短編2
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車窓から何を見て…

私の職場はセルフ式ガソリンスタンドである。

先日来店した給油客の話。

その客が来店したのは午前4時だった。

黒い軽自動車。

そこかしこで見掛ける車種である。

私はモニターに目を向け、運転手が出てくるのを待っていた。

停車して3分くらい経過したであろうか…。だが、まだ出てくる気配はない。

よくあることである。

携帯でもいじっているのだろう…。

さして気にも留めずにモニターから目を離した。

目を離したのはほんの数秒…。再びモニターに目を向ける。

男が既に出てきていた。

なぜか給油機を操作しようとせずに、監視カメラを見上げている。

画面でだが、男と目が合った。

あちらは目が合ったことには気が付き様がないはずであるが、まるで察したかのようなタイミングで手を振りだした。

使い方が分からないのか…。そのときは、その程度にしか考えなかった。

私は、すぐさま駆け付け声をかける。

「いらっしゃ…」

思わず言葉に詰まった。

その男は私に背を向け、まだ監視カメラを見上げて一心不乱に手を振っている。

不気味なその姿から、思わず目を背けた。

視線は無意識に車の後部座席の窓に向いていた。

ウィンドウがゆっくりと降りていく…。

これは見てはいけない…。

本能的にそう思ったが遅かった。

無数の視線が私に向けられていた。

目だけだ。

他の顔のパーツは存在していない。

車内には無数の…様々な人間の目だけが蠢いていた。

声も出ない。

目も背けることができない。

体も動かせない。

そんな私に追い打ちを掛けるように、あの男の気配を横に感じる。

不快で異様な気配だ。

私の耳元に顔が来ている。

生温い息が私の耳に掛かる。

『…オマエの目も……よこせ』

その言葉と同時に私は気を失った。

目覚めたのは病院のベッドの上だった。

左目の眼球が潰れ、視力を失っていた。

私の左目もあの車に乗って彷徨っているのだろうか…。

そして、あの車窓から何を見ているのだろうか…。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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