中編7
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畳の音

●今回は霊関係の怖い話です

●自身の体験ではないです

●長文です 任意でお願いします

ご了承のうえ どうぞ。

(元)大学助手です。

大学事務員もそうですが、社会に出てからこのかた接客業にしか就いたことがないので、人間関係の怖い話は腐るほど経験がある。

しかも、そのほとんどが生々しい。

まあ  人間ですからね。

幸運と捉えるべきか、残念(?)と捉えるべきか、霊関係の恐怖体験は1回も無いのが現状。

過去に飼っていた猫らしき存在に遭遇したのが唯一にしてギリギリの霊体験ですかね。

中学校時代は、家の近所にある心霊スポットの廃ビルに入り浸って遊んでいた(注:心霊スポットだとは後々になってからネットで知った)にも関わらず、その頃の悪友共々一度として霊現象に悩まされることもなく今もピンピンして生活しています。

※(大学時代試しに、霊感があると噂の友人をその場所に連れていったらボロボロの破片しかない窓を見て「窓が全部きれいに残ってる!」と泣き出してしまったので、どうやら本物の危険地帯だったと改めて認識)

しかし、自身では経験できなくとも周囲に人が居れば【話を聞く】ことはできる。

今回は学生達から収穫した「怖い話」をひとつ。

その体験をしたのは当時、大学4年だった男子学生(以下、H)。

男らしいきれいな顔をした男の子でした。

彼は助手に懐くタイプの子だったので、放課後や空き時間にはよく友人連れで研究室に来ては雑談をしていくのが日課。

ある日、いつものように研究室にやって来た彼らと雑談していると、何気なく会話の流れが【怖い話】に傾いた。

各々「どこどこの心霊スポットに行った」だの「あの遊園地は出る」だの当たり障りの無い怖い話をして盛り上がる中、Hが突然

「俺・・・・一回だけホンモノ見たよ」

とポツリとこぼした。

Hはダンスパフォーマンスを仕事とする就職を目指している子だった。

高校半ばくらいまではダンスの世界で芸能界を目指していたらしく、ダンス専門の養成所に通っていたそう。

『ホンモノ』に出会ったのは、その頃の話。

彼が中学2年のある夏、沖縄で行われたスクールの強化合宿に参加した時のこと。

合宿にはかなりの人数が参加しており、合宿中は民宿のようなところを一軒丸々貸し切って生徒・講師・関係者全員が同じ屋根の下で一週間ほど生活をする。

部屋割りは同性の同年代にザックリ分けられ、彼もまた同年代の男子・計6名ほどのグループになり、楽しくもハードな合宿生活を送っていた。

ある夜。

仲のよかった男の子とHの2人で持ち込んだ夏休みの宿題ドリルを片付けていた。

ダンス合宿は体力あふれる子供にとってもかなりハードな生活。

朝起きてからの一日のリズムは6割ちかく踊って、踊って、踊って、踊って、残り4割で遊んで、食べて、寝る状態。

勉強のために部屋の明かりをこうこうと点けた状態でも残りの同室メンバーはぐっすり眠ってしまっていたそうだ。

同室の仲間を起こさないよう小声で話しながら宿題と戦うH。

「その時から、もう変なことがあったんだけど・・・・全然気にしてなくて」

視線が定まらないHは終始人当たりよく笑ってはいるが 目の表情が暗かったのが妙に怖かった。

―――――ざり・・・・

と、畳をこする音が度々聞こえたそうだ。

民宿はスタンダードな沖縄家屋。

寝起きする部屋はすべて畳造り。

床になにかこすれる度に特有の『ザリザリ音』がする。

が、その時点では隣の友人が足を動かしたの、寝ている連中の寝返りで布団がこすれたの、程度にしか感じなかったので気にもとめなかった。

そのうち夜も深夜一歩前くらいまで更けてきた。

いい加減、明日のレッスンもある。 Hら2人も部屋の照明を消し、隣同士の布団に入って眠る体制になった。

―――――ざり・・・・

また聞こえた。

並んだ布団の一番端に陣地をとったHの足元から。

この時点で「なにか」不気味なものを感じたらしいが、無理やり気にしないことにして眠ろうとする。

しばらくし、昼間のレッスンで疲れた体の睡眠欲に勝てずにうつらうつらしてきた時・・・・

―――――ざり・・・・

自分の寝ている頭上から聞こえた。

布団は一列に同じ方向で部屋の中に敷きつめられている。

自分の頭上スペースには誰も寝ていない。

バッと意識が覚醒し、上半身を起こしたところで隣に寝ていた友人も一緒になって身体を起こしてきたそうだ。

お互い目を見合わせると強張った表情の友人から一言

「・・・・回ってねぇ?」

なんの事かと考えようとした次の瞬間、Hも彼の言葉を理解できた。

―――――ざり・・・・

自分の布団の隣。

友人らの寝る場所の反対側。

誰も寝ていないスペースからあの音が聞こえた。

『音』が自分達の布団の周りをぐるりと一周している・・・・。

そう気付いた。

恐怖でお互い布団の上に身を寄せて固まる。

その間も『音』は確かに彼らの周りを少しずつ進む。

次の瞬間、体が凍るほどの恐怖を感じたそうだ。

『音』が友人の、さらに隣に寝ていた男の子の体を《貫通》したのだ。

その場所には寝息を立てる同室のメンバーが布団と共に横たわっている。

それなのに『音』は障害物を無視して、彼の身体の下にある畳から聞こえてきた。

虫の這う音。 建物がきしむ音。 それらでは説明できない未知の存在に2人ともその場を立って逃げることすら出来ずに、ひたすら布団の上で互いの肩にしがみついて目を閉じ、震えていたそうだ。

寝ている同室のメンバーにも起きて欲しかったが、彼らを起こそうと声を出したり動いたりしたら『音』に気付かれてしまうような気がして出来なかったと語っていた。

目を閉じ、体を固めることで、五感の「聴覚」が冴えてしまい、知りたくもない『音』の存在が細かく伝わってきた。

『音』は丁度、荷物がパンパンに詰まった旅行バッグを引きずっているくらいの質量に感じたそうだ。

さらに、よくよく聞くと、『音』は一番大きな音をたてて畳にこすれる前に、小さくこすれる音とセットになっていた。

――ズッ ざり・・・・

――ズッ ざり・・・・

と、いった具合だ。

『音』は相変わらず不規則にくり返し、自分達の周りを進む。

だが、少しずつ進むスピードが早くなっていると感じた。

≪這っている≫

突然 そうHは気付いてしまった。

とうとう目を開けてしまい、『音』のいる方向へ目を向けたときに見たのは

ボンヤリと暗い室内で、畳の上に横たわるカタマリ。

そこから伸びた2本のくの字の棒。

棒が一本少しだけ前へ進み畳をとらえる。

―――――ズッ

棒に重心をかけるようにカタマリが前へ進む。

ざり・・・・

ほふく前進で這う 人の上半身だったそうです。

ショックで頭がクラクラしたような眩暈を感じ、次に気付いたときには友人と互いにしがみついたまま布団に倒れ込んでいた。

外はもう明るくなっていたのに気付くと涙が出てきて止まらなかったそうだ。

倒れ込んでいる友人に声をかけるとすぐに目を覚まし、Hと目が合うとあちらも泣き出した。

幸い、友人のほうは『音』の正体は見ていなかったらしく、Hが気を失うより前に意識が飛んでいたことが後になってわかった。

先に起きだした同室のメンバーは、二人で泣きじゃくる様子に驚いて大人達を呼びに行き、続いて起きてきたその他のメンバー達も訳のわからぬまま自分達を一所懸命なだめ、訳を訊いてきてくれたが、涙も震えも止まらず全く喋れなかったそうだ。

合宿所は蜂の巣をつついたような大騒ぎになり、その日の午前中は友人二人とともにレッスンを休ませられ、引率の講師からの事情聴取が延々続いた。

そこに民宿の関係者のお爺さんが割って入ってきて二人の話を詳しく訊いてきた。

普通、客の評判が命な宿泊施設にとって、自分達の民宿に「幽霊が出た」なんて言おうものなら渋い顔をして怒るか「気のせい」とすっ呆けるものだろうが、お爺さんは不思議と二人の話をすぐ信じてくれたそうだ。

「怖かったろう」と二人を慰めてくれる言葉に安心し、また泣いてしまったらしい。

その日からの夜は、二人には別の部屋があてがわれ、誰かしら大人が同じ部屋で寝てくれるようになった。

ビクビクしながら夜を過ごしたが、あの夜以来なにも起こらなかったという。

一方で、何も知らぬその他の合宿メンバー達はこぞって二人の泊まっていた部屋におしかけ「幽霊が見れる!」と、半ばお祭り騒ぎをしていたという。

のん気な彼らに内心二人は腹が立って仕方なかったそうだ(笑)

合宿最終日を迎え、民宿を後にする彼らにあのお爺さんが近づき「もう大丈夫か?」と訊いてきたそう。

すでに元気を取り戻していたHが「大丈夫です」と返事をすると、二人に一言だけ

「ごめんな 沖縄はそういう場所なんだ」

と、優しく言ってきた。

「最初は「沖縄って心霊スポットだったのか!?」って、ビックリしたけど・・・・今はなんとなく爺さんの言葉の意味がわかる気がする」

と、語るH。

お爺さんの言葉は今も強く残っていて、あれほどの恐怖体験をしたのに不思議と沖縄嫌いになることは無かったという。

ただ、中学の思春期男子だった自分にとって人前で大泣きしたことは今考えても顔から火が出るような思い出だ、とはにかんで笑っていた。

Hは卒業後も『m』の付くSNSで助手メンバーと交流を持っていた。

「念願のダンス関係の仕事に就いた」と知らせを受けたのは,彼が卒業した次の年。

就職先は、千葉のとある『夢の国』。

世界的アイドルと共に、日々夢と魔法を振りまく彼の日記読みたさに研究室のPCから毎日アクセスしていたら総務課にバレて注意された(笑)

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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