短編2
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派遣会社2

電話で目が覚める。

会社からだ。

「お仕事です。」

オレはついてる!月に二度も仕事が来るなんて。

しかし、その思いもすぐに消えた。

会社を馘になり、妻や子供と別れ、毎日どうにか生活している自分がこんな小さな仕事をしているのはついていない部類に入るだろう。

担当の女性はいつものように依頼人の名前、仕事内容、時間と場所を丁寧に伝え電話を切った。

着替えを済ませ、コーヒーを一杯飲むと仕事先へ向った。

今回の仕事は病院のようだ。依頼人がいる部屋に入ると、ベットに老婆がねており、その周りを依頼人とその家族が取り囲んでいた。

一人の男はパイプ椅子に腰をおろし老婆の手を握っている。

とりあえず空いている丸椅子に腰をおろし老婆と家族を見た。

老婆は手を握っている男に何か話している。

所詮は死に逝くものの戯言だと聞き流した。

さて、そろそろ仕事を・・・。

そう思った時、老婆が発した言葉に体が震えた。

「そんな顔しないで。笑って見送って。」

それは妻が家から出て行く時、言った言葉だっだ。

そうか。この家族にとって老婆は別れた妻と同じなのだな。

いなくなってしまうと分かっていても心のどこがではまだ一緒にいて欲しいと思っている。一日だけでも・・・。

老婆と家族を別れた妻と自分に重ねあわせるなんて自分はバカだなと思った。

音をたてて立ち上がった。

その時だ。老婆の心音が早くなり、呼吸が安定しだした。

老婆も一日でも長くこの家族といたいのだな・・・

手を握りながら涙を流している男に

「一日でも大切にしてやれよ。」

と言い、依頼人の女に頭を下げ死神派遣会社に戻った。

その後、会社からは大目玉をくらい給料も振り込まれる事もなかった。

聞いた話によると、次の日に別の社員が老婆の魂を取りに行ったそうだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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