昔、元カノと同棲していた時期が在る。その頃の話だ。
その日、僕は購入して来たばかりのオカルト漫画を読みながら、ベットの上でゴロゴロしていた。(「座敷女」と言う都市伝説をモチーフとした作品。)
「シャワーに入って来るね?」
彼女はそう言って、浴室に消えた。
僕が熱中して漫画を読んでいると、
「…ちょっと、ヤダ!…見ないでよ!」
と言う彼女の声が聞こえて来た。見れば、成る程、浴室の扉が開いている…。
「覗いて無いよ?」
そう言って、漫画の続きを読み始める。暫くすると、シャワーから出て来た彼女が、僕の方に近付いて来る。
「さっき…覗いてたでしょ?」
はにかみながら、そう言った。…が、僕は漫画を読んでいただけだったし、日によっては一緒にお風呂に入る程の仲なのに今更、コソコソする必要も無いでしょう?
「…だから…覗いて無いって…。」
「えっ?でも、確かに覗いてる二つの目が見えたんだけどな?…幽霊かな?」
元カノは霊感が強く、三代に一人「潮来」になる家系の女の子だったから、普通に「見える」のだとか…。「見る」気になれば、人のオーラなんかも見れたらしい…。しかし、この部屋で生活し始めてからのこの数カ月、そんな事(霊的な話)を言う事は無かったし、何よりも自分の生活圏内での事だったから、少し怖くなった。
「…ん?あぁ、大丈夫っ!多分、私に憑いて来ちゃっただけだから…。」
僕の不安な心の内を見透かした様に彼女はそう言って、笑った。
「その漫画、面白かった?」
彼女なりの配慮だったのだろうが、生憎とこの漫画は、ホラーだ。しかも、僕の様なアパート暮らしには要らぬ想像を掻き立てられてしまう様な作品だ…。
全ての始まりは…「インターフォン」なのだ…。
僕は、適当にお茶を濁すと、そのまま布団に潜り込んだ。まぁ…自然と、「大人の時間」に突入した訳だ…。
行為を終え、眠って居ると…
「ピンポーン!」
インターフォンが鳴った…。
ハッ…となって、時計を覗き込むと、深夜の3時だった。誰かの来る様な時間では無い…。
「…ねぇ?今さ…。インターフォンが鳴ったよね?」
彼女を揺すって起こすが、
「鳴って無いよ?」
と言うばかり…。そうだ…。きっと、漫画の影響で「聞こえた」気がしただけだ。霊的な物ならば、彼女に聞こえない筈が無い…。
自分に強く、そう言い聞かせ、もう一度眠りに就いた…。
次の日、前日の事は殆ど意識せずに過ごした。夢か、やはり漫画の影響だと思っていたからだ。夜になり、布団に入る頃になっても、その想いに変わりは無かった。
その夜…
「ピンポーン!」
インターフォンが鳴った。間違い無く、鳴った!時計を見ると、深夜の2時を回った頃だった。
「ねぇ?今…インターフォン鳴ったよね?」
すると、彼女は状態を起こし、
「私には聞こえ無かったけど、心配なら、私が見て来てあげるよ…。」
そう言って、玄関に歩いて行った。彼女が覗き穴を覗く…。
「…ねぇ?君の知り合いに白髪のお爺さんって、居る?」
黙って、首を横に振ると、
「それじゃあ、やっぱり、私に憑いて来ちゃっただけだから、気にしなくて良いよ。」
彼女はそう言って、ベットに戻ってしまった。
次の日、そう言えば、昨日はお盆だったね?…との彼女の言葉に少し肌寒いモノを感じた…。
…が、「見えない」僕としての一番の恐怖は、その日以降、意識して居ても全くインターフォンが深夜に鳴る事が無かった…と言う事だ…。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話