毎月お題の短編練習枠(🌱初心者歓迎)

皆さんこんにちは。
一向に文章が上達しないふたばです。(´・ω・`)
己の練習に他人を巻き込んでやろうと、掲示板を建ててみました。
以下、ここでのルールを説明します。( ᴗ ̫ ᴗ )

🌱ここは、短編の練習をする為の掲示板です。

🌱毎月単語を3つ、お題として出しますので、短編の「三題怪談」を募集します。

🌱「三題怪談」とは、1つのお話に決められた3つのお題のワードを入れなければならないという“縛り”で御座います。

🌱お話の長さの目安は、原稿用紙2枚分(800字)程度。
(あくまでも目安です、越えてしまってもヨシとします)
文字数カウント↓
https://phonypianist.sakura.ne.jp/convenienttool/strcount.html

🌱お題は毎月一日に更新されます。

🌱提出期限は毎月28日までとします。

🌱お話はいくつ投稿しても構いません。

🌱初心者大歓迎。実際私もほぼ読み専なので、文章が下手っぴです。軽い気持ちでご参加下さいませ。

🌱ここで投稿されたお話は、“ご自身で書かれたお話ならば”怖話の通常投稿にあげても構いません。
寧ろ、多くの方に見ていただけるよう、ここで試し書き、本投稿で完成品といったように使って下さいませ。
何なら他サイトでも投稿されている方は、そちらへあげるのも問題御座いません。
(※他の方の掲示板でも同じとは限らないので、その都度そこの掲示板主へご確認下さい)

🌱題名も付けて頂けると助かります(題名は文字数には含みません)。

🌱感想だけのご参加も大歓迎です。

🌱明らかな荒らしコメントは即刻削除致します。慈悲はありません。

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【5月お題】

「人混み」「電話」「花瓶」

投稿期間 5/1 0:00〜5/28 23:59

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ですがまぁ…建ててみたは良いものの、私が独りで短編を書き続ける寂しい場所になりそうな気がします……

そこで!ちょっとした特典代わりと言っては何ですが、ここで投稿されたお話は、私ふたばが朗読させて頂きます。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
具体的に言うと、YouTubeにてその月に投稿されたお題の回答を、纏めとして朗読してアップします。
素人の朗読ですのでレベルは低いですが、創作意欲の糧になれれば幸いです。( ᴗ ̫ ᴗ )

※朗読されるのが嫌だという方は、お手数ですが文末に「※否朗読希望」とお書き下さいませ。

📚過去のお題アーカイブ
【9月お題】「彼岸」「ぶどう」「ネジ」
https://youtu.be/DlNJ68yKIfA
【10月お題】「十五夜(月のみでも可)」「図書館」「菊」
(※お題提供:あんみつ姫さん)
https://youtu.be/iA4spsQlSMA
【11月お題】「りんご」「子ども」「落ちる」
https://youtu.be/UMVBBrycZqU
【12月お題】「肖像画」「塩」「M」
(※お題提供:むぅさん)
https://youtu.be/MJmFrqUqvj0
【1月お題】 「ウシ」「晴れ」「厄」
https://youtu.be/N0tX10EOJoE
【2月お題】 「僧」「遊泳」「踊り」
Extraお題「怪僧」「宇宙遊泳」「阿波踊り」
(※お題提供:嗣人さん)
https://youtu.be/9j2vK_kKzhE
【3月お題】 「風」「証」「波」
https://youtu.be/zZoV2ce7poU
【4月お題】「サクラ」「窓辺」「人形」
https://youtu.be/kZzfmq8cNvM
【5月お題】「母」「鬱」「川」
https://youtu.be/RNqUE92-K2k
【6月お題】「クラゲ」「雨」「失踪」
https://youtu.be/BM0ataca42E
【7月お題】 「天の川」「亀裂」「写真」
https://youtu.be/RcXTXfzfKUk
【8月お題】「手を振る」「扉の向こう」「呼ばれる」
(※お題提供:ラグトさん)
https://youtu.be/omL3byV-eF0
【9月お題】「アリス」「スープ」「ハサミ」
https://youtu.be/w20FnRK-bQQ
【10月お題】「バラ」「時計」「たばこ」https://youtu.be/g_zxwy1H73I
【11月お題】「無人探査機 」「提灯鮟鱇 」「地引網 」
(※お題提供:ロビンⓂ︎さん)
【12月お題】
「プレゼント 」「空席」「信号 」
【1月お題】
「トラ」「階段」「玉」
【2月お題】
「ネコ 」「チョコレート」「箱」
【3月お題】
「ウメ 」「日記」「歌声」
【4月お題】
「駅 」「看板」「ポスト」
【5月お題】
「灯り」「公園」「針」
【6月お題】
「カッパ」「アジサイ」「自転車」
【7月お題】
「浜辺」「貝」「欄干」
【8月お題】
「ニセモノ」「蝋燭」「指」
【9月お題】
「帰り道」「ビン」「コスモス」
【10月お題】
「先生」「空腹」「筆」
【11月お題】
「橋」「ゾンビ」「忘れ物」
【12月お題】
「足音」「雪」「吐息」
【1月お題】
「ウサギ」「獣道」「目」
【2月お題】
「鬼」「酒」「身代わり」
【3月お題】
「都市伝説」「ピアノ」「ボタン」
【4月お題】
「絵本」「珈琲」「霞」
【5月お題】
「シミ」「地下」「蝿」
【6月お題】
「ダム」「悲鳴」「カエル」
【7月お題】
「夏草」「鏡」「プラネタリウム」
【8月お題】
「漂流」「雲」「ラムネ」
【9月お題】
「神隠し」「お米」「カバン」
【10月お題】
「皮」「警告」「お札」
【11月お題】
「1週間」「影」「オレンジ」
【12月お題】
「ケーキ」「透明」「チャイム」
【1月お題】
「 」「 」「 」
【2月お題】
「穴」「遅刻」「節」
【3月お題】
「足跡」「惑星」「メッセージ」
【4月お題】
「卵」「楽園」「嘘」

※追記:ここのお話を本投稿へもアップされる方へのお願い
🌱先に述べた通り、ここに書いたお話は一般の怖い話にも投稿して頂いて構いません(そもそも著作権は作者のものですから)
🌱一般投稿分は掲示板のレギュレーションから外れますので、文字数を気にせず加筆修正しても何も問題御座いません。
🌱ですが、投稿の際には題名に“三題怪談”の文字を付けないで下さい(同じ企画系列の題名が並ぶとうんざりしてしまうユーザーが現れ、揉める為。実際、過去にそういう事がありました)
🌱また、お題の単語をお話の解説欄に載せると、その単語に気を取られて純粋な短編として楽しめないので、読者的には解説欄には“掲示板より”とだけ書いて頂けると助かります。
(コメントにお題の単語をネタバレ防止で公開するのはアリです)
(ここのページのURLは貼っても貼らなくてもいいです)
🌱代わりに、投稿作のタグ欄に、お題の単語タグ3種と“毎月お題の短編練習枠”タグが知らぬ間に付いております。十中八九私ふたばが犯人なので怖がらないで下さい。

企画というより常設となるこの場所は、細く長く続けていきたいので、何卒、ご理解下さいませm(_ _)m

@ふたば 様
春らしくなってきました。
業界の問題?いずれにせよ、ご無理なさいませんように。
お身体を壊してしまっては、元も子もないですから。

プロットができているのに、書けない、筆が進まないのは、優れた作品が生まれる前の熟成段階なのでしょうね。
コロナ禍の中、一向に終息しない日々に疲労感だけが蓄積されています。
焦らず、弛まず、諦めず…
日々の安寧をお祈りしています。

返信

御疲れ様で御座います(礼)。
御多忙な中だろう皆様の健康を御祈り致しつつ、こちらも明後日より現在地から少々遠く離れた新天地にて業務で、引っ越し準備よりも多量のゴミ出しに追われております(汗)。
さて、先んじて掲載致しました御題の作品をこちらにも御載せ致します。
追記)御題の内の大事な一項目が本文から抜け落ちておりました為、一旦削除致しまして加筆し再掲載しました。
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『弥生三月、不安の渦中』

「いや、胸が痛むね」

「どうしたよ急に」

 クイと酒を軽く呑み込んでから、マスクを着け直した私、岩間祐亮(いわま・ゆうすけ)は同僚の片瀬博務(かたせ・ひろむ)に訊く。新型ウイルス蔓延の中で、少々規制が緩和された為、久方振りに軽く飲む約束を果たす事が出来た。

「新型ウイルスの所為でよ、生徒諸氏が卒業式で合唱すら出来ねェって話だよ。そんでよ、ソビエトがウクライナに攻め込んで、犠牲者なんて居ないって嘘八百言いやがる奴よ。爆弾なんかで子どもを殺して置きながら、ウオッカを煽っての演説か………」

「おいおい、黙食(もくしょく)って書いてるから不味いよ。ロシアなのにソビエト呼びも、更に怒られ兼ねないって。気持ちは痛い程分かるけどね」

 段々とヒートアップする片瀬をなだめつつ、既に7年近く前になる、北朝鮮のミサイル発射に伴う警戒アラートにゾっとした当時と同じ様な、漠然とした不安を、私も抱いている。

 チラっとTVで何が放送されているかを観るも、タレントが歌の上手さを競う中身で、上手いのだがそれ迄でしか無い歌声が、スピーカーから響く。
*******************
 数日後、私は親や親戚と共に、松五郎爺さんとウメ婆さんの居なくなった家の片付けに来ていた。

 相次いで亡くなり、生前彼等の過ごした場所はウイルス禍も有って、手入れこそ伯母等がしてくれているものの、誰彼が泊まりがけで利用するとは、なっていなかったのである。

「このノート、何じゃこりゃ」

 従兄が見慣れないノートを見付けて来る。

 パラパラめくると、どうやら日記の様だ。

 殴り書きと言うか、そこそこ読める文字で何やらズラズラ書き連(つら)ねられている。

『某月某日、マグロを売るなという。原爆マグロという騒ぎが起きて、別な魚で代用せざるを得ず』

「原爆の悲劇と言えば、昭和20年だが………」

 それと無く、知らない顔をして私が天井を向くと案の定、従兄が喰い付いて来る。

「乗組員と一緒に海で死の灰を浴びたマグロか。1954(昭和29)年の3月1日未明に、ビキニ環礁でアメリカが水爆実験をして、マグロを捕ってた第五福竜丸が巻き込まれて乗組員が死の灰を浴びた悲劇だ」

「あんた達、その手の話題で熱くなるのやめなさいよ。早く片付けないと。でも婆さん、確か魚屋で働いてもいたから、その時に書いたのかね………って祐亮、今何か喋ったかい」

「いいや」

 私が無知な振りをする餌を取り付けた釣糸を垂らして、そこに従兄が喰い付いて来る流れを楽しんでいたのを見透かして呆れたか、お袋がブー垂れながら片付けの再開を促(うなが)した後ろで、すうっと白い影か靄(モヤ)みたいなものがこちらを見て、消えた気がした。

 日記を見られた婆さんが何か言おうとして、爺さんに「読まれたくなきゃ処分すべきだったのでは」なんて、たしなめられたのかも知れない。

 ───学生時代に彼等の家で何年か置きに過ごした、御彼岸も近付きつつある陽気の中、私は再び片付けの手を動かし始めた。

返信

@あんみつ姫 さんお久しぶりです( ᴗ ̫ ᴗ )
リレー企画の方でもコメント頂いちゃっていたみたいですね…( ˊᵕˋ ;)💦

私の方はまあ会社の問題というより業界の問題という感じなので、キリが着いたらそそくさと離れて怪談のネタにしてやろうと思います。笑
ただ、それよりも今はリレー企画の方が全然出来上がらなくて屍になっております。なんでプロットが8割出来ているのに書けないのか謎ですが、他の参加者の方を待たせている以上そっちを優先するので、まだ暫くこっちではお題製造機になりそうです( ᵕ̩̩ㅅᵕ̩̩ )

皆様が書いて下さったお題怪談は、どれだけ時間が掛かっても必ず全部朗読します(`・ω・)b‪🌱‬

返信

@ふたば 様
今月も早6日を過ぎました。
お仕事たいへんそうですね。
僭越ながら、コメントを拝見させていただき、ブラックな印象を受けました。
いつも私の心身を気遣ってくださるふたば様ですが、まずは、ご自身のことを第一に、優先してくださいませ。

お題三題 なんとか仕上げてみますね。
春彼岸までに、一作は完成させたいと思っています。
春彼岸シリーズも手掛けてみたいのですが、メンテナンス中の身でして。笑
クオリティについては、あまり高くありません。
怖さに付きましても、いささか、首を捻るような塩梅ではございますが、寛大な心で、お手柔らかに願います。

返信

ご利用の皆様へ🌱
最早お題を出すだけの存在と化したふたばですorz
新しい月となりましたので、お題の更新をさせていただきます( ᴗ ̫ ᴗ )

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【3月お題】

「ウメ 」「日記」「歌声」

投稿期間 3/1 0:00〜3/28 23:59

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3月の花といえば、モモやサクラだと仰る方も居そうですが、始まりの季節という感じがするのはやはり梅な気がします´ᯅ `🌸

ranoさんの仰る通り、私もやはり転職すべきか……

返信

ふたば様
お疲れ様です。
休日も出社…?12時間労働…?ちょっと何言ってるか分からない←
転職案件ですねそれは(^o^)/

返信

ご参加の皆様へ‪🌱‬
2月のお題怪談の締切は、本日の23:59までで御座います。
また、明日から新しい月となりますので、新しくお題が更新されます(л・▽・)л💦

ranoさん今月は2話も有難う御座います。
林檎亭紅玉さんも、このお題に箱を並べた意図を読み取って下さり、有難う御座います。
芝阪雁茂さんのお話もちゃんと読ませて頂いております。

私はそろそろ色んな人に怒られそうだとあーうーしておりますが、遅遅と筆を走らせております。皆様のお話は正直お題怪談しか現状読めておりませんが、投稿がされる度に元気付けられ励まされております( ᵕ̩̩ㅅᵕ̩̩ )
本当に有難う御座います( ᴗ ̫ ᴗ )

……ところで、毎日12時間労働(内休憩1時間)週休二日ではあるものの休みの日も2~3時間程出社の労働環境って、転職した方が良いですかね(・・?)

返信

『臍の緒』

幸代おばさんの話を聞いたのは、だいぶ久々の事だった。
同じ地域に住んでいながら付き合いは薄く、一番最後に会ったのは、確か私が中3で、姉が高2の頃。
会ったと言っても、楽しく過ごしたとかそんな記憶は一切無く、親戚の法要の席で挨拶したぐらいだ。
と、思っていたら…隣で話を聞いていた姉の表情が少し曇った。
「私、幸代さん苦手なんだよね~、ってか…1回、いちゃもん付けられたの」
それは、当時中学生だった夏休みの事。母から頼まれたお使いの帰り道、偶然幸代さんを見掛けて挨拶したのだが…幸代さんは、挨拶はおろか舐めるように姉を見た後、
「娼婦みたいね、みっともないから、そう言う格好やめなさいよ」
と…まじまじ顔を合わせて、言われたらしい。
姉はその時、「娼婦」の意味を分かっておらず、後でネットで意味を調べ、かなり凹んだそうだ。言葉が言葉だけに親にも直接言えず…今になってようやく、私の前でだけ話してくれたのだ。
因みに、姉がその時着ていたのは、フレンチスリーブの淡い水色のTシャツに、膝上丈のデニムのショートパンツと、ラメの入ったピンクのビニールサンダルという、特別露出の無い、年頃の女の子らしい夏の格好だ。なのに…
「突然あんな事言われちゃって、びっくりするわ凹むわで…だから苦手なの…今更、会うなんて気まずいなぁ」
それは、祖母の姉夫婦が相次いでホームに入所し、息子夫婦が家を継いでからだという。
幸代おばさんが突発的に癇癪を起こし、当たり散らすようになったというのだ。
理由やきっかけも様々で、少しでも気に障ると、強めの口調で文句を捲し立てるそうで…一通り言い終わると大人しくなるそうなのだが、いつ怒るか読めず2人共困っている。と…息子さんから私達宛てに、何故か直々に連絡が来たのだ。
「それって、私達が行って解決する話なの?」
と首をかしげたが、「どうしても来て欲しい」という、息子さんたっての願いだと聞き…翌週の休み、乗らない気持ちを何とか持ち上げて、私と姉は、実に8年振りに祖母の姉宅へと向かった。
すると…玄関を上がるなり、早速居間から声が聞こえ、見ると、年の頃50代位の女性が、お嫁さんに向かって、
「これっ!かさばるし邪魔なのっ!ホントやめてよっ!」
と、ソファテーブルの上に置かれた菓子袋を指差しながら、キツイ口調で責めていた。
しかし、お嫁さんが「あっ、ごめんなさい!」と手早く菓子袋を取り上げると…女性は、その手際の良い姿を不満顔で見つめた後…まるで何事も無かったかのようにテレビを見始めた。
その、猫背で曲がった背中と、尖らせた唇…そして、閉じた両足にちょこんと両手を乗せる特徴的な姿勢に…私達はそこでようやく、女性が幸代おばさんだと気付き、話に聞いていた以上の気の変わり様に、思わずドン引きした。
そんな私達の様子を傍目で見つつ、息子さん…以後、藤四郎さんは苦笑しながら、
「いやぁ、初っ端からごめんねぇ…で、こっちに来てくれるかな?」
…と言って、手招きをした。
私と姉は、幸代さんに気付かれないように足を忍ばせながら、台所からこっそり顔を出したお嫁さんに一瞥して、藤四郎さんの後に続いた。
藤四郎さんとお嫁さん…以後、美津子さんが結婚したのが、ちょうど私達が最後に会ったのと同じ、8年前。
父方の祖父が亡くなったのと重なり、私達家族だけは結婚式の参加を見送ったのだが…美津子さんは「大変でしたね」と、逆に気遣ってくれた。
さっきも、私達が無言で会釈しただけなのに、ニッコリと笑顔を返してくれて…何故藤四郎さんは、家を出ずに同居したのだろう、と…柔和な顔に隠された、黒い腹の内を垣間見た気がして、私は心の中で1人悶々とした。
だからか…廊下を進む内に、さっきと空気が変わっていた事に、私は気付けなかった。
「おじさん、用事って幸代さんにあるんじゃなかったの?」
姉がそう尋ねても、藤四郎さんは黙ったままズンズンと廊下を進んでいく。
勝手知ったる家じゃない。しかもこの家は、まあまあ広い昔ながらのお屋敷造り…
なのに藤四郎さんは…まるで置いていかんばかりの早歩きで…私達は必死に、藤四郎さんの後を付いて行った。
渡り廊下を進み、突き当りを右に曲がって、そこから急勾配の小さな階段を使って2階へ上る…
そして、ある部屋の前でピタリと足が止まると、藤四郎さんはやっと、私達の方に振り返った。
そこは、一見何の変哲もない、ただの部屋の前なのだが…藤四郎さんが戸を開けるや否や、思わず「うえぇっ!?」と、声をあげる程の光景が広がっていた。
服と雑貨と雑誌とその他諸々の色んなものが積み上がり、ぐちゃぐちゃになった空間────ゴミ部屋だ。
「おじさん…もしかして…お願いってコレ…?」
硬直したまま私が尋ねると、藤四郎さんは頭を搔き搔きしながら、「うん」と笑顔で答えた。
いや、「うん」じゃねえよ…!と心の中で叫びながら、おもむろに藤四郎さんを凝視する。
すると、女2人に睨まれたからか…藤四郎さんはさっきよりも眉を下げて、たどたどしく言葉を続けた。
「頼みっていうのは…その、ある物を探して欲しいんだ…この、部屋から…」

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安定しない床の上…荷物をどける度に舞い上がる細かい埃が、開け放った窓から差し込む陽の光でチラチラと反射する。
もう1時間以上も…私と姉はこの物置部屋で、同じ作業を繰り返していた。
「臍の緒の入った箱を探して欲しい」
という、無理ゲーに近い藤四郎さんの頼みに、こんな事なら、わざわざお呼ばれ服を着て来なかったと…タイツにへばりつく埃を払いながら苛立ちを隠せず、それは当然ながら姉も同じだった。
「ほんとマジでムリ…『あの時』は、偶然見つけただけなのに…」
あの時とは…私達が共に小学生の頃。祖母の姉が付けていたパールのネックレスがちぎれて飛び散ったのを、私達が全てのパーツを見つけ、運良く元通りに出来たのだ。
藤四郎さんはそれを、どこかのタイミングで聞いたのだろう。私達は探し物が得意と思い込み、呼びつけた…もしそうだとしたら、なんて短絡的だろう。しかし…
「絶対見つけて欲しい…褒美はうんと出すから…」
と、これ以上に無いくらい平身低頭お願いされ、帰るに帰れなくなったのだ。
おまけに、母から「片付けしないと小遣い減給」と徹底的に教育されたせいで…この、とっ散らかった空間に手を付けた以上、放っておけなくなったのだ。全く、なんてお人好しな姉妹だろう…
「しっかし…何だって臍の緒なんて…大事なもんなら、こんな場所に置かないだろうに…」
洋服の山をどけながら、それらしき『箱』を探す。だが、正直疑問しかない。一体、誰の臍の緒なのか、そもそもこの部屋は何なのか…
ふと、手元にあった服を数枚広げてみる。ひと昔前という感じでも今風でも無く、殆どが長袖だった。よく調べると、スカートやズボンも同じで、肌を見せる長さの物は1つも無い…
途端に、私の脳裏に嫌な予感が湧いた。
「お姉ちゃん、ここってまさか、」
「…あんたも気づいた?ここ、もしかしたら幸代さんの物置部屋なのかも…はあ、疲れた!」
姉が、手に持っていた何かの空き箱を放り投げ、服の山にドカッと腰を下ろす。この狭い空間に、物の山と大人が2人…窮屈さを押し殺して「採掘」してきたが、そろそろ限界だった。
「ねえ、私の話を聞くまで、幸代さんってどんなイメージだった?」
「どんなって…なんか『しょんぼりしてる』とか…『おばあちゃんっ子』とか…?」
実際、その通りだった。冠婚葬祭などで親族の集まりがあると、幸代さんは必ずと言って良い程、年長者の輪の中に居た。
しかし、談笑している姿は見た事が無く、いつも何か悩みを漏らしている様子で…祖母や祖母の兄弟姉妹が、まるで子供にするように頭を撫でている光景を、私は何回か目にしていた。
そして…時折、下腹部を手で押さえたり、撫でたりする様子も────え?まさかそれって…
「幸代さんの子供?そんなの聞いた事無いよ。それに、私の格好にケチ付けるんだから、裸なんかもっと無理でしょ!『汚らわしいっ!』とか言いそう(笑)」
「だよねぇ…下着売り場なんか行ったらもっとヤバそう…気ぃ失っちゃうかもね(笑)」
「確かに!(笑)」
そんな冗談を言い合っている内に、苛立ちや疲れも少しずつ解れていく。この際、理由なんかどうでもいい。とにかくこの、埃とガラクタだらけの部屋から1分でも早く解放されたかった。
…そうと決まれば、話は早い。私も姉も、あらかじめ藤四郎さんから貰っていたゴミ袋に、どんどん荷物を詰めていった。
途中、駆けずり回る虫に叫びながらも、10分もしない内に床が見え始め…30分後には部屋の全貌が露わになった。
ボロボロの小さな棚と、錆が目立つパイプベッド。その上には、ぺらっぺらに湿気たマットレスと掛布団が1組…前に動画サイトで見た、ゴミ部屋清掃後の光景そのものだった。
「わたしら、意外と清掃業いけるかもね(笑)」
そう2人して笑いながら、もう一休み、とゴミ袋に腰を下ろした。その時…
パキッ、
と…私のお尻の下で、何かが小さな音を立てた。

separator

手元には、縦に真っ2つに割れた小さな箱…
その中に敷かれた綿の上には、小さな骨のような、灰色の欠片が1つ転がっている。
これだ、と思うと同時に…冷や汗がじわじわと額を伝う。まさか、私の尻の下にあったゴミ袋の中に、探し物があったとは…でも、仕方無い。
「おじさん…見つけた…んですけど…ごめんなさい」
頭を下げながら、私はニコニコ微笑む藤四郎さんの前にブツを差し出した。
穏やかな人ほどキレるとヤバい…そんな不安で頭が一杯になりながら待っている…と、暫くして、「ヒッヒッ」…という笑い声が鼓膜に響くと同時に、掌から箱の感触が消えた。
「いやぁ、やるじゃないか!ありがとう!」
藤四郎さんは笑いながらそう言うと、ズボンのポケットに手を伸ばし、茶色の封筒を私達の前に差し出した。
「約束通り…これ、ご褒美…って言うと違うか(笑)報酬だよ」
私も姉も、その封筒を見て暫く開いた口が塞がらなかった。報酬というには余りにも…厚みがあったからだ。
「いや、箱割っちゃったし…こんなに貰えません」と断っても、藤四郎さんはにこやかに、「結構結構!ま、とりあえず受け取ってよ」
と言って、半ば押し付けるように封筒を差し出すものだから、手に取る他無かったのだ。
まあ、とは言っても人の性(さが)とは愚かなもので…頭には既に、「何に使おうかな」という思惑が浮かんでいたのだが。
「ありがとね、お陰で過ごし易くなると思う、じゃ、送るよ」
そんな思惑を知ってか知らずか、藤四郎さんは私達の働きぶりに相当感心した様子で…報酬だけじゃ良くないと言って、家まで送り届けてくれた。
そして、車を見送り家に戻ると…私と姉は、早速封筒の中身を数えた。
その厚み通り、封筒には2桁もの諭吉が入っていて…嬉しさと畏れ多さに、思わず数えていた指が震える。
だが、臨時収入に浮足立つ私の横で、何故か姉の顔は少し曇っていた。その手元には一筆箋があり…覗き見ると、まるで殴り書いたように、
「一切口外無用」
…という1文だけが、大きく書かれていた。
「ねえ、今日ってこれから時間ある?」
姉はおもむろに立ち上がると、帰って来たばかりなのに、再び出掛ける準備を始めた。聞けば、このお金全部、駅前のパチンコ屋で全て使い切ると言うではないか。
「…こういうお金はさ、一気に使って無くした方がいいんだよ、少なくとも、これって良いお金じゃないよ」
お金に良いも悪いもあるかよ、と…その時は少し不満だったが…その時ふと、藤四郎さんの言葉を思い出した。
これで過ごし易くなる────
一体、あの部屋は本当は、どういう意図で使われていたのか、仮に…幸代さんが物置として使っていたとしても、あんなに傷んだ家具、わざわざ置いておくだろうか…
思い出すと、途端にもやもやと不安が沸く。もしかしてこれは、報酬というより、口止めなのか?
そう思ったら、姉の言葉にも何故か合点がいく。だとしても、パチンコは嫌だった私は、その日の夜、高級寿司の出前と、高級なデザートとお酒に全て注ぎ込んだ。
当然、母と祖母には驚かれたが…会社のボーナスの余りを使ったと言って誤魔化し、他愛の無い、普段通りの会話をしてやり過ごした。
しかし…夜中、部屋の戸をノックする音が聞こえ、開けると祖母が立っていて、開口一番、「あんた、隠してることあるでしょ…」と、鋭い目で私を見た。
洗濯物がやけに埃臭い、と…祖母は私の嘘を、既に見抜いていたのだ。
祖母は昔から、こういうちょっとした違和感に気付くのが上手い。要は、私と姉がどう隠しても無駄だ、という事…
観念した私は、一筆箋に書かれていた「約束」をあっという間に反故にして、祖母に事のあらましを全て伝えた。
その間、祖母は黙って耳を傾けていたが…話が終わると「嘘はダメよ」とたしなめつつ、私の両肩に手を置くと、「頑張ったわね」と笑った。
その温かい手に、私はふと抱えていたものが溢れ…思わず、あの家で見た幸代さんの様子や、姉が昔言われた事も、全て打ち明けてしまった。
「いくら優しい美津子さんでも、心病んじゃうよ…どうにか出来ないの?」
「そうねえ…どうにか出来ないかねぇ」
「幸代さん、あんな酷い小姑だったなんて」
「小姑?」
「そうだよ、別居すればいいのに…藤四郎さん、いくら身内だからって」
「えっと…ああ…言い忘れてたかしら、幸代ちゃんと藤四郎さん、兄弟でも何でもないのよ?」
「えっ…?」
「と言うより、そもそも…私らの親戚じゃないのよ」
祖母曰く…幸代さんは元々、祖父方のかなり遠縁の人間だそうで…いつの間にか同居する事になっていたという。
祖母の姉は、祖父方のメンツを立てるべく、「一時期だけ」の約束で家に置く事にしたというが…その見立ては甘かったそうだ。
「あの子、神経質っていうか…こだわりが強くて結構大変だったみたい。口論もよくしてたって言うから、思ってたよりも早く同居解消するのかなって思ってたら…幸代ちゃん…出て行かなかったのよ」
幸代さんは、次第に姉夫婦の行動に口を出すようになり…それは段々と、束縛になっていったという。それも、最初は静かに圧を掛けるような感じで…それでもダメな場合は、怒鳴って物に当たったそうだ。
しかし、親族の集まりで外に出ると途端に大人しくなり…年配者が囲って話を聞くも、「ごめんなさい」「悪気はない」と…かなり沈んだ様子で話すものだから、どうしていいか祖母も分からなかったそうだ。
結局、対処が分からないまま姉夫婦はホームに入り、藤四郎さんと美津子さんに、全てを託したのだという。
「幸代ちゃん、料理とか掃除とか上手じゃないみたいで…ホームに行くまで、姉さんがずっとご飯の用意も、洗濯もしてたって言うから…」
「そうなんだ…」
「まあ、あんたがそこまで心配しなくても、藤四郎さんもいるんだから大丈夫よ…2人とも、元気だった?」
「うん、元気だったよ、ほんと美津子さん良いお嫁さんだよ…」
「そうね、まあでも…臍の緒ねぇ…」

separator

「幸代さーん、どこ行くんですか?」
「え?ええと…買い物に」
「買い物なら今、藤四郎さんが行ってますよ?で、本当はどちらに?」
「あなたに、そこまで聞かれたくないっ!」
「ねえ、幸代さん…あなたがホームに行ったところで、何が出来るんですか?ただでさえ、外に出ればネチネチいちゃもんつけるのに」
「ネチネチ、って…!失礼ね!何よもう…ほんっと可愛くないわ」
「さ、靴を脱いで下さい。ていうか…その靴も汚れてますね…捨てましょう」
「何でよっ!…あんた、何なのよ…!」
「好きなだけ怒鳴ったらいいですよ、まあ…何言おうと無駄ですけど?」
「そんなもの……私…私の…」
「わたしの、何?」
「もう!あんた!生意気なのよ!そんな格好して!……」
「痛っ、痛いなもう…幸代さん?私を殴っても…無駄…なんです…よっ!」
「ギャッ!…ヒッ…ううぅ……」
「もう部屋に戻りましょう、ねっ?今日、親戚の子達が片付けてくれたんですよ?お陰で、ゴミも沢山片付いて…すっきりしてますよ?」
「ゴミ……?えっ…な、なんで…!」
「ダメですよ~暴れたら、右肩全然動いてないし、頬っぺたも両方真っ赤っか!靴が大事なら一緒に持って行きましょう…ほらっ!」
「ギャッ!痛い…!お腹…なんで…」
「あ!そうだ…お腹で思い出しました、小さな箱!あれもゴミで処分しちゃったかなぁ」
「箱…箱って…」
「何でしたっけぇ?…あ、そうそう、臍の緒!」
「あ…あああ…ああ」
「この際だから言いますけど、お義母さんもお義父さんも…あなたの事最初っから、娘だなんて思って無いですよ?あの臍の緒…誰の物でも無いのに、何で持ってたんですか?」
「嘘!うそよ!絶対違うもん!何で捨てたのよ!私とお母さんの繋がりなのにぃいい!!」
「ああ…もう…うるさい、なっ!家族面すんじゃねえよ!」
「……っ……痛いっ…!」
「心配しなくても、ちゃあんとご飯も洗濯もしてあげますよ、忘れて無ければね…さ、お部屋に戻りましょう…」
「痛い!痛いぃ…引き摺らないで…た、すけて…」

separator

私達があの家に呼ばれる事は、あの日以降殆ど無くなった。
だが、久々の再会をきっかけに、美津子さんとは時折、外で他愛の無い会話をする仲になり、更に時を同じくして、幸代さんがついに家を出て田舎に帰ったそうで…あの部屋の掃除は、その為の準備だったと、ようやく知らされた。
「ほんとゴメンね~、主人が口下手でさ…凄く助かったのよ」
そう言って口元を押さえる手には、最近飼い始めたという、猫のひっかき傷が付いている。
気性が荒く手慣れてないというが、「これでも大人しくなったほうなのよ」と言って、愛おしそうに傷跡をなぞるその様子に、私も姉も、「良かった」と安心した。
なのに…何故だろう。会話のさなか、背中に時々…うすら寒い空気を感じるのだ。
受話器の向こうから聞こえた、猫にしては余りにヒステリックな、その鳴き声を聞いた時から…
「もしもし?うん…えっ?ああ…分かった。ゴメンね、また猫が暴れちゃって…主人1人だと頼りないのよねぇ、私が躾けないと、大人しくならないのよ…」

返信

『シュレディンガーの友人』

 下駄箱や机の中を覗いてみるまで、そこにチョコレートがあるかどうかはわからない。つまりその瞬間、机の中には『チョコレートがある状態』と『無い状態』が共存している。
 シュレディンガーのチョコレートだ、と、得意げに言う良太に対し、正人は「何を言っているんだこいつは」という顔をしてため息を吐いた。
 2月14日、バレンタインデー。
 世の男たちが浮き立つ季節。
 高校一年、入学して初めての「その日」となれば猶更である。
 今更説明するまでも無いが、シュレディンガーの猫、とは有名な哲学的実験のこと。装置を取り付けた箱に猫を閉じ込め、外から見えないように蓋をする。装置は二分の一の確率で作動し、同じ確率で猫は死ぬ。
 箱を開けてみるまで、猫の生死はわからない。つまりその瞬間、箱の中には『死んだ猫』と『生きた猫』が両方存在している、というものだ。
 馬鹿馬鹿しい。正人は得意げな友人の端正な顔を横目で眺め、欠伸をかみ殺す。顔は良いくせに、こいつは馬鹿だ。朝から碌なことを言わない。
「お前はもう、猫が生きているってわかってるんだろう?」
 正人が言うと、良太はぽかんと口を開ける。
「だから。チョコレートが貰える状態が確定している、って言っているんだ」
 正人がそう言ってやると、良太は嬉しそうに笑って大きく頷いた。
「羨ましいよな。よりによって、三崎さんかよ」
 学年アイドル、なんて言い方は古臭いけれど。
 三崎綾香がかなりの美人で成績優秀、運動神経も抜群というのは事実なのだから仕方が無い。
 皆が指を咥えて眺めている中、自身も美少年であると言う最強の武器を持った良太は遠慮無く彼女に近づき、連絡先を交換し。あれよあれよと言う間に、恋人の座に収まってしまった。
「でも、参るよ。綾香って束縛きつくってさ。俺がちょっと他の子と話してると、あの女の子は誰なの、私より良いとこあるの、って。五月蠅いんだもん」
 贅沢な奴。
 授業開始のチャイムが鳴る中、正人はそんな風に思っていた。

 放課後。
 正人の猫は死んでいた。
 つまり、チョコレートはひとつも貰えなかった。
 真面目な学級委員長が皆に配っていた、一口サイズの義理チョコ。これは、貰えたうちに入らない。
「へえ、シュレディンガーのチョコレート、ね」
 黒板を消しながら、三つ編みの学級委員長が笑う。
「面白いこと言うね、君」
「面白くねえし、言ったのは良太だよ。それに、俺の猫は死んでた」
 正人がつまらなそうに言うと、委員長は黒板消しを「ぱん」と叩いて振り返った。
「あのね、正人君」
 紺のブレザーの襟に、チョークの粉が付いている。
「箱を開けるまで、猫が死んでいるかどうかはわからないんだよ」
「え?」
 委員長は眼鏡を指先で押し上げ、やけに几帳面な仕草で正人の机を指さした。
 何だ? 一体何なんだ?
 正人が、机の引き出しにそっと手を入れると。
「ええっ!?」
 簡素なブルーの包装紙に包まれた、四角い箱が見つかった。
 視線を上げると、委員長が真っ赤な顔で目を逸らした。
「君、日直の時も真面目にやってくれるし」
 驚いた顔の正人を見て、付け足すように言う。
「さっき君が、トイレに行っている間に私が入れました」
 何と。死んでいた猫が生き返った。いや、最初から死んでいなかったのか。
「いいのか?」
 恐る恐る、ブルーの箱に触れてみる。
「俺、良太みたいに格好良くないし」
「あのね正人君、男は顔じゃないんだよ。それに、君の交友関係に口出ししたくないけど。私、あの人のこと、そんなに好きじゃない」
 委員長が、少し表情を曇らせた。
「こないだ、見ちゃったんだよね。良太君が、他の女の子と、その……キスしてるの」
 キス、という言葉を聞いた瞬間、正人の心臓が跳ね上がった。
 三崎さんがいながら、という気持ちと。良太ならやりかねない、という気持ちが、半々だったからだ。
「他の学校の生徒だと思う。制服違ってたし。綾香も多分、もう知っているよ」
 委員長が、ばつが悪そうに三つ編みを弄った。
「今朝、階段の踊り場で綾香に会ったんだよ。ぼーっと立ってたと思ったら、鞄からピンクのハートの箱にでかいリボン掛けたやつ、急に取り出してさ。包装紙びりびり破いて、箱も破いちゃって、泣きながら中のチョコ食べてんの」
 真面目な委員長は、朝早くに登校している。三崎綾香も同じ時間に居た、ということは、良太が来る前にチョコレートを仕込もうと考えていたのだろうか。
「私がびっくりして声掛けたら、いいの、もういいの、もうどうでもいい、って」
 委員長が溜息を吐く。
「包装紙ってさ、結構厚くて丈夫でしょ? 勢いよく破いたもんだから、綾香の手が切れちゃって……血だらけの手でチョコ掴んでさ……一応、保健室連れてったけど」
 ぞっとした。
 あの三崎綾香が、という驚きもあったが。
 美しい少女が涙を流し、手と口を汚しながら、愛する者の為に用意したチョコレートを頬張る。その図が余りにも狂気的だったからだ。
「血の染みってさ。乾くと、チョコレートの染みに似てるよね」
 委員長が、ぽつりと呟いた。

 正人が三崎綾香に声を開けられたのは、委員長と連絡先を交換して別れた直後だった。委員長は、職員室に用があるらしい。待っていようか、それとも……。
「正人君」
 鈴を振るような声に、思わず振り返る。
 真っ白で小さな、三崎綾香の笑顔がそこにあった。
 長い睫毛。小さな赤い唇。艶やかな黒髪。
 だが、制服の白いブラウスには点々と茶色い染みが散っている。右手には、包帯が巻かれている。
 綾香本人が美しい分、その小さな違和感は余計に目についた。
「正人君。来て」
 良太のことで、相談があるのかもしれない。
 正人は、とっさにそう思った。
 くるりと背を向けて歩き始めた綾香の跡を、急いで追う。あのブラウスの染みは、チョコレートだろうか。それとも……。
「正人君。良太君のこと、知ってた?」
 笑顔で振り返る三崎綾香は、やはり美しい。でも。
「何も……何も知らないよ、俺は。あいつが、三崎さん以外の女の子と……」
 綾香が、急に立ち止まった。
「やっぱり。そうなんだ」
 正人がたじろぐ程に、落ち着いた声だった。
 溶けたチョコレートの甘い匂い。暖房が暑い。良太のことだ、他の女子からのチョコレートだって、きっと喜んで受け取ったに違いない。
「私だけじゃなかった」
 甘い匂い。ふと、妙な匂いが混じる。
 生臭い。
「知らないとでも思ってたの? 馬鹿にして」
 才色兼備で、誰もの憧れだった綾香。彼女にとって、ぞんざいに使われるのはこれ以上無いほどの屈辱だっただろう。
 正人の呼吸が早くなる。
 家庭科室。
 綾香が立ち止まった目の前に、家庭科室の扉がある。
 甘い匂いは、この部屋からしている。
「正人君は、良太君の友達だから」
 三崎綾香が、にっこりと微笑んだ。
 白いブラウスは、茶色い染みで汚れていた。
 ちょっと待て。
 正人が後ずさる。
 さっき感じた違和感。委員長は、紺のブレザーを着ていた。白いブラウスは、夏の制服だ。
 今朝、着替えたんだ。
 無理やり自分を納得させようと、正人は綾香の綺麗な笑顔を見つめる。
 チョコレートで汚れてしまったから。だから、夏服に着替えたんだ。
 でも。
 その夏服にも、茶色い染みがあるのは何故?
「ねえ、正人君。正人君が開けて」
 綾香が、家庭科室の引き戸を指さす。
 相変わらず、綺麗な笑顔で。
 鈴の振るような声で。
 甘い香りに生臭い匂いが混じる。暑すぎる暖房のせいで、匂いはどんどん強くなる。
 家庭科室には、何がある?
 良太は、今、どこにいる?
 ああ、この匂いは知っている。
 この、奇妙に鉄臭い匂いは……。
「正人君! 駄目!」
 廊下を走ってくるのは、委員長だ。真面目だから、普段は絶対走らないのに。後ろを追いかけて来るのは、正人たちの担任だ。唇をぎゅっと引き結んだその顔は、ただならない事が起きてしまったことを厭でも予感させる。
 三崎綾香は、けらけらと声を上げて笑い出す。
 涙が一筋、白い頬を伝う。
 そうだ。
 俺が開けなきゃいけないんだ。
 正人は深呼吸して、家庭科室の引き戸に手を掛けた。
 俺は良太の友達だから。
 俺がここを開けるまで。中を見るまで。
 良太は。

 
 

返信

トピ主のふたばさん、皆様、私生活と御仕事と日々の創作、御疲れ様で御座います(礼)。

去る2/13に三つの御題を組み込みました、『踏みにじられた義憤』を脱稿致しました。

怪談とは違った意味でのショッキングな始まりと題材なのと長編になりましたので、完成致しましたと言う形で、この場を借りまして、御報告申し上げます。

返信

ご無沙汰しております
先月投稿できなかった分、長編になってしまいました(;^_^A

返信

【守られる】

地元の同級生に、玉木という男子が居た。
かなりの悪ガキで、すぐに手や口を出しては、私を含めた他の子供を泣かして、いつも笑っていた為…幼い頃から、その名前は地域の中でよく知られていた。
小学校に上がると、相手の親を巻き込むレベルで暴力沙汰を起こすようになり、度々保護者会が開かれた程だ。泣かされた教師も沢山いて、心を病んで退職した人もいたらしい。
だが玉木の親は…「家で独りぼっちだから…ただ、寂しがり屋なだけなんです」と言うだけ。
何でもその頃、玉木家の経済は逼迫していて、朝から夜遅くまで働き詰めにならないと生活が成り立たず、息子を家で一人にする他なかったとかで…どれだけ言及しても、同じ事を繰り返すだけだったという。
それでも納得のいかない大多数の人間は詰問したというが…ある時から、夫婦揃って頭から血が出る程の土下座をするようになり、保護者達はそれ以上、強くは言えなくなったという。
だからか…玉木が悪ガキから暴君へと変化するのに、さほど時間は掛からなかった。
面識のない女子生徒を一方的に追い回したり、「何となく気に入らない」という理由で、取り巻きと一緒に暴力を振るったり、私物を壊したり…酷い時は、「何かちょっと、むしゃくしゃする」と言って、近所の野良猫やペットに手を出したりと…その立ち振る舞いは、日を追う毎にエスカレートしていった。
だが既に、校内や近所で彼を注意する人は少なかった。良くも悪くも事なかれ主義なこの風土が助長したせいで、玉木の横暴は留まる事を知らなかったのだ。
だから実質、玉木の居る場所は無法地帯。警察も然程アテにならず、被害者の多くが泣き寝入り状態だった為…私達は、玉木の傍には絶対に近付かない等、出来る限りの自衛でやり過ごす他無かった。
だが、正義感の強い人からすると、そんな状況が歯がゆく感じてしまうようだった。
「このクソガキが!!いい加減にしないと酷い目に遭うよ!」
近所に住む、山田というおばさんは正にそういう人で、近所で玉木と出くわす度に、かなり厳しい口調で注意していた。
傍から聞いているだけでもキツイのだが、玉木はどこ吹く風…ニヤニヤして「すみませーん」と、心にもない謝罪をするだけだった。
そのやり取りを見ながら…私は、玉木のその余裕はどこから来るのか、疑問だった。
血気盛んな若者だからなのか…もはや注意され過ぎて感覚がマヒしているのか…けど、理由はそのどれでも無く、更に…受け入れがたいものだった。ある日の放課後、教室を牛耳って、取り巻きに話しているのを偶然耳にしたのだ。
「俺には強い神様が付いてるから、何しても大丈夫なんだよね!」
…曰く、玉木家には先祖代々祀っている神様がいて、それが守ってくれるのだという。
かなり強い霊力を持った格式高い神様で…玉木家が手塩にかけて祀ってきた事で、絶対に離れないようになっているそうだ。
ニヤニヤしながらも話すその言葉には妙に真実味があって…聞いていた取り巻き達は、手離しで感嘆していた。
「それって無双じゃね?すげえ~!」
「そう!今は俺が受け継いだんだ!しかも、守ってくれるだけじゃないんだぜ…」
守るだけじゃないって、どういう事?と…その時は、何の事か分からず聞いていたが…数日後、私はその意味を、思いもよらぬ形で知る事となる。
山田家のおばさんが、突然亡くなったのだ。

                     §

近所の人の話によると、おばさんは直前まで元気だったのが、急に胸が苦しいと言って倒れ、病院に運ばれたが手遅れだったという。
それだけじゃない。玉木を目の敵にしていた校内の指導教員も、謎の交通事故で大怪我を負い、玉木の暴力に反抗した同級生の高沢君に至っては…両親が相次いで倒れ、病死したのだ。
偶然とは思えない出来事の連続に、背筋が凍る。全員…何ら悪い事はしていない。むしろ、玉木の言動を注意し、拒否しただけ。
なのに、こんなに立て続けに不幸が続くなんて…
「…玉木の話、嘘じゃなかった…怖いよ」
高沢君の両親の葬儀で、誰かがそう呟く。逆らうだけで、こんなに酷い目に遭うのか、と…事情を知る人は、私を含め皆怯えていた。
「よお!親父もお袋も残念だったなー!でも、当然の報いだ!」
玉木は、出棺の直前にフラフラとやって来るなり…嬉しそうな顔で高沢君にそう言った。
高沢君は、泣き腫らした目で一瞬玉木を睨んだあと、言い返す事も無くずっと無言だったけど…遺影を持つ手が、ぎゅっと強くなったのを、その場にいた誰もが見ていた。
「まあ、テメエもせいぜい気を付けろよ?っと…あ、クラスの皆いたんだー!さーて、次は誰にし・よ・う・か・な…なーんて、冗談だよ(笑)!じゃあなー!」
玉木はそう言い捨てると…爆笑しながら、取り巻き数人を従えて、会場を後にした。
「…最低、あんな最低な奴を守る神様なんて、いるわけないよ…」
帰り際、友達が涙を滲ませながら言うのを、私は黙って頷いた。
そう、神様がいるから、何でもしていいなんて、そんな事ない…玉木が勝手に思い込んでいるだけだ。
「きっと罰が当たるよ…あいつ」
「うん、きっとロクな事無いよ…」
そんな会話を交わしてからというもの、私達はより一層、玉木達への警戒を強めた。
幸い、取り巻きの一人が窃盗で逮捕されたのを機に、グループはあっけなく解散したのだが…玉木を恐れて、卒業後私達は、蜘蛛の子を散らすようにバラバラになった。
私は就職で上京し、高沢君は一人遠くへと引っ越した。そして残りの人達も、敢えて地元から離れた場所を、進学や就職先に選んだと聞く。
…しかし、私達の思惑とは裏腹に、玉木自身はその後、非常に順風満帆な生活を送っていた。
両親が興した会社が大当たりし、玉木は縁故入社。その後、受付嬢をしていた女性と結婚し、翌年には娘が産まれ…更に、家は増改築の末に立派なお屋敷となり、まさに安泰そのもの。
だからか…いつの間にか悪童振りは成りを潜め、他人には見向きもしなくなったという。母や地元に残った友人曰く、過去を知らない人からすれば、非常に子煩悩で妻思いの「良き夫、良き父」にしか見えないらしい。
聞けば聞く程、もやもやとした不満が募る。
どんなに玉木が良い人に生まれ変わったとしても、過去の横暴な振る舞いを水に流すなんて到底出来ないし、考えられない。
だけど、地元に残った人にとっては「玉木が何のトラブルも起こさない」だけでも有難いそうで…住民の多くが「奥さん様々」と言って、安堵しているそうだ。
「…神様の力らしいから、仕方無いわよね…」
「諦め」の二文字が漂う友人の言葉に、私はどう返事をすればいいか、分からなかった。
神様なんて不確実なものを、玉木一人の存在によって認めざるを得ないなんて…しかもその宿主は、傲慢無礼極まりない人間なのだ。
でも…これが現実なのだろう。そう思った時、心の中に小さな絶望が生まれた。
何処に生まれ落ちるかなんて、誰にも分からないし決められない…過去の行いなんて…玉木はきっと、ロクに覚えていないだろう。
だからこそ、人並み以上の幸せを手に入れた今、他人の事など、どうでも良くなったのだ…虐めっ子の心理なんてそんなもの。つまるところ…理不尽さを、受け入れる他ない。
だとすれば、凡人に出来る事は一つ…反面教師にするか、忘れるだけだ────
その時を境に、私は敢えて、慌ただしい日々に身を置いて過ごした。幸い、望み通り激務に追われ…年月を重ねる毎に記憶は薄まっていった。
しかし…それから五年後の事だ。久しぶりに電話をしてきた母から、思いもよらぬ事を知らされた。
玉木の妻子が事故で亡くなった、と…

                     §

通夜会場に足を踏み入れるや否や、男性の凄まじい慟哭が会場に響く。
と同時に、むせ返る様な甘い匂いが鼻につき、思わず口を押さえた。ふと見渡すと…弔問客の多くが皆、私と同じく、ハンカチや自分の手で口元を覆っている。
その匂いの元が、奥の方にあると気づき目を向けると…泥なのか何なのか、グズグスに汚れた床の上で、男が突っ伏し…言葉にならない言葉を発しながら、人目も憚らず泣き叫んでいた。
それが、数年ぶりに見る玉木の姿だった。
母の代わりにと、形だけのつもりで参列したが…その惨憺たる空気に、無理やりでも断れば良かったと後悔が襲う。
甘い匂いはどんどん濃さを増し…焼香の匂いと混じって悪臭へと変わる。しかし、玉木は服が汚れるのも構わず…その悪臭を放つ泥の様なものをしきりに手で集めては、口に運んでいて────それが、ぐちゃぐちゃに溶けたチョコレートだと分かった瞬間…胃の奥がせり上がるのを全身で感じた。
と…そのさなか、列の後ろに並んでいた誰かが言った。
「パパに渡すんだ、って…言ってたのにね…何もあんなにして食べなくても…」
それは、バレンタインデーの夜の事だったという。玉木の運転する車は、見通しの良い大通りで突然ガードレールに激突し…救急隊が来た時には、既に同乗していた妻子は事切れていたそうだ。
なのに、車を運転していた玉木だけは…車の前面が潰れる程の事故だったにも関わらず、かすり傷一つ無かったという。
「ごめんね、私の腰が悪いばっかりに…」
そんな母の声と背中に、僅かに老いを感じるようになったが…玉木の両親に比べれば、だいぶマシだ。
去っていく弔問客に一瞥もせず、ただただ、のたうち回る息子を茫然と眺める両親の姿に、全く生気は感じられなかった。
そんな悲愴な空気の中…黒い額縁の奥で、満面の笑みを浮かべる妻子の顔…その、可愛らしい笑顔にさえ恐怖を感じて、私は逃げるように会場を後にした。
「罰が当たったんだよ」
再会した同級生が数人、声を潜めて言う。でも…玉木は無傷だ。彼の言葉を借りるなら、「守られた」事になる…もし、この会話に気づかれたら…それに、妻子が居なくなった事で、玉木は再び暴走を始める可能性だってある…そう思えば思う程、不安しか湧かなかった。
だが、そのネガティブな予想は杞憂に終わる。妻子の一周忌を過ぎたあたりから、玉木の家に見知らぬ女性が出入りするようになったのだ。
友人曰く、先妻とは見るからに真逆で…ふくよかな体に露出の多い服を纏い、玉木に対してかなりベタベタ接していたそうだ。
ただの交友関係ではないな、と思っていたら案の定…女性のお腹は日を追う毎に膨らみ、次に友人が見かけた時は、玉木と一緒に仲良くベビーカーを押していたという。
だが…そんな光景も束の間、女性は傷害事件を起こして逃亡した挙句、警察に逮捕された。
別居中の夫だという男が玉木の家に押しかけ、子供の父親を巡って取っ組み合いになった末、男を突き飛ばして重傷を負わせたのだ。
更に検査の結果、子供の父親は玉木でも夫でもない事が分かり、女性の両親が、半ば強奪するように子供を引き取り、どこかに行ってしまったらしい。玉木はまたしても、自分だけ無傷で済み、妻子を失った。
と…ここまで身内の喪失が続けば、普通なら気も体も病んでしまう筈だが…何故か玉木に、そんな様子は見られないそうだ。友人の言葉を借りると、「何と言うか、死にたいのに体が抗っている感じ」らしい。
何でも、玉木は乱闘事件を境に自傷行為を繰り返すようになり、暴飲、OD、リスカ等…考えつく限りの自傷行為をしては病院に搬送されるのだが、どれも半日から一日で回復してしまうというのだ。
その生命力の強さと、関わる女性が次々不運に見舞われる事から、密かに「死神」と噂されるようになり…あれ程恐怖の対象だった玉木に対して、皆いつの間にか、白い眼を向けるようになったという。
「あいつに憑いてたのって、死神だったんだよ。お似合いだよねー」
私はまだ、恐怖を拭えなかった。東京にも玉木に似た人間は沢山いて、嫌な思いも多少は経験したが…嫌な奴本人が一番不幸だと知る事で、何となく安心出来るのだが…玉木にだけは、その道理は通じないかも知れないのだ。
これまで、噂好きの友人に付き合う形で色々と話を聞いてきたが…これ以上玉木の話題は聞きたくないし…実を云えば、地元とも縁を切りたかった。
なのに、因果とは恐ろしい。結婚の挨拶に行きたい、と…当時まだ彼氏だった夫が頑なに主張した為に…私は再び、地元に戻る事になったのだ。
しかも、挨拶だけの筈が町を歩きたいとまで言い出し…悩んだ末、私は、近くの神社に彼を連れ出した。
一通り参拝を終え…見晴らし台から景色を望む。遠くから見れば、何の変哲もない、可愛らしい箱庭のような町。
ふと、子供の頃にやっていた、家の屋根を数える遊びを思い出し、私は一つ二つと数えた。
だが…その時…
「……欲しい………」
突然、背後の腰のあたりを…誰かの息がかすめた。

                     §

いつもの私なら、無視してその場から去る所だが…何も事情を知らない彼氏の戸惑いに気づいた私は、咄嗟に言葉を返した。
「…何が欲しいのですか?」
…今思えば、私は何故あんな事を口走ったのか、不思議でならない。
境内に入った時から、私は何となくその影に気づいていた。…両ひざの特徴的な痣…それを持っているのは、この地域で一人しかいなかった。
「…血が要るの…あの子と一緒の…」
玉木の母親は…そう言うなり、うつむいていた顔を、「ガクン」、と…こちらに向けた。
「…血が要るの……」
その異様な関節の動きに、思わず息が止まる。焦点の定まらないガラス玉のような目…そこに、光は宿っていなかった。
「血…って…?なんですか…?」
後に夫となってから、私は一度だけ…尋ねた時の心境を聞いてみた事がある。幸い、夫にはあれが、「痴呆症を患った年配女性」として映っていたそうだ。
それを知って、私はやっと安心できた。
私が、この町の多くの人が、心の奥底でずっと抱えてきた恐怖と憎しみ…夫にだけは、こんな感情を抱かせたくなかったのだ。
あの話だって、玉木の母親が、勝手に思い込んでるだけ…ただの妄想だ。ただの…
「アレは…私の母が死ぬ間際に…あの子に受け継がせたの。…母が生前、色々お願いしちゃったのよ…愛してたから…だからねぇ、あの子自身には何も起きないのよ…あの子に『だけ』は……ごめんねぇ」
「でも…『アレ』はね…息子の事を本気にしてるんですって……神様なのにねぇ…嫉妬、してるの…だから、…あの女も、娘も…みんな…消しちゃうの…息子を傷つける奴は…邪魔する奴は、みんな、みぃーんな……可愛そうよねぇ………」
「……でもね、あの子…まだ頑張ってるの……そろそろ離れたい、って泣きながら……ねぇ、偉いでしょう…?…」
だって、血が要るんだもの────
帰り際…道の脇に添えられた花束が目に映った。
生けられたばかりのその花束の上には、何故か泥が飛び散っていて…それは、あの時と同じ…ぐちゃぐちゃになったチョコレートの欠片だった。
途端に、眩暈と吐き気が襲い、その場にうずくまる。
「え、え、大丈夫!?…も、もしかしてだけど…つわり…?」
子供が出来た事は、先月から分かっていた。でも…何もこんな所で…
「ごめん、大丈夫…手、貸して…」
その、彼の腕越しに、二人の男女が横切る。
パンパンに膨れたお腹を、これ見よがしにさする女と…その隣を歩く男。
────玉木、また再婚するらしいよ?懲りないよね~
…果たして今度は、生き延びれるのだろうか…?いや、もう忘れよう。
凡人に出来る事なんて、それぐらいしか無いのだから。

返信

ご利用の皆様へ🌱
最早お題を出すだけの存在と化したふたばですorz
新しい月となりましたので、お題の更新をさせていただきます( ᴗ ̫ ᴗ )

=============================

【2月お題】

「ネコ 」「チョコレート」「箱」

投稿期間 2/1 0:00〜2/28 23:59

=============================

いい加減お題にちゃんと取り組みたいし朗読もしたいのに、現在地獄の火中で筆を振り回しながら絶叫しております🔥_φ°(ಗдಗ。)°.🔥

あ、今回のお題は2月のイベントチックな単語2つと、どちらにも合わせやすそうな単語1つの3つです。
割と難易度は低めだと思うのでお気軽に御参加下さいませ🐈🍫📦

返信

皆様こんにちは( ᴗ ̫ ᴗ )

林檎亭紅玉さん、芝阪雁茂さん、御参加有難う御座います。林檎亭紅玉さんに至っては2話もお話を書いて下さり、全然顔すら出せていないのが本当に申し訳無いです……🙇‍♂️🙇‍♂️🙇‍♂️

あんみつ姫さんもコメント有難う御座います。私の方が全くお題に手を付けれておりませんので(大問題)気になさらないで下さいませorz

さて、本日は28日という事で、1月のお題の締め切り日となってしまいました🤢💦
〆切は本日の23:59までで御座います。お忘れないようお気を付け下さいませ(੭ ᐕ)੭*⁾⁾

私は別企画(リレー怪談)が、まだたったの3.5万文字しか進んでおらず、ここ最近引っ込んでおりましたが、今日だけは一旦こちらに挑ませていただきます🐯🪜⚾️

返信

遅れ馳せながら、トピ主であるふたばさんや書き込まれている皆様、本年も宜しく御願い申し上げます(礼)。

御蔭様で、今回は短編に収まりましたが、凄惨な描写を伴う形になってしまいました(汗)。
*********************
『虎炎(こえん)』

 これは私、幹岳久康(みきたけ・ひさやす)が、天雲寺(てんうんじ)の先代住職より御聴きした話。

 当時ライバルの寺か生臭坊主かの寺で猛獣を飼っておりそれが逃げ出すと言う騒ぎが、1978(昭和53)年前後に起きたと言う………勿論、同時期に起きた虎騒動で住職が、殺生の話をした事で猟友会の怒りを買った顛末とは、又違う御話である。
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 或る女学生が、父親が投資詐欺に遭ったとの事で、その際にこさえてしまった借金で生活が苦しくなりつつある時分に、足取り重く天雲寺の近くの神社の石段を登っていたのだと言う。

 ───アルバイトをしようともしたが、父親が大丈夫と取り合ってはくれなかった事情も有る。

 その際、綺麗な玉がコロリコロリと転がり落ちて来て、ビー玉より大きく当時も既に有ったろう、いわゆるスーパーボール位だったそうな。

 触れようとした際、何故かその玉は熱く、触れようとした女学生は火傷をしたかと思って、自らの指先を見たが、爛(ただ)れてもおらず、ましてや赤くもなっていなかった。

 気を取り直して、自身の目の前で落下をやめた透明な玉を拾い直すと、先程の熱い感覚は無くなっている。

 彼女は神社に関連したものだと感じて、賽銭箱の下に置いて、賽銭箱に小銭を入れて父親の借金が無くなる事や、投資詐欺の犯人が捕まる事を願って、その場を後にした。
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 1ヶ月経つか経たないかの話だったろうか、投資詐欺の犯人が捕まるどころか、竹林で喉を裂かれた上、生きながらにして焼き殺されると言う凄惨な最期を遂げたなんて事件が起きる───有ろう事か、投資詐欺の犯人が生臭坊主で、加担した関係者、そして生臭坊主と同じく、喉元を喰いちぎられた目付きの凶暴な虎迄もが、再会した飼い主と共に心中するかの様に焼け死んでいた。
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 犯人は不明、然し高飛び直前の軍資金を押さえる事が出来た為、全ての額面と迄は行かなかったが、生活の立て直しや女学生の進学費用も賄えるだけの金銭が戻って来る形になって、彼女や父親含めた一家は、喜ぶよりも驚いていたと先代住職は述べている。

住職が女学生に直接聴いた話に依ると、生臭坊主の焼け死ぬ事件の起きる数日前に、何故か炎に身を包んだ虎が出て来て、彼女の目を見て頷いて消えたのだと言う………だが、眼光は威圧感をもって睨み付けるで無く、何処と無く穏やかですらあったと。

恐らくあの優しい眼差しは、玉を持ち去らなかったのが良かったのだろう、持ち去ってしまっていたら凶暴な眼光で睨まれて焼き尽くされてしまっていたかも知れないと、今更ながらゾっとしていると証言していたそうな。

返信

『楽しい我が家』
 新年早々、階段から落ちた。
 酔っぱらっていたんだから仕方が無い。お屠蘇代わりのアブサンが効いた。

 全身を打った割に痛みは少ない。
 酔っぱらっているからか?
 まあ、良いや。

 誰も見ていないのに、照れ隠しでへらへらと笑う。

 ああ、そうだ。
 明日は姪っ子が来るんだっけ。
 姉貴もなぁ、できちゃった結婚なんてびっくりしたよ。
 あっという間に、姪っ子も小学生だもんなぁ。
 お年玉ちょうだーい、なんて強請られるんだろうな。
 ポチ袋買ってあったっけなぁ。
 
 茶封筒じゃ駄目だっけ?

 いいよ、もう。どうせ姉貴は、俺が何やったって文句言うんだから。

 三十過ぎて碌な仕事にも就かないで、酒ばっかり呑んでボロアパートに住んで。こんなとこ住んでるの、日雇いの金髪兄ちゃんやぼけちゃったお爺ちゃん、後は不法滞在の変な外人しかいないもんなぁ。

「あけましてもめでとーございまーす」
 おっ、この声は隣の金髪兄ちゃんだな。
 どうした?
「いやー、聞いてくださいよ。年明けから嫌な夢見ちゃって……って、あれ?」
 おい、どうした?
 俺の顔に何かついてるか?
 ……っていうかお前、随分汚い格好だな。

「婆さんや、ご飯はまだかのう?」
 一階下に住んでるお爺ちゃん。
 あのねぇ、お婆ちゃんは一昨年亡くなったでしょうが。
 もうすぐヘルパーさんが来るから、ご飯はその人に用意して貰って……って、ありゃ?

「アケマシテオメデトー。ヤバいよー。ヤバい」
 一階上に住んでる外人さん。
 何がやばいのよ、新年から。
 こっちは、あんたがくれたアブサンのせいで散々だってのに。
「ヤバいブツ、ヨコに流しちゃってたのバレた。ワタシもう、ここにいられないよ。残念だよ」
 ああ、あんた、たまに俺らにも変なクスリ売りつけようとしてたよね。
 でも、いなくなるんだ。
 ちょっと寂しいけど……ん?

「あの……さっきから気になってんですけど」
 金髪兄ちゃんが、頭を掻きながら言う。

「何で……曲がってるんすか?」

 ……え?
 
 頭にに手を当てる。
 自分で切るからトラ刈りだ。じょりじょりする。

「そっちじゃなくって、首の方っす」

 え?
 首? 
 別に何とも……って。
 ありゃりゃ。

 道理で、視界が90度曲がっているわけだ。

 そういう兄ちゃんは血でべったり汚れたシャツを着て、そのシャツの破れ目から臓物はみ出させているし。
 お爺ちゃんは変な顔色で口の端から緑色の液体垂れ流しているし、外人さんに至っては顔中ぼこぼこで、折れた手足を引きずりながらよたよた歩いている。

「あー……」
 金髪兄ちゃんがため息を吐いた。
 俺も顔を見合わせて、苦笑いする。

 笑えねーよ、もう。
 ボケ爺さんだけならともかく、俺らまで忘れちゃうなんて。
 っていうか、これ、何回目のやり取りだ?

 蝉が鳴いているのが聞こえる。
 今は、元旦じゃないらしい。
「とりあえず……一杯やるか? 俺の部屋で」
 俺が提案すると、全身ボキボキンの外人が笑顔になる。
「オサケ、ワタシの部屋にもアルヨー。特製ダヨー」
 ふざけんな。
 お前の酒のせいで死んだんだよ、こっちは。

 老朽化した木造アパートは、何故か取り壊しも建て直しもされないまま、そこにある。
 もう大分昔になるが、元旦早々、住民が四人も亡くなったらしい。
 恋人に腹を刺された若者。空腹の余り、洗剤などの異物を飲み込んだ独居老人。麻薬の横流しをしたために、仲間からリンチされた外国人。酔って階段から落ち、首の骨を折った男。

 季節を問わず、こんな声が聞こえてくるらしい。

 「あけましておめでとう」
 
 

返信

 実家の猫はトラと言う。確かに縞々の模様ではあるけれど。ふっくらとした体形、短い手足に団子状態の尻尾と、どう見てもただの雑種の雌猫だ。
 好物はマタタビ。
 大の酒好きである祖父と、良く一緒に晩酌をしている。
「トラは、何でトラって名前なの?」
 一度、聞いてみたことがある。晩酌のビールに付き合いながら。酒が入っている時の祖父は一番饒舌なので、子供の時分から成人するまで、ずっと疑問だったことをぶつけてみたのだ。
「トラはなぁ、強いんだぞ」
 祖父は上機嫌でビールを煽ると、マタタビで酔っぱらっているトラの頭を撫でながらゆっくりと話し始めた。
 祖父がまだ子供だった頃、祖父の父……私から見れば曽祖父が、古物商に騙されて水晶玉を買った。水晶玉、とは名ばかりで、ただのガラス玉に当時としては相当な金額を包んだらしい。
 曾祖母は卒倒せんばかりだったらしいが、そこは昔の話。
 家長のやることに口を挟めるものではない。
 手のひらに乗るほどの小さなガラス玉は、玄関脇に飾られることとなった。
「それからだよ。客が妙なことを言うようになってなあ」
 玄関を入って、少し右……固定電話を置いてある傍に、二階に続く階段があるのだが。
「そこに女がいる、って、皆言うんだよ。いや、俺の親父は信じないよ? 鈍感で馬鹿だからガラス球に大金払うんだしさ、でも俺もお袋も見たんだよ。髪のながーい、ぼろぼろの着物の女をな」
 いやいやいや。
 あっさりと言ってのけた祖父に、却って血の気が引く。
 ぼろぼろの着物の女、って。
「ああ、凄い恨めしそうな目で俺たちを睨んでたな。階段だけじゃないぞ。俺が寝てると枕元に立つこともあったし、何かぶつぶつ言ってんだけど聞き取れなくって、本当に気持ち悪いんだわ」
 それ……。
 素人目に見ても、物凄くダイレクトに呪われてるんじゃ……。
「トラを見つけたのは、その時だったな」
 町のゴミ捨て場で、みゃーみゃーと鳴いていたらしい。
「仔猫? いいや、普通に今のデカさだったぞ」
 まずは獣医に連れていくとか、飼い主を探すとか。
 そういった発想が無いのも、時代である。
「親父は猫嫌い……っていうか、女子供の言うことには必ず反対する人だったからな。俺、空き地でこっそり飼ってたんだよ。お袋もわかってて、俺に鰹節とか、メザシとか持たせてくれてな」
 その時は、トラという名前ではなく。
 野良猫の延長で、ノラと呼んでいたらしい。
「正月の頃だった。うん、俺が十三歳の元旦だ。ノラの居る空き地に行って、親戚に貰ったお年玉を見せながら言ったんだ」
 お年玉だぞ。お前にも好きなもの買ってやる。尾頭付きの魚か? カマボコか?
「ノラの顔がぱっと輝いたように見えた……けど、別に魚が欲しかったわけじゃないんだよな」
 お年玉、という言葉に反応したらしい。
 祖父が止める間もなく、ノラは走って空き地を出た。そのまま、空き地の裏にあった祖父の家に上がり込み……玄関先の振袖の客が、悲鳴を上げるのも構わずに……靴箱の上に飛び乗ると、赤い座布団の上に据えられたガラスの玉を見事に叩き落した。
 かしゃ、と、思った以上に小さな音を立てて、ガラス玉は真っ二つになった。
「親父? そりゃ怒ったよ。でも、俺もお袋も、知らない野良猫が勝手に入って来た、ってことでシラ切ったけどさ。え? 俺らが親父を嫌ってたかって? 嫌いに決まってるだろ。死んじまえ、って毎日思ってたよ」
 女の幽霊は、それから見なくなった。祖父の父親が死んだのは、元旦の翌日だったと言う。
「苦悶の表情、って、ああいうのを言うんだろうな。医者も困ってたよ。だって、全部の内臓が綺麗に真っ二つだぞ? 親父も苦しかったろうなぁ。でも、日ごろの行いって大事なんだぞ。医者呼んでくれ、くれぇ、って血を吐きながら言う親父を、お袋は無視してお茶飲んでたし。ノラは親父の腹の上に乗ったりして、親父が苦しがるのを見下ろしてたしな」
 通夜も葬式も済んだ辺りで、ノラはトラになった。
 正式に飼い猫として迎え入れるに当たって、改名したのだ。
「強いからトラなんだ。うちの守り神だぞ。お前も、下手な真似するとトラに祟られるぞ」
 美味そうにビールを呑む祖父は、若い頃には珍しがられた程の愛妻家である。
 祖父だけではない。
 父もまた、時には母の奴隷ではないかと思うくらいに、何でも言うことを聞いている。

 お爺ちゃん。
 トラって、雌猫だよね?
 それに、お爺ちゃんが拾った時も、もう大人の猫だったんだよね。
 ねえ、トラって、今いくつ?

 私が、婚約していた女性に手を上げたのは先月である。
 依頼、胸の辺りに嫌な痛みを感じている。
 婚約者とは連絡が取れない。
 胸の痛みは続いている。
 医者からは精密検査を勧められたが……。

「心臓も肺も真っ二つだったんだよ、親父は。一体、どんな気分なんだろうなあ」

 トラはじっと私を見つめて、「にゃあ」と鳴いた。

返信

ふたば様
新年あけましておめでとうございます。
2022年1月になりました。
新しい年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。

早速、三題お題 ありがとうございます。
先月は、一話しか投稿できず、それも、本編に挙げるまでには至りませんでした。
毎回、大山鳴動しネズミ一匹 のようなことばかりしているものですが、今月は、今年年男の息子の分も加味し、少し力の入った作品を手がけられるように、先月、願いながらも叶わなかった投稿作の完成を目指し頑張りたいと存じます。

ふたば様は、今、リレー競作のラストランナーとしての大役があるため、何かとご負担の多いことと存じます。
ご無理なさらず、寒さ厳しき折、どうぞお身体を労りながら、励まれますように。
お祈り申し上げます。

新年早々、素晴らしい言葉を拝見いたしました。
『芽吹き”転じて“才能開花”を司る』
芽吹き、成長し、自身の使命に気づく時、才能が開花する 
まさしく、今のふたば様に相応しい言葉ですね。

ふたばが本葉へと成長し、更に枝葉を伸ばし、軈ては大木となって、人々の心身を癒やし養い育てる器へと育ちますように。
昨年同様、この掲示板企画から、月間アワード作品がたくさん生まれますように。
素晴らしい企画とYou Tube朗読配信が、これからも長く続けられていきますように。
お祈り申し上げております。

何かと拙い母ですが、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

返信

皆様、明けましてお芽出とう御座います🎍🌅

“芽吹き”転じて“才能開花”を司る(今決めました)ふたばです( ᴗ ̫ ᴗ )
皆様、2021年は素敵なお話の数々を有難う御座いました。本年2022年も宜しくお願い致します🌱💡

さて、新しい年となり、月もまた新しくなりましたので、令和4年最初のお題を出させていただきます。

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【1月お題】

「トラ」「階段」「玉」

投稿期間 1/1 0:00〜1/28 23:59

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ふたばま未だ終わらない祭りに囚われている為しばらくレスポンスが悪いですが(割といつもそうですが…)、どれだけ遅刻しても必ず朗読致します(л・▽・)л💦

是非お気軽にご挑戦下さいませ💪🏻 (`꒳´)

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