短編2
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雪の小瓶

一人の少女がいた。

少女は、祝福の中に生まれてきた子供では無かった。

少女は病気だった。

長くは生きられない病気だった。

父は少女を愛してはいなかった。

少女を病院に押し込め、お金だけを払っていた。

母はこの世にいなかった。

母は少女をただの一度も抱きしめることなく逝ってしまった。

少女は愛を知らなかった。

少女が知っているのは病室の中と、窓から見える景色だけだった。

看護師はその病室に入る時、いつも気が重くなった。

嫌な患者ではない。

むしろ、とてもいい子だ。

しかしそのあまりの無垢さ、そして境遇の不憫さで一歩引いてしまうのだ。

それでも看護師は、時間を見付けてはその病室を訪れていた。

それが自分に出来るただ一つの事だと思っていた。

その日は、とても寒かった。

看護師は検温の為に、少女の病室を訪れた。

病室に入ると、少女は窓の外を見ていた。

窓ガラスが曇るたびに、手で拭う。

それだけで少女の息は上がっていた。

窓の外に目をやると、雪が降っていた。

大粒の雪だった。

雪が降るなんて、珍しいことだった。

少女は窓の外を見たまま、看護師に質問した。

看護師は、その質問に答えられなかった。

看護師が帰る時も、雪は降り続けていた。

看護師は、自分の手が冷たくなっていくのを感じた。

年が明け、少女の容態が悪化した。

少女は体を起こすことさえ出来なくなっていた。

その日も、雪が降った。

医師は首を横に振った。

父は姿を見せなかった。

看護師は少女についていた。

その時、少女と目が合った。

少女は一言だけ呟いた。

看護師は黙って頷いた。

小さな瓶に、雪を詰める。

溶けないように小瓶を手で包みこんだ。

その夜、少女は息を引き取った。

その表情は、柔らかなものだった。

その日、看護師は病室を片付けていた。

昨夜亡くなった少女の病室だ。

本当なら彼女がやるべき仕事だった。

看護師は、枕元に何かを見付けた。

手に取ると、それは意外に冷たかった。

雪の入った小瓶が、掌で輝いた。

怖い話投稿:ホラーテラー カルネさん  

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