中編4
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憎しみの果てに①

私は小さい頃母親が亡くなっており、父子家庭ながらも妹と3人幸せな日々を送っていました。

そう、あの時までは───

11月24日

小学6年の時、私は塾に通っていて帰宅したのは7時過ぎていました。

玄関を開けると、廊下は電気がついているのに茶の間は真っ暗だったのです。

おかしいな?と思い壁のスイッチを押し茶の間に明かりが灯ると………

目に飛び込んできたのは、目茶苦茶に荒らされた光景でした。

見回すと父が床の上に血だらけで倒れていました。

「父さん!?…」

何度も声をかけたり揺すったりしてもピクリとも動きません。

何がなんだかわからず喚いていると、冷蔵庫の陰から小さな呻き声が聞こえて、見ると妹の美紀が倒れていました。

「美紀!!」

美紀のお腹や胸は真っ赤に染まり、吐血しながら「お兄ちゃん…パパは?」

「喋るな!いま助けてやるからな!」

そう言って救急車を呼ぼうと立ち上がると、美紀は「お兄ちゃん行かないで…痛いよ…死にたくないよ…」と消えそうな声で呟いています。

私は泣きながら電話し救急車を呼んで美紀に駆け寄りましたが、美紀はもう動きませんでした。

その後救急車や警察が来て家は騒がしかったのですが、何も考えられず話す事も出来ず……正直何も覚えていません。

警察は強盗殺人として捜査していました。

部屋は荒らされ父と美紀は全身メッタ刺しにされ……

私の12才の誕生日、父と美紀は俺を驚かせようと茶の間の電気を消して待ち構えていたようです。

テーブルの上にはロウソクを立てたケーキと鳥のからあげ、クラッカーもありました。

優しかった父、兄思いの妹。

家族3人楽しく過ごすはずだった夜に、二人の命は奪われてしまいました。

この世にたった一人取り残された私は涙が枯れるまで泣き続けました。

父と美紀が死んで私は祖母に引き取られましたが、葬式が終わり49日が近づく頃になっても私は泣いていました。

そんな私を見かねた祖母はお菓子や玩具を買ってくれたり、一生懸命話しかけてくれました。

その甲斐あって私は次第に涙を流す事はなくなりましたが、今までにない感情が芽生えてきました。

怒り、恨み…

二人を殺した犯人に対する憎しみに満たされた心。

こんな事した奴を必ず見つけ出して復讐してやる!!

そう思いながら過ごすようになったのです。

事件後、学校は転校して祖母の家から中学〜高校と通わせてもらいました。

学生時代の私は人との関わりを避け孤独なものでした。

私はいまだ犯人を捕まえる事が出来ない警察に苛立ち、手書きでビラを作り休みになると街中でそれを配っていたのですが、それを見ていた同級生がいて、噂はすぐに広がり私に対する嫌がらせが始まりました。

しかし二人の復讐だけを胸に生きてきた私にとっては少しも辛くはありません。

そんな高校1年生の冬、父の死後私を可愛がってくれた祖母が病気で死んでしまいました。

この時ばかりは、枯れたと思っていた涙が止め処もなく流れていたのを覚えています。

いま思い返せば私が流した涙はこれが最後だったと思います。

その後父の弟(叔父)夫婦に引き取られ学校は転校しました。

叔父は昔っから父との折り合いが悪く、私と美紀も嫌っていたのを子供心に感じていました。

亡くなった時も他の親戚が「お婆ちゃんは高齢で大変だから〇〇(叔父)が面倒みてあげなさい」と言ってましたが、叔父は頑なに拒否しました。

今回引き取るのも渋々でしたが、祖母の遺産(父の貯蓄含む)をスムーズに手にする為仕方なしにだったようです。

その後二年間叔父の家から学校に通いましたが、叔父夫婦は私に対する愛情の欠片もなく、口を開けば「誰が面倒みてやってると思ってんだ!?」と蔑んでいました。

二年が過ぎ、私は高校卒業と同時に家を出て寮のある会社に勤めました。

その間も欠かさずビラを配っていましたが、私は給料が出ると印刷所を訪ね正式なビラを作ってもらい休日になるとそれを配る。

市内、地方、連休があると離れた市まで行き配り続けました。

そんな生活が3年ほど過ぎた頃、仕事を終え真っ暗な部屋に戻ると暗闇の中動く人影が見えました。

電気をつけると…

「父さん!?美紀!?」

二人が生前そのままの姿で立っていました。

嬉しさがこみ上げ近寄ると、二人は寂しげな表情を浮かべ何もいわず消えてしまったのです。

私はしばらく立ち尽くしていましたが、カレンダーを見て気づきました。

今日は11月24日……私の誕生日、と同時に二人の命日でした。

何か言いたかったんじゃないのか?

わからないまま年月は過ぎて行きましたが、父と美紀は毎年11月24日になると私の前に姿を現しました。

夢か幻しか…

私にはそんな事はどうでも良かったのです。

ただただそれが嬉しかったのですから。

結局犯人は捕まらないまま時効を迎えました。

その頃私に好意を寄せてくれる女性がいました。

女性は同じ会社のAで、私もAの優しさに惹かれていましたが、Aとの将来を考えると私は前に踏み込む事が出来ません。

私はまだ復讐を諦めた訳ではありません。

たとえ時効が過ぎたとしても、犯人が見つかれば思いを遂げるつもりでいましたから。

そうなればA辛い思いをさせてしまう。

そう考え私は会社を辞めAの前から姿を消しました。

すみません続きます。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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