長編9
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立ち入り禁止

高校生の頃、単車を乗り始め、いろんな場所に行ける喜びを噛み締めていた。

その日は集会が無くなり、溜り場に集まっていた時に仲間の聡(仮名)が、

『〇〇山の廃ホテルに立ち入り禁止部屋が有るの知ってる?』

そんな話を始めた。

その廃ホテルは首吊り自殺をした社長が夜な夜な、ホテル内を彷徨い歩くとの噂される、地元では有名な心霊スポット。

地元の若者なら必ずと言って良い程、一度は行っている場所。

皆は一瞬考え、確信のもと顔を横に振った。

聡も同位するように、

『俺も見た時、こんなん有ったっけ?と思ったさ!

何度も行ってっから…。でも有ったんだよ。3階の一番奥にある部屋に《立ち入り禁止》の看板。』

つい最近、行った奴は聡だけ。

集会もオジャンになったし、暇潰しに確かめに行こうとなった。

しかし、行くまでに単車が総勢15台も走れば、ちょっとした集会になっちまい、パトカーに追われちゃったのは言うまでもありません。

しかし、行く所は解っている為、心配はしてませんでした。

このバラバラになったのが後に運命を変えるターニングポイントになる。

しかし、この時点では誰も知る余地はありませんでした…。

現場に着くと別れたメンバーは来ていません。

一緒にいるのは俺をいれて4人。懐中電灯を持っていたので先に入る事にしました。

改めて廃ホテルを見るとやはり不気味な姿をしていると思った。建物の真ん中に大きな玄関。その両サイドには彫刻が置いてあるのがまた恐怖感を漂わせます。

中に入り、広いロビーを抜けてエレベーターの脇にあるドアを開けると、従業員専用と思われる階段が有りました。

ドアを開けた瞬間に嫌な空気が辺りを包みこんでいるのが肌で感じました。

真夏なのに、寒い!と思い、誰しもが「こっちじゃ無くてメイン階段から行こう」と言い始めた。

1階・2階と回って3階に上がる階段に差しかかった時だった。

ギィィ〜。

バタン!!

カツン…カツン…カツン

誰か来る!

俺は一緒にいた奴等に、(隠れろ!電気消せ!)思わずそう言ってました。

自分に霊感なんぞ無いのは解っていた。しかしこの時は霊感ではなく直感が働いた。

階段横に有るソファーの裏に隠れ、立ち去るのを待ちました。

カツン…カツン…カツン

近くなるにつれて、(幽霊だったらどうしよう…。隠れてたって解っちまうかも…。)そんな事を思っているとだんだんと足音が大きくなり、人影が見えてきました。

2人の男性らしき人影でした。

足音が遠くなった所で再び顔を出した。

『幽霊じゃ無かったなぁ』などと話ながら3階に上がろうとした時に誠(仮名)が一言、

『ちょっと、ヤバくない?上に行かない方が良い気がするよ…。

さっきの2人の正体だって何者かも判んねぇんだからさぁ…。せめて皆が来るまで下で待たねぇ?』

今度は徹(仮名)がいきなり、

『下!た、単車!置いてあるのが、ばれる!』

そうです。

単車を見られたらこの廃ホテルの中に入っているのがばれてしまう。

その時でした。

カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン

勢いよくこちらに向かう足音が館内に響きわたりました。

誠・「に、逃げるぞ!」

俺・「何処に!?」

徹・「エレベーター脇に階段あったじゃん!」

俺・「えぇ〜!?あそこ?」

そう言ったのも束の間、皆に連れられエレベーターに向かった。

ドアノブを回したその瞬間、

鍵がかかって開きませんでした。

徹がエレベーターのドアに指先を入れ、力一杯動かした。

ブゥワ〜ンと開き、人一人が入れるスペースができました。

ラッキーな事にエレベーターの天井部分がそこに有りました。

ドアを閉めて耳をあてて外の様子を伺っていると声がかすかに聞こえて来た。

《ガキ共が!単車があった。絶対に見つけ出して、外に出すな!》

何か判らないが、大変な事になったと把握した瞬間だった。

まず此処から出る。それだけを考え、無い頭を振り絞っている時だった。

外の様子を聞いていた茂が、

『今、誰も居ないぞ!チャンスじゃねぇ〜か?』

意を決して外に出ようとドアを開けた。

驚く程にシーンとしていました。

ゆっくり歩き、周りに集中しながら階段を降りようした。

その時でした。

「君達は何者かな?」

真後ろに中年の男性が居ました。

人間、意表を衝かれた時って、ギャアーやウワァーとか出ないんだと勉強になりました。

多分、皆も(見つかった…。)と思ったに違いない。

するとその中年男性は我々にこう言った。

「私はさっきの連中とは無関係だから安心しなさい。あの連中は3階にいるから、今のうちに下に行こう!さぁ、一緒に来なさい。」

そう言うと先程のエレベーター脇にあるドアに手を掛けました。

『おじさん、そこ閉まってたよ。開かないぜ。』

徹が言うと中年男性は、

カチャ…。

開いた。

「こっから降りたら直ぐに立ち去りなさい。あと一つ、君達に頼みたい事があるんだ。警察に行って此処の3階に何か有ると通報してほしいんだ。」

警察に追われたあとだったので躊躇うと、

「電話でいいんだ。その時に、〇〇(人の苗字)に似ている不審な人がいるんだけど、と言えばいい。頼む!」

この場から逃げられるなら何でもすると約束しました。

1階に着き中年男性は、

「ドアを出たらバイクまで振り返らずに走る。

さっきの事、頼んだよ。

いきなりエンジンをかけたら連中にばれるから門を出れば坂だから!

ある程度行ったらエンジンをかけなさい。

それと、此処には二度と来ちゃいけないよ。さっきの事、頼んだよ!。」

俺達は一心不乱に単車が有る所まで走った。

門を出て坂を降りて中腹に差し掛かった時に、下から爆音が聞こえた。

『あいつ等に知らせなきゃ。』

エンジンをかけ、降りて行くとライトが見えた。その時は心から安心した。程なくして合流しました。

あれ?数台足りません。

合流した奴等に聞くと我々と別れた後、また二つに別れたとか…。聡と数名。

すると、かすかに別の場所から単車の音が聞こえてきました。

合流した仲間に先程あった話をして、警察に通報する事を言った。

『本当に信じて良いのかよ。そのオヤジだって怪しくねぇ?普通、あんな所に一人でいる?』

言われればそうかも…。

誠・『でもよぉ、助けてくれた事には変わりねぇよ。俺は一宿一飯の恩義は忘れねぇよ!』

茂・『アイツ等、遅くね?っつか、音しなくなった…。』

茂が言うように単車の音が消えた。

思い出したように徹が、

『聡、別ルートから行ったんじゃねぇ?

ほら、途中で登り一通になる道があんだろう?』

物凄く嫌な空気になったのと、どうしよう?とそこにいる全ての仲間が思った瞬間だった…。

協議の結果、俺・茂・徹・そして後から合流した爺(あだな)がホテルに向かう事となった。

状況を把握している誠が警察に行く事に決定。喋りが上手な誠。ちゃんと説明が出来る上に俺達の代のリーダー格。誠は残りの仲間を解散させ、自らが警察に行く事を告げた。

誠・『いいか…。絶対に無茶はすんなよ!ヤバイと感じたら、それ以上の行動は止めとけよ。警察が来るまで待ってろよ!聡達と合流したら直ぐに逃げろ。』

しかし、いきり立った連中なもんだから集団で行くだの、警察なんか信じられ無いだの言う輩が出てきた。

誠・『じゃあ、皆は連絡が取れるようにカトレア(溜り場の喫茶店であり、仲間内の実家でもある)にいてくれ!何かあったら電話すんから!そん時は深夜なんだから静かにしてろよ!』

やっと皆を宥めた。

この当時は携帯電話なんか無い時代。

今思うと、緊急の時は大変だったなぁと改めて感じる。

そして、出発。

俺達4人はホテルに向かった。

登り一通に入った。

この道は従業員や販納業者専用の道。少しのカーブが有るだけの一本道だ。

登りきるとそこはホテルの裏口であった。

倉庫脇に聡達の単車が置いてあるのを確認。

茂・『聡達、あの裏口から入ったんじゃねぇかな?』

そこにはちょっと重そうな扉が…。

茂がその扉を開けた。

そこは客室につながる廊下だった。両サイドにはいくつもの部屋があり、ドアが開いていたり、閉まっていたり、外れていたり…。

いかにも……という感じである。

廊下を歩いていくと正面玄関に出た。

広いロビーがシーンとしている。メイン階段を見ると薄暗く不気味さを再び、漂わせた。

前回と同じように1階・2階と回って行き、3階にすんなり着いた。   

慎重にホールを覗き客室に繋がる廊下に差し掛かった……、

その時!

ギィィ……。

一番奥のドアが開いた。

『隠れろ!』

それは、捕まえられた聡達だった。

しかし、そこには聡達の他に見たことの無い2人も一緒に捕らえられていた。

爺・『捕まっちまったんじゃねぇか!どうすんだよ!引き帰すべよ!』

茂・『とりあえず、今の情報を知らせる為に爺、お前誠んトコ行って直ぐ来させろ!』

爺・『でも……。』

徹、俺・『いいから行け!早く!』

爺に緊急事態を報告しに行かせた。

奴等は下に行かず、上に上がって行き、物音の聞こえ方からして5階と判断した。

徹・『さっき、聡達の他に2人居たじゃん…。最初に見た奴等じゃなかった?』

俺・『やっぱりそう思った?でもなんで奴等が…捕らえられてんだ。』

茂・『でもさぁ、さっき助けてくれたオヤジ。此処に出てくる幽霊だったんじゃねぇ?あっ!…いや…、噂だとあんな感じかなぁと…。こんな時に話す事じゃねぇよな。ハッハッハッ…。』

ここに来て嫌な事を言う奴だと思った。その時同時に徹と茂を睨んでいた。

5階を目指していき、4階に差し掛かった時に周りの空気が変わった。

冷んやりするんだが重い。

ホールに入り、長い廊下の先を見た……。

霧状の中に男性が居るのが見えた、それも……

宙に浮いている。

だんだん近づいているのが判るのだが、身体が反応しなかった。

心の中で……《敵は此処にも居たか!》

その瞬間、俺の手を引っ張っる何かがあった。

茂・『こっち!逃げんぞ!』

この時ばかりは茂が頼もしく見えた。

そう言えば、誰かが茂は霊感があっていろんな事を知ってるって言ってたな…。

そんな呑気な事はさて置き階段をひたすら降りた。

1階に降り、息を整えた時に茂が一言。

『あれが本物だ!だからさっき助けてくれたオヤジは………………………………………………何モンだ?』

知らねぇよ…。

突っ込むのも止めた。

徹・『エレベーター脇の階段から行くべ。もうあそこしかねぇ。』

(あそこだって雰囲気悪いよ…。)

と思ったが口には出さず行く事にした。

エレベーター脇の階段を上がり、3階に来た時に物音が聞こえた。 

そぉ〜とドアを開けると、

そこには……………、

爺がいた…。

俺・『てめえ、何で此処に居んだよ!』

爺・『馬鹿野郎!単車置いて有るトコに黒塗りのベンツが来たんだよ!ありゃ、ヤクザ者だよ。

絶対ヤバイって!殺されるぞ!早く逃げんべ!』

徹・『聡達を置いていけるか!シャバ憎のお前は早く誠に知らせに行けって!邪魔なだけだ!』

すると茂が、

茂・『いや、爺の言う事も正しいかも…俺達が解決出来る問題じゃねぇ。とりあえず、一時退散しよう!』

カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン

エレベーター脇の階段から聞こえる走って来る音。

俺・『誰か来んぞ!』

すると、奥の部屋のドアがガチャ…と開いた。

(もう…ダメだ…。)

そう思った瞬間、出てきたのはさっき助けてくれた中年男性…。と……その他3名。

「何やってる!来ては駄目だと言っただろう!」

徹・『オジサン、この階段から誰か来る!』

爺・『裏口にベンツが置いてあって……』

「主任、こっちから行きましょう!」

主任?

詳しくは話してくれませんでしたが、その中年男性達は麻薬Gメン。

このホテルの3階は密売者の隠し場所だったらしく、随分前からマークしていたそうだ。

しかし、地元ヤクザに情報が伝わってしまい、密売者の保護も目的だったが一足遅く、偶々出会わせた我々に通報を頼んだと言うわけ…。

その何分か後に警察と合流し、ヤクザ・密売者はお縄となった。

無事、聡達も助けられた。怪我は縛られた擦り傷程度だった。

「まさかあの後、君達の仲間が来るなんて思ってもみなかったし、再び君達が舞い戻って来る事も想定外だったよ。いやぁ、良い経験になった。ご協力有り難う!

それと、危ない事はしちゃ駄目だよ。いいね!」

後日、警察の調書を取られたのも付け足しときます。

聡・『奴等、外人と連るんでたらしくボコボコにやられたぜ!

あのまま俺達もやられていたかもしんねぇな。』

誠・『でも良かった…無事で…うちは肝試し禁止な』

茂・『でもよぉ、あそこの噂、本当だった!

自殺した幽霊が彷徨い歩くの見ちまったもんな!?

なっ!なっ!なっ!なっ!

見たじゃんよぉ〜!』

皆・『もう……止めよ。』

『…はい……。』

【完】

つまらない話に付き合って頂き、有り難うございます。

誤字・脱字・怪文、お許しください。

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