俺の職場は、社員全員を合わせて五人という小さな工場。
仕事内容は、少し古くなったマネキンの表面にヤスリをかけたり、顔を変えたりして、再出荷する。
簡単に言えば、リサイクルみたいな感じだ。
マネキンが陽に焼けないようにと、いつも少し薄暗い作業場は気が滅入る。
入社して、三日目には辞めたくなっていた。
他の仕事が見つかったら辞めてやると、思いながら一ヶ月が経った頃、不思議な事が起こった。
作業場が狭い為、所狭しと並べられたマネキン。
手前にある物から順に作業を開始する。
並べられているマネキンを見ると、一つ一つ微妙に顔や造形の違いが良く解る。
顔にヤスリをかける時は微妙な気持ちになる。
社長は、すぐ慣れると言ってたが、まだ慣れない。
今日、三体目のマネキンの顔にヤスリをかけようとした時、終業を知らせる音が鳴った。
お疲れ様と言い、即効で着替え帰宅する。
薄暗くマネキンに囲まれている作業場から早く出たかったからだ。
次の日、違和感を感じた。
昨日の続きから始めるのが普通だ。
俺が、やりかけたマネキンが無い。
おかしいと思い、探してみると奥の方に立っていた。
勘違いとも考えたが、明らかに昨日の奴だと思う。
まだ一ヶ月しか働いてないが、違いが解るようにはなっている自信がある。
なんか理由があって移動したのかもしれないと思い、社長に聞いてみる事にした。
「あの、社長。マネキンって動かしました? 昨日のやりかけの奴が奥にあったんですが」
いつも優しい社長の顔が、少しだけ曇った気がした。
「まぁ、そんな事もありますよ。気にしてたら、きりがないですよ」
いや、そんな事もあるのかよ。
そういうの苦手なんだよ。
「因みに、どれですか?」
社長にどれか教えると、何故か苦笑いを浮かべた。
「また、この方ですか。まぁ人形みたいな物だし、美人さんですからね。顔をいじられるのが嫌なんじゃないですか?」
一気に帰りたくなった。
帰りたさが自然と顔に出る。
「ああ、冗談ですからね。辞めたりしないで下さいね。何故か辞める人が多くて」
何故かじゃない。
ちゃんとした理由がある。
辞めて行った人達の気持ちが良く解る。
さすがに気味が悪く、そのマネキンに触る気にはならない。
まぁ、奥にあるからいいかと、他のマネキンから作業を始めた。
終業時間。
いつも通り、即効で帰った。
社長の話が気になって仕方なかった。
次の日、社長は来なかった。
なんでも、例のマネキンを皆が気味悪がるので、残業して片付けようとした時に、ヤスリの機械で手を派手に削ったらしい。
それに、例のマネキンが無くなっているとも聞いた。
社長には悪いが、あの時触らなくて良かったと思う。
謎は残るが、無くなって本当に良かったと思った。
社長が復帰して、一週間くらいで例のマネキンの事は、話題にも上がらなくなっていた。
俺も完全に忘れかけた頃に、髪を切りに美容室に行った。
そして、席に着きゾッとした。
鏡越しに、かつらを被せられた首だけのマネキンが見えた。
それは、あの時のマネキンだった。
終
追記
その作業場では、必ず年に二回はお祓いをします。
因みにまだそこで働いています。
怖い話投稿:ホラーテラー 無人さん
作者怖話