「もう前のような付き合いじゃないの」と久しぶりに逢った彼女は私の問いに答えた。
彼女は古くからの友人。
その彼女が不倫をしているのは彼女の告白で知っていた。
久しぶりに逢う彼女にさり気なく不倫相手との近況を聞いた私に彼女が答えた言葉だ。
もう3年も付き合っていると自然と連絡も遠のき体の関係もなくなったという。
私はトラブルもなく自然に近い環境で不倫相手ときれて良かったと心の中で喜んだ。
しかし彼女の表情がどこかすっきりしないのを私は複雑な心境で見つめながら話の話題を変えた。
それからかなり長い間彼女との連絡も途絶えたある日突然彼女からメールがきた。
…旦那が死んじゃった…
内容は短く要領が得られず私は彼女に電話をした。
ワンコールで彼女は出た。
その声はかすかにふるえていた。
私は彼女に詳細を問うと
ご主人は仕事中の事故で即死だったらしい。
確かご主人の仕事は車関係だと以前聞いた事がある。
何でも不審な点がありご遺体はまだ警察から自宅に戻っていないという。
私は手短に電話を切り彼女の自宅に向かった。
彼女の家に着くと
時計は深夜0時を少しすぎていた。
彼女は目を真っ赤にして玄関に出てきて私を見るなり抱きついてきた。
少しの間彼女が落ち着くまで私はただ黙って彼女の背中をさすっていた。
どれぐらい時間が経っただろうか。
彼女の携帯が鳴った。
でも彼女はディスプレイを見て出ようとしない。
「どうしたの?出なくって良いの?」と私が聞くと
「大丈夫」と無表情で答えふらふらしながらリビングに立ちお茶を入れ始めた。
私は彼女の家に着いてからずっと訊きたかったことを彼女に聞こうと口を開こうとした瞬間に彼女が先に口をきった。
「あなたが言いたい事はわかっている。そうなの。私が旦那を殺したの。事故にみせかけてね」と淡々と言った。
その横で悲しそうな表情のご主人が立っていた。
私が彼女の家に着いてからずっとご主人は彼女の隣にいた。
「あなたはみえる人だからやっぱり解っちゃった」と観念したように呟いた。
「でもあなたのお陰で勇気がでたわ」
少し笑った顔は出逢った頃の彼女だった。
彼女は自首した。
後日詳細が分かった。
彼女は不倫相手とはまだ続いていた。
最近ご主人にばれてしまい不倫相手と相談して仕事中の事故にみせようと彼女が飲んでいた眠剤をご主人の水筒にいれて仕事に送り出した。
「本当に好きだから別れたくなかった」
警察の取り調べに対して彼女は不倫相手への気持ちをこう言ったらしい。
しかし自ら手をかけたご主人に対しては謝罪の言葉はまだ聞かれないとのこと。
先日彼女の家の前を通った時まだご主人は家の前で佇んでいた。
会社に着くと社内がざわめいていた。
私は同期の瑶子に何かあったのか訊くと
瑶子は大きい目をより一層見開き興奮しながら
「田村さんが亡くなったんだって!」
「えっ!?なんで?」
「うーん…実は私もよく分からないんだけど今朝来たら課長が話してたの」
田村さんは同じ課の女性で年齢は私より3歳程上だ。独身でおとなしめだが存在感のある独特の魅力のある女性というのが私の田村さんに対しての印象だ。
その田村さんになにがあったというのか。
そういえば最近顔をみていないなぁ…
そんな事を考えていると急に右肩を叩かれ振り返ると瑶子が真顔で「今から緊急朝礼だって」
私達は急いでデスクに座った。
少しすると課長が顔面蒼白で額の汗を拭きながら私達の前に来た。
「知っている人もいるかもしれないが田村さんが亡くなった。連絡がとれないことに不審に思った親御さんが訪問して発見したそうだ。死因がはっきりしない為今警察が調べている最中だ。はっきり判るまでみんなもこの事は吹聴しないように」
と言うと課長は足早にどこかに行ってしまった。
一気に周りがざわめきだした。
こうなったらみんな仕事どころではない。
田村さんと親しかった人達に自然とみんなが集まった。
その中の一人が震えながら口を開いた。
「田村さん旅行に行くって一週間前から有給をとっていたの。確か明日から出社の予定だったはずよ。何処に誰と行くのかは訊いても笑って答えてくれなかった。だから今朝出勤して何が何だか分からない」と泣き出してしまった。
田村さんの事も進展しないまま数日が経ったある日
突然警察が会社に来て課長を連行して行った。
課長と田村さんは不倫していたのだ。
その事実を知った課長の奥さんが二人が旅行に行く前に何とか別れてもらおうと田村さんのマンションに出向きかっとなり殴りかかったところバランスを崩した田村さんが後頭部を床にぶつけ…
課長は何も知らず待ち合わせの場所にこない田村さんのマンションに行ったり携帯にかけたりメールしたりと必死に田村さんの安否を心配していたらしい。
だが課長はあの日奥さんが帰った時からもう田村さんがこの世にいないと解ったという。
なぜなら奥さんの背中には田村さんが鬼の形相で奥さんを睨みつけていたから
全ては自分の責任だ。
課長は奥さんに謝り死のうと田村さんのマンションに向かった。
8階の田村さんの部屋の前で立ちすくんでいると田村さんが部屋のドアを開け満面の笑顔で
「遅かったじゃない。早く行かないと新幹線乗り遅れちゃうよ」と言い課長の左腕をつかみ自分の方に引っ張り
「あなたはずっと私だけのもの」と言い消えたという。
彼女は朝から怒鳴っていた。
彼女が怒鳴ると誰も止められない。
言っていることは全て理にかなっているからだ。
しかし……もう少し言い方があるのではないだろうか。
そんな事を考えていると
「ちょっと聞いているの??」
「!!」
俺は慌てて頭をさげながら謝る。
朝っぱからこの女上司の怒鳴り声で俺は完全に二日酔いがさめた。
昨日俺は前から予定していた合コンに行きたいが為に仕事を途中で終わらせ帰ってしまった。
結果…これだ。
客からクレームが来て女上司は俺の代わりに謝罪をし事なきを得た。
そりゃ朝から怒鳴りたくなるわな。
俺はひたすら謝り続けこの件のレポートを提出する事でやっと昼前に解放された。
部署に戻ると一つ上の須藤先輩が笑いながら俺に近づき
「ご愁傷様。朝からアナコンダの説教で腹が減っただろ?俺がおごるから食いに行こうぜ」と言い俺の肩を抱えて歩き出した。
アナコンダは女上司のあだ名だが勿論内輪の話だ。
正直昼飯は入りそうにない。が
先輩の誘いを断るわけにはいかない。
俺は軽いざるそばを頼んだ。
「なになに!?俺は今日は財布が重いんだ。心配するな」と俺に自分と同じうな重をすすめてきた。
俺は丁重に断りざるそばにした。
あまり食欲がないところに無理無理そばを流し込んでいると先輩が突然話し出した。
「そういえば俺見てはいけないものを見てしまったんだ」
どこか遠くを見つめながらボソッと言った。
「何を見たんですか?」
俺は少しけだるそうに訊くと
急に俺の顔を凝視し「誰にも言っちゃ駄目だぞ」と前置きして
「実は俺昨日の晩会社に忘れ物したのに気付いて来たんだ。駐車場に車を停めて出ようとしたら一台の乗用車が入ってきたから何気なく見ていたら何とアナコンダと本社の大川さんが乗っているじゃないか。俺は二人に気付かれないよう車の中からじっと見ていたら何とあの二人がキスをしてるじゃないか」
先輩はだんだんエキサイティングし始めた。
それも無理はない。
アナコンダは俺のいる支店のナンバーワン。
結婚して子供も二人いる。
かたや本社の大川さんは仕事が出来るのを上にかわれ5年くらい前に本社に栄転したやり手の男性だ。
確か若い奥さんと双子がいる。
アナコンダは社内では完璧な仕事人間そのもの。相手が男だろうが上司だろうが間違っていたらとことんものを言う。
頭はきれる。いやきれ過ぎる。だから女だが支店ナンバーワンにまでなったんだろう。
男勝りだが黙っていたら
本当に知的な美人なのに。
そのアナコンダが不倫していたのだ。
先輩は更に続けた。
「キスが終わるとアナコンダは車から出て自分の車に乗ったんだ。それを見届けるように大川さんは走って行った。それから少ししてアナコンダも帰って行ったよ」
凄い絵図を目撃してしまったと先輩はため息をついた。
この事は二人の秘密にしてどういうわけか昼飯は割り勘になり俺たちは会社に戻った。
それからというものアナコンダの顔を見る度俺は例えようのない複雑な気持ちになった。
アナコンダも所詮女なんだなぁなんて思っていた。
そのアナコンダが突然入院したと社内がざわめいた。
何と大川さんと一緒に車に乗っているところを前方不注意の対向車に突っ込まれ大川さんは病院に搬送されたが間もなく死亡。
アナコンダは全身打撲の重症も命に別状はなしとの事。
会社中にアナコンダの不倫がばれもう社内はその話でもちきり。
数日後俺は会社の何人かと大川さんの葬式に出席した。
そこで初めて大川さんの奥さんを見たんだけど若くって可愛い女性だった。
喪服姿が痛々しく正直まともに顔を見れなかった。
お焼香も終わり遺族席を見たら奥さんがいない。
おかしいなと思いながら帰っていたらどこからとなく女の声がするから見てみると奥さんが寺の裏手で笑いながら「やった。やった。やった。」と言っていた。
俺はゾッとし足早に帰った。
それから俺は田舎の親の跡を継ぐことになり会社を辞めた。
たまに仕事で上京した時に昔の会社の仲間と呑むが必ずアナコンダの話題は出る。
アナコンダは会社も辞め旦那さんとも別れたらしい。
今は福祉関係の仕事をしているとか。
そうそう大川さんの奥さんはたっぷり保険金が入り
今は日本にいないとか。
奥さんの執念だったのか。今となっては解らない。
「ウッソー彼氏がいないなんて考えられない」
悪びれた様子もなく自分の考えを言うユキに一気に
その場の雰囲気がしらける
つかの間の休息の戦場のナースステーションで私たちは恋愛話に花を咲かせていた。
「彼氏がいなくって悪かったですよ」
心の中で怒りながら私は
ナースコールの対応をした
ユキは男がほっとけないタイプの女性。
まぁ…言わば異性に好かれ同性に嫌われるタイプといえば一番しっくりくるかと思う。
そんなユキは同僚の私たちにお構いなく新しいドクターと付き合っていた。
ドクターもドクターだが
あまり言うと妬んでいると思われるので表立ってみんな言わないけど。
長くいるドクターも勿論いるが若い研修生は比較的短期間しかいない。
その研修生を片っ端から
狙うんだからユキもタフというか・・・・・病気!?
そんなユキだが実は本命がちゃんといる。
外科部長がその相手。
部長は長身のナイスガイ。
患者に優しく腕も良いから部長の外来日は混むわ混むわ。
かれこれ5年の付き合いとか。
部長は勿論既婚者。
確か奥さまは教授の娘と言ってたな。
かなりの美人らしい。
ユキはその奥さまにかなり敵対心があるらしく
ユキの前で部長の奥さまの話題を出すとユキから突拍子もない仕返しがくるらしい。
夜勤が一緒になった時
その人の分の夕食がないので食事伝票をみたら消されていたり
まぁ証拠はないけど明らかにグレーかなと思うような内容ばかり。
そんなユキがどうして病院で普通に働いていられるかと言うと……
まぁ仕事は出来る。
悔しいけど認める。
男好きを抜かせば完璧にナイチンゲールかも!?
でも一番の理由は
やっぱり院長の親戚だからだ。
みんな結構胸の内に秘めていると思う。
そのユキがあっさり結婚したのには私たちナースも一同びっくり!
しかもお見合いだって!院長の紹介らしい。
相手は大学の研究生で年齢もユキよりひと回り上の40歳。
新婚旅行の写真を見て二度びっくり!!
普通の人の良さそうな男の人だったから。
まぁこれでユキも落ち着くだろうとちょっとホッとしたのは私だけではないだろう。
しばらくはユキも大人しく働いていた。
って言うか何で病院を辞めないんだ!?
「私、主婦向いてないしぃ〜家にいても超暇だしぃ〜」と言う返事が返ってきた。
『あームカツクその言い方やっぱりあなたは人としてどうかと思うよ。今までのあなたに対するフォローは無かった事にして』
私は怒り、そしてあきれていた。
それから3年の月日が経とうしていた冬の寒い日に
ユキのご主人は亡くなった。
一応循環器系の死因になっているが、その死因には謎が多かった。
自宅で急変したらしいが対応が遅かったのが明らかだった。
ユキ自身は動揺してと言っていたが。
仮にもナースが…ですよ?
まぁ死人に口無し。ってやつですか?
ご主人はユキに殺されたと言う噂も出たが、証拠もないし私たちも立場上軽はずみな事も言えるわけなく
ただスッキリしない思いのまま時間だけが過ぎていった。
ユキのご主人の四十九日が過ぎた頃から不思議な事が起こり出した。
まず始めは外科部長が交通事故で右手切断。
これで黄金の右手は封印だわね。
次に院長が脳いっ血で倒れ命は取り留めたものの方麻痺の為、現役引退。
最後はユキが精神に支障をきたし今は精神科に入院中。
何でも同じ事を繰り返し
叫んでいるらしい。
「助けないでごめんなさいあなた許して」
ご主人の怨念か!?
怖い話投稿:ホラーテラー ナナさん
作者怖話