべ店のドアを開けた。

怖い話投稿:ホラーテラー 月凪さん  

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