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中編4
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乗組員

 俺は今、とてつもない恐怖と共に宇宙を漂っている。30歳になった大の大人が恐怖で震えている。我ながら情け無い。生きている心地がしない。何故こんな事になったのだっけ。

 昨日、俺はNA&SAのロケット打ち上げの現場いた。それもそのはず、俺はロケットに搭乗していたのだから。隣の席の仲間が俺に話しかける。「ワクワクするな。俺は宇宙に行くのは夢だったんだ。僕はマイケル、よろしく。」と。俺は、その男が差し出す右手を強く握りしめた。

 やがて、ロケット打ち上げのカウンウントダウンが始まった。正直、怖かったのを覚えている。宇宙…まさに未知の世界。俺がまだ未体験の領域。そこへ向かおうとしているのだから。

 打ち上げのカウントダウンが終わった。点火されたロケットは、宇宙目掛け直進していく。その時、俺は不意にマイケルの顔を見た。マイケルは笑っていた。俺は宇宙に向かう事に恐怖していると言うのに、マイケルは笑っていた。俺はマイケルに対し少しばかりの引け目を感じた。

 ロケットが宇宙に到着した。「よし。席のシートベルトを外せ」と隊長が言った。皆が一斉にシートベルトを外し、立ち上がった。「たった今より我々は6ヶ月間、宇宙で生活する。気を引き締めろよ。」隊長はそう言いながら空中で1回転して見せた。

 宇宙に着いてから6時間が経ち、俺も皆も大分落ち着いてきた頃、マイケルが言った。「暇だから遊ぼう」と。その瞬間である。マイケルの口から細い腕が2本飛び出した。その腕はマイケルの口をメリメリと引き裂き、中から奇妙な生物が這い出てきた。

 乗組員は全員凍りついた。当たり前である。人間の口から、奇妙な生物が飛び出してきたのだから。皮膚は滑りつき、顔には大きな目が2つ…そう、グレイそのものだった。「マズハオマエダ…」グレイは隊長に向かって呟いた。

 グレイは素早く隊長に飛びついた。隊長は喚きながらグレイを振り払おうとした。が、その抵抗もむなしく、グレイは隊長の口にスルスルと入り込んでいってしまった。隊長は膝を着き、しばらくの間もがいていたが、突然スクッと立ち上がった。

 …しばしの静寂。堪りかねた乗組員の一人が、棒立ち状態の隊長に話しかける。「た…隊長?大丈夫ですか?」。隊長はその問いに対し、「何の事だ?」と答えた。どうやらグレイが体内に入っていると言う自覚が無いらしい。我々が唖然としていると、隊長が突然呻きだした。そして、ベコッ!!と音がしたと同時に、隊長の体が一瞬にして干からびてしまった。まるで、血を1滴残らず搾り取られたように。

 メリメリ…。干からびた隊長の口が大きく開き、腕が2本飛び出してきた。そして、再びグレイが我々の前に現れた。「ツギハ…」グレイはそう言うと乗組員に飛びついた。俺は怖くなり、別の部屋に逃げ込んだ。鍵を閉め、此れが夢である事を願った。

 そして現在、俺はまだ部屋に閉じこもっている。もう俺以外の乗組員は死んだだろう。時々聞こえていた悲鳴が全く聞こえなくなったのだ。俺は宇宙に来たことを後悔した。ただひたすらに。

 ヒタ…ヒタ…。足音が聞こえる。残った乗組員は俺一人。次の狙いは当然俺だろう。ヒタ…ヒタ…。ヤツの足音が近づいてきた。ヒタ…ヒタ…ピタッ。ヤツはこの扉の向かい側で立ち止まった。もう終わりだ。

 コンコン…。扉をノックする音。「おい俺だ!!ヤツを仕留めた!!もう安全だぞ!!」。その声は、紛れも無い乗組員の1人の声だった。ヤツを倒した!?やった、助かったんだ!!そう思って扉を開けようとしたが、そこである考えが浮かんだ。“ヤツは人の体に入り操る事が出来る。これは俺をおびき出すための罠では?”と。

 俺は、鍵を開けるのを止め、座り込んだ。「おい!!開けろって!!出て来い!!」。扉の向こうで叫ぶ乗組員…いや、グレイと言ったほうがいいか。しばらくすると、その叫び声がピタ…と収まった。その変わりに、ドンッドンッ!!と扉が大きな音をたて始めた。遂にヤツがしびれをきらしたのだ。

 ドン!!ドン!!ヤツは何時間も扉を叩き続けている。扉は徐々に壊れていく。そして…遂に扉が開いてしまった。俺の目の前には干からびた姿の乗組員、いや、グレイが立っている。メリ…メリ…乗組員の口が開く。俺はここで死ぬのだな。俺は覚悟を決めた。

 ズリュ…ズリュ…。俺の口に入ってきている…ヤツが。俺の中に。今、入り込んできている。その時、俺は自分の人生を振り返っていた。人は死ぬ瞬間、今まで生きてきた自分の人生を一瞬の内に思い出すと言う。その中で、俺は1つ奇妙な記憶を見つけた。俺が10歳の時…いや、この記憶は間違いだ。そんなはずが無い。

 ズリュ…ズリュ…ピタ。何だ?俺の体内に入ろうとしているグレイの動きが止まった。一体どうしたのだ?俺がそう思った瞬間、グレイが俺の口から飛び出してきた。そしてグレイは言った。「チッ…モウスデニセンキャクガイタトハナ」。

グレイの言葉を聞いた瞬間、俺の口から腕が2本飛び出してきた。どうやら俺の奇妙な記憶は正しかったらしい。俺の中の乗組員は、俺を20年間も操縦していたのだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 最愛さん  

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