これは、私がお子様向けの学習教材の訪問販売をしていた頃の話です。
改行がうまくできず、読みづらいことを先にお詫びします。
私のいた会社は、地図を頼りに軒並み訪問し、お子様がおられるお宅を見つけては教材の購入をお勧めする、という営業スタイルでした。
効率良く廻る為に、営業マンはお宅の様々な箇所を観察してお子様がおられるかどうかを判断します。
表札・洗濯物・車種である程度の家族構成は予測できますが、1番わかりやすのはお子様向けのおもちゃや自転車などです。
そのお宅は平屋の古い木造住宅で、玄関先に小学生が学校から持ち帰る朝顔の鉢と、色褪せた自転車が置いてありました。
「しめた!」と、私は喜び勇んで玄関の引き戸をノックしました。
中から出て来られたのは質素で陰気な雰囲気の、奥様でした。
お聞きすると間違いなく小学生のお子様がいらっしゃるとのことでしたが、 失礼ですがその風貌と、散らかっている玄関奥の様子を見て「これはとても高額な教材を購入できる余裕は無さそうだな」と内心ガッカリしました。
ただ、貧しくとも子供さんの教育費だけは惜しまないというお宅を沢山を知っていましたから、気を取り直して営業トークを話し始めました。
話している最中もほとんど反応は無く、全く手応えを感じることができないまま1時間が経ちました。
「これはもうダメだ」と諦め引き上げようとした時、今度は奥様の方が堰を切ったように話し始めたのです。
子供の為にできるだけのことはしてあげたいが、主人が働かないので私がパートをかけもちして家計を支えている。
子供はそんな家庭の状況を察してか、おもちゃもねだらないし習い事も我慢しているよう。
本当は音楽が好きでピアノを習いたいはずなのに…。
主人にそのことを話し、何でもいいから仕事をしてくれるようお願いしたら「ピアニストにでもなるのか。
元がとれないようなものをやらせる必要はない」と、子供の将来を真剣に考えてくれない―。
そんな内容でした。
私は自分を恥じました。
こんなにお子様に対して愛情を注いでおられ、お金が無いことで夢を叶えてあげられなことに心を傷めていらっしゃるお宅を「教材を買ってくれなさそうだから」という自分勝手な理由で差別していたことを…。
とはいえ、私などがお力になれることはあるはずも無く、お時間を頂戴したことを丁重にお詫びしてそのお宅を失礼させていただきました。
それまでお客様を「教材を買ってくれそうかどうか」という視点でしか見られず、「いかに商品を売り込むか」しか考えられていなかった自分を、見つめ直すいいきっかけとなりました。
それから………1ヵ月後でした。
そのお宅で殺人事件が起きたのは…。
容疑者は、奥様。
被害者は、ご主人。
ニュースや新聞を見ずとも、動機はすぐにわかりました。
許せなかったんでしょうね…。
子供の為に頑張れないご主人を…。
先日、母性をテーマにしたドラマを観て思い出し、投稿しました。
もう10年も前のお話です。
怖い話投稿:ホラーテラー 最初で最後の投稿さん
作者怖話