これは5年前の話…
なぜアレを開けてしまったのか…
後悔だけが残っている…
5年前の夏。まだ高校生で遊び盛りの俺。
何をするにも洞寺と一緒だった。
夏休みに入り洞寺が
「どっか遠出しようや?」
って言い出した。
暇だった俺は勿論OK。
「何処行く?」
って話しになり、宿泊施設を調べていた。
そしたら洞寺が
「民宿なんてどうよ?」
って言ってきたんだ。
「はぁ?民宿なんてこの辺り沢山あるべや」
何を考え民宿なのか、こいつの考えがいまいち解らん。
「ちょ!これ見てみ?」
そう言い、洞寺が携帯画面を俺に見せた。
そこには少し寂れた民宿の画像。
「ボロ…。俺ヤダよこんな場所!」
「外見はボロいけどよ~1泊2食で5千!H湖目の前!駅まで送迎有り!だぞ?」
洞寺は何故かニヤニヤしてる。
「確かに値段は魅力的だけど…」
どこがそんなに良いのか解らない。
「ばっかったれ!!お前H湖知らねーの!?ナンパのスポットじゃねーかよ!」
少し興奮気味に洞寺が言った。
「ウハwマジで!?」
洞寺がニヤニヤしていた理由が解った。
「知夫昔(俺の名)鼻の下伸びすぎ(笑)」
「伸びてねーし!」
お互いニヤけながら早速宿を予約した。
ー宿泊当日ー
俺と洞寺は駅で待ち合わせをし電車に乗った。
目的地まで軽く2時間はかかる。
「お前何持ってきた?」
またニヤけ顔で洞寺が俺の鞄を漁る。
「ちょ!お前止めろよぉ~。普通に着替えとかしか入ってないから!」
洞寺の手が止まった。
俺何か言ったか??
「知夫昔…お前ゴーさん(解るかな?)持って来なかったのかよ?」
「持って来るわけないだろ!」
「あ~ぁ…ひと夏の楽しい思い出、お前は指をくわえて我慢だなw」
「そう言う洞寺は持ってきてんのかよ?」
洞寺は横に置いてある鞄に手を突っ込みガサガサ漁る。
「ジャジャ~ン!ちゃんと知夫昔にも分けてやるよ♪」
と言いながらゴーさんを見せびらかす洞寺…
「止めろよ!周り見てるべや!!」
俺は素早く洞寺からゴーさんを奪い取り、ポケットにしまった。
「ちぇっ」
なんて言いながら洞寺は景色を見ている…が、俺は他の乗客の視線が痛くて景色所では無かった。
恥ずかしい…
何かこっち向いてヒソヒソされてるし。
なんだかんだしているうちに目的の駅に着いた。
駅に着くと【サイハナ民宿】と書かれた服を着たおじさんが立っていた。
おじさん「洞寺様でいらっしゃいますか?」
洞寺「はい」
おじさん「遠い所をようこそいらっしゃいました。それでは荷物をお持ちしますので、お二人はお車にお乗りください」
俺らはおじさんに荷物を渡し車に乗り込んだ。
駅から15分程進んだらお目当ての民宿に到着した。
写真以上にボロい…
おじさん「少し古くてビックリなされましたでしょ(笑)でも料理は凄く美味しいですよ」
イヤイヤ…少しどころじゃないよな↓
俺「雰囲気があって良いじゃないっすか」
取り合えずお世辞を言ってみる。
おじさん「…するなよ…」
俺「えっ!?」
おじさんがボソッと何か言った。
俺には後悔するなよって聞こえたが気のせいか?
おじさん「でわ、こちらに」
案内され民宿の扉を開けると少しカビ臭く、薄暗い。
なぜか洞寺は終始無言だった。
おじさん「お客様は梅の間になります。食事の時間まで、ごゆっくりとおくつろぎください」
部屋の鍵を渡された。
ん?何故鍵が2つも付いてるんだ?
洞寺「あのぉ」
おじさん「はい?」
洞寺「他の従業員は居ないんですか?」
おじさん「あぁ………。少し席を外しておりまして…」
そう言い、おじさんは奥へと消えて行った。
俺「洞寺さっきから何かおかしくないか?」
洞寺「そっ…そうかな?普通だよ~」
取り合えず梅の間に向かう。
途中何室か部屋があるが扉には【101~102】の様に数字で書かれている。
何故俺らだけ梅の間?
部屋の前に着くと目の前には、この民宿には似合わない頑丈そうな扉があった。
扉には紙で梅の間と書かれ貼り付けてある。
洞寺「なぁ…何かおかしくね?」
俺「まぁな…。でも特別室とかなんじゃね?」
少し違和感を感じつつ鍵を差し込む……が、開かない。
俺「あれ?なんで開かないんだ?あっ…こっちかなぁ?」
もう一つの鍵で試してみる。
『ガチャッ』
重そうな扉はギィーっと音を出して開いた。
中はごく普通の和室。
中央にテーブルと椅子、右横にはテレビと冷蔵庫、左横には襖。
目の前の窓には、湖が広がっている。
俺「中はまぁまぁじゃん♪」
洞寺「まぁまぁだなwおし!湖にくりだそうや!!」
いつもの洞寺に戻っている。
フと外を見ると湖の淵に髪の長い女が立っていた。
後ろ姿で顔は見えない。
洞寺「何見てんの?」
俺「あぁ…。あそこの女」
指を指した。
洞寺「女!?どれどれぇ♪…居ねぇじゃん」
外を見ると女の姿は無かった。
俺「あれ?さっきまで居たんだけどな…?」
俺らは湖に向かった。
夏だと言うのに湖の周りだけ肌寒い。
洞寺「はぁぁぁ?人っ子1人居ねぇじゃん!!」
俺「居ねぇなぁ」
洞寺「くっそぉ!騙された!何がナンパのスポットだよ!俺の青春がぁ…」
俺「ここに居てもしょうがないし、部屋戻るか?」
洞寺「んだなぁ~」
俺はその湖に何故か違和感を感じていた。
何かがおかしい…。
静か過ぎるんだ。
こんなに緑が多いのに、鳥の鳴く声すらしない…。
変な感じがしつつ、俺等は部屋に戻った。
洞寺「ちぇっ!女が居なけりゃここに来た意味ねぇじゃん」
俺「まぁ…仕方ないじゃねぇか。そう言う事も有るって!そう言えば、なんでさっき様子おかしかったんだ?」
洞寺「ん?あぁ…。いやさ、車に乗ってた女何処行ったんかなぁって」
俺「女?」
車に女なんか乗っていたか?
…確か俺、洞寺、おじさんの3人じゃなかったか?
洞寺「俺ら後ろ(後部座席)に居たべ?助手席に居た髪の長いネェチャンさ」
俺「いや…?俺とお前、おじさんの3人だったけど?」
洞寺「またまたぁ~。ずっと車に乗ってたじゃん」
俺「いや…。まじで」
洞寺&俺「……。」
洞寺「じ…じゃぁ、俺の見間違いかな?ははw」
あんな近くで勘違いなんかあるか?
さっきの女と言い、車と言い何なんだ?
洞寺はテレビを付けた。
お互い先程の事には触れずテレビを見ていた。
気が付くと外は夕日で赤く染まっていた。
まん丸と大きな夕日。
湖の周りの木々も夕日に照らされ綺麗な色をしていた。
そろそろ布団でも敷いとくか…。押し入れを開けると上下2段に別れており、上には布団、下には段ボールが1つあった。
洞寺「おっ♪お宝か?」
そう言い段ボールを取り出した。段ボールはごく普通の大きさな物だ。
洞寺が段ボールを開けた。
俺「勝手に見たらまずいんじゃねーの?」
洞寺「客室に置いてあるほうが悪い♪見てみろよこれ!」
洞寺の手には木の箱があった。そこまで大きくもなく、小さくもない。
救急箱の半分位の大きさか?その箱には鍵が付いていた。(南京錠)
洞寺「ちぇ~。鍵付いてやがる。中が気になるなぁ」
洞寺は箱を上下に揺さぶる。中からガサガサと音がした。俺はあることに気が付いた。
俺「あっ…。そう言えば部屋の鍵に付いてた鍵。あれで開かないか?」
洞寺「!!♪ナイス知夫昔~。俺開けるわ」
洞寺が鍵を箱の鍵穴に差し込み回す。
カチ…っと音を立て鍵が開いた。箱を開けると中から古そうな手帳が出てきた。洞寺は手帳を手にとりペラペラ捲り始め、俺はそれを覗きこんだ。
*8月2日*
今日は体調が良い。湖に行ってみた。
*8月3日*
何もする気がおきない。駄目だ駄目だ駄目だ…
*8月4日*
私の体……イタイ
*8月5日*
…………死にたい……
*8月6日*
来る…クル…………
*8月?日*
……………キタ…
誰かの日記なのだろうか?乱文過ぎて所々しか読めない。何が来たのだろう?
俺「おい!洞寺…気味悪いから戻そうぜ?」
洞寺「…」
洞寺は聞こえていないのか、狂った様に手帳を読みあさっていた。
洞寺「…ウカ…。…ダナ?」
俺「洞寺?」
ブツブツと呟いているが良く聞こえない。
全身に鳥肌がたっていた。この民宿は何かがおかしい…。
扉に始まり、女、湖、手帳…。何なんだ一体?でもここに居たら駄目な気がする。
俺「洞寺!帰るぞ!」
相変わらず洞寺は手帳を読んでいる。俺は2人分の荷物をまとめ、洞寺の腕を引っ張るがビクともしない。相変わらずブツブツ呟く洞寺に段々イライラしてきた。
俺は洞寺を思いっきり殴った。
俺「いい加減目覚ませや!!」
洞寺は軽く後ろに倒れた。
洞寺「ってぇーな!何すんだよ!」
正気に戻っている。
俺「帰るぞ!」
洞寺「はっ?ちょっ…待てよ!」
俺「いいから来い!!」
少しキレ気味に言い、袖を掴むと足早に部屋を出た。
民宿から歩いて駅までどの位だ?なんて考えながら、入り口付近に差し掛かった時、壁に何かある事に気付いた。
*1960年8月…父と娘*
と書かれた大きな写真。そこには民宿のおじさんと、湖で見た女と思われる2人が写っていた。
ん?………60年?
俺は洞寺を引っ張りながら走り出していた。
どのくらい走っただろう。背中は汗でぐっしょりしていた。
洞寺「はぁはぁ…俺…もう無理…」
俺「はぁ…少し休むか」
洞寺「どうしたん?いきなり」
俺は洞寺の方を向いた。…洞寺の手にはさっきの手帳が握られている。
俺「お前!そんなもん早く投げろ!」
洞寺「あっ!ヤベ!持って来ちまったんか」
洞寺は道路脇の草むらに手帳を投げた。
俺はさっきまでの事を説明した。
洞寺「…俺、手帳開いてから…あまり覚えてないだ。それに60年て…」
少し考えてるのか洞寺は下を向いている。しかし俺は洞寺の後ろを見ていた。丁度3メートル位奥の木の所。先ほどから赤と白の布の様な物がチラホラしている。
俺「…おい。お前あれなんだと思う?」
洞寺は後ろを向いた。その時それが半分だけ木から出てきたのだ。
俺&洞寺「う゛ぁっっ!」
俺等はその場から逃げるように走り出した。
なんだ!?…なんであいつが此処に!?
洞寺「あいつだよ!!車に居た女!どうなってんだよ!?」
俺「知らねーよ!良いから走れ」
縺れながらもひたすら走った。
汗なのか涙なのか良くわからないものが、顔から溢れ出している。
間違いない。写真の女だ。赤い模様の服だと思っていたが、あれは模様ではなく血だ…。血が真っ白い服に付いて模様に見えたんだ…。
それにあの顔は…骨?右上の頭にむき出しにされていたのは骨だった…。
クソ!どうなっていやがる!一体何が起こってんだ!
暫く走っていたら後ろから一台の車が来た。
俺は民宿の車かと思い身構えた。
しかし、近寄って来たのは民宿の車ではなかった。
俺は車の前に出ると必死に叫んだ。
俺「すいません!!止まってください!止まって!!」
車はビックリしたのか急停車した。
中から30歳位のガタイの良いおじさん(以後A)が出てきた。
A「どうしたんだ!?ビックリするじゃねーか!」
俺「…迷ってしまって。すいませんが駅まで乗せてくれませんか?」
A「おぉ…。そうかそうか。いいぞ!乗れ」
俺&洞寺「ありがとうございます!!!」
俺等は車に乗り込んだ。
A「お前ら2人だけで良いのか?あそこに居る、ねぇちゃんは?」
俺等は横を向いた。丁度木の所にあの女が立っている。
俺「しっ…知りません!急いで出してください!」
Aは首を傾げながら車を発進させた。
洞寺は青ざめた顔して、横でガタガタ震えている。多分俺も…。
発進した後、俺は少しだけ後ろを向いた。一瞬女が手招きをしている様に見えた。
A「兄ちゃん達どっから来たんだ?」
俺「サイハナ民宿です」
A「ハッハッハ!兄ちゃん冗談キツいわ~」
俺「…?えっと…はは…そうっすね。あそこって何かあるんすか?」
A「何言ってんだ(笑)あそこら辺の民宿は、全て何十年も前に閉鎖されてるだろ」
俺「…。勿体無いっすね、あんな綺麗な湖があるのに。」
A「兄ちゃん何も知らないんだな?あの湖は、今は埋め立てられて更地になってるんだよ」
俺と洞寺は顔を見合わせた。俺等に一体何が起こったんだ?俺等が見た物は何だったんだ…。
A「おい!駅に着いたぞ」
俺&洞寺「有難うございました!」
Aは窓を全開にし俺等を見た。
A「……。いちを言っとくが…。あの民宿の側には近付くなよ。連れてかれるぞ…。まっ!じゃぁな」
それを伝えるとAは満面の笑みを浮かべ車を発進させた。
電車を待つ間、俺と洞寺は今日の出来事を振り返った。俺が感じた湖の違和感…あれは夕日が湖に反射していなかったからだと今更ながら気付いた。
そうこうしているうちに電車が来た。
乗り込むと直ぐに発進した。俺は窓側に座る。ボーっと薄暗い外を眺めていた。
丁度電柱の下…おじさんと女が立っていた。
怖い話投稿:ホラーテラー いつの間にか寝てしまっていた。辺りはもう暗くなっている。
電車は目的地の2つ前の駅で停車していた。
フと横を見る。…洞寺が居ない。横に座って居たはずなのに…。
俺は電車の中を探しまわった。
しかし、洞寺の姿は見当たらなかったのだ。荷物だけを残し忽然と姿を消してしまった。
電車が目的の駅に到着した。
しかたない…洞寺の荷物も持って行くか。
俺は電車から降り1人で家に向かった。
家を出てそんなに時間が経っていないにもかかわらず、どこか懐かしく安堵する自分がいた。
家に着いた。
俺「ただいま」
母「おかえり~!あっ…さっき洞寺君から電話があったよ」
俺「!!!…なんて?」
母「少し寄り道するからだって」
洞寺はどこに行ったんだ?でも電話があったって事は無事みたいだな…。
俺は自分の部屋に戻ると、疲れからかすぐに寝てしまった。
翌日洞寺に電話をかけたが留守のようだった。
しかし、その日以降洞寺の姿を見ることはなかった。
こころあたりは全て探したが、どこにも居なかった…。
それから1年が過ぎた頃洞寺から手紙が送られてきた。
その手紙が何を意味するのか…俺にはわからない。だが…きっとこれが洞寺の居場所を探し出す、最後の手がかりなのだと思う…。
以下が洞寺の手紙文だ。
何も
解らなかった…
0…
骸骨が
笑ってる…
0…
もう…駄目だ…
ウ゛ー
ー…?
ばいばい…
終わり…
洞寺は俺に何を伝えようとしてくれていたのか…。洞寺に一体何が起こったのか…。俺にはわからない…。だがきっと、俺は洞寺を探し出してやる!
だからその時まで…どうか…無事で居てくれ…。
*予想以上に長くなってしまいました。この話しはここで終わりです。閲覧してくださった皆様…本当感謝感謝です!
ご希望があれば、その後のお話も投稿させていただきます。*
怖い話投稿:ホラーテラー 優さん 優さん
作者怖話