秋の風が吹きはじめた頃、わたしはいつものように客を待っていました、ですがこの客、もう少しで着くから、待ってて、を繰り返し結局二時間も駅前で待たされました。
そろそろ帰ってしまおうかと思い出した頃、彼は黒い軽バンで現れました。
若者向けの雑誌に載っているようなオニーサン、正直かなり格好良かったです、この人が、今日の客‥?
わたしは困惑しました、今までのオジサン達とは明らかに違い過ぎる、危ないんじゃないか、とも思いましたが過去全ての仕事を悠々とクリアしてきたわたしは一瞬だけ考え、サイドシートへ乗り込みました。
『ごめんな、遅くなって』
彼はそんなような事を言いながら、当てがあるのか車を走らせます。
目的地?への車内、彼とは色々な話をしました。
なぜ、援助交際なんてしているのか?
あぶないとは思わないのか?
わたしはあまり嘘をつくのが得意ではありません、ほとんど本心を話しました。
唐突に、彼は車を止めました。
そこは、広い公園の駐車場の様でしたが今はもうすでに深夜、人気は全くありません、こんな所に、なぜ?とは思いましたが、彼は呑気にタバコに火を点けます。
間が持たなくなったわたしは次に彼に質問を投げ掛けました。
『オニーサンこそ、モテそうやのに、なんでこんなんしてるん?』
『モテそうに見える?嬉しいなぁ』
はぐらかされた、いくらバカのわたしでも分かりました。
ですがそこから真実を突き止める術をわたしは知りません、なんとなく笑いで空気を合わせながらふと窓の外を見ると、白い、ハイエースが近付いて来ていました。
わたし達が居る駐車場は行き止まり、深夜に向かって来る車等ほとんどないのが当たり前です、おかしいな、ハイエースを眺めていると、わたし達の車を確認する様に、10メートル程先で、かなり無理矢理な切り替えをし、引き返して行きました。
『こんな時間にこんな所になんやねんな‥』
彼が呟きます。
わたしも同じ気持ちでした、何か違和感を感じましたが、道を間違えただけ、と思い直し、彼へ向き直りました。
しばらく話した後、彼はため息をつき、エンジンをかけました。
『なあ‥まおちゃん、良い話と悪い話があるねんけど、どっちから聞きたい?』
アクセルを踏む訳でもなく、ハンドルに手を置いたまま、彼はわたしに言いました。
『‥‥じゃあ、良い話から』
『俺、今はその気ないから』
怖い話投稿:ホラーテラー まおさん
作者怖話