ある女の子の八歳の誕生日に悲劇が起こった。
強盗が入り、家族を殺し女の子を連れ去った。
女の子は、幸せから地獄に叩き落とされた。
毎日のように暴力を振るわれる。
そんな毎日は少しずつ、女の子から色々な物を削り取っていく……
五月蝿いと怒鳴られ、声を無くした。
家族の死と暴力が、笑顔を消した。
そして、十歳の誕生日。
泥酔した男に押さえ付けられ、子供心に何をされるか解り抵抗した。
男は泥酔していた為、予期せぬ抵抗にバランスを崩し、倒れ頭を打ち動かなくなった。
女の子は逃げ出した。
二年ぶりの外。
行く場所などない。
幸せだった時を思い出しながら、ただ歩く。
足が痛みを訴えても歩き続ける。
女の子は裸足だった。
疲れが限界に達し、足が悲鳴を上げ立ち止まる。
目の前には、不思議な店が在った。
何処か懐かしさを感じさせる外観と匂いに、女の子は吸い寄せられるように店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ。これはまた、随分とお若い御客様ですね」
初老の老人が少し頭を下げた。
優しそうな顔と声に女の子は泣き出した。
一向に泣き止まない女の子に老人は目を細めた。
「これは困りましたね。では、面白いお話をしましょうか」
老人の不思議な話は女の子の心に響き、少しずつ涙を止めていく。
やがて、女の子の涙は止まり興味の相が浮かんでいた。
「やっと、涙が止まりましたね。申し遅れましたが、私はこの店の管理を勤めている者で、付喪(つくも)と申します。気軽に店主と、お呼び下さい」
「…………」
何かを言いかけた女の子は声が出なかった。
店主は目を細め頷いた。
「そうですか。御家族と声を無くされたのですね」
店主は女の子の過去を知ってるかのようだった。
少しの沈黙の後に、店主はゆっくりと語り出した。
まず会員の条件と特権。
次に、行く場所が無いなら此処に居てもいいと。
「さて、どうなさいますか?」
此処に居れば、無くした物を取り返せるという気持ちが湧き、女の子は頷いた。
「では、お名前を……」
女の子は再び泣き出した。
名前は大嫌いな物でしか無かった。
あの男に名前を呼ばれる時は、暴力を振るわれる合図のような物。
「すみません。軽率でしたね」
店主は深々と頭を下げ、新しい名前を付けてはどうかと提案した。
女の子は涙で濡れた顔で頷いた。
「では、凪(なぎ)というのは如何ですか? 凪とは貴方の名前とは反対の意味です」
女の子は新しい名前の響きに、生まれ変わったような気がして少しだけ微笑んだ。
不思議なお店と店主、そして凪の日々が始まった……
怖い話投稿:ホラーテラー 月凪さん
作者怖話