※一応体験談なのですが、読みやすさを優先して、多少の誇張・表現の変更を加えてます。また出て来る人名は全て実名ではありません。
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大学生になり、アパートで独り暮らしを始めて半年くらい経った頃から、僕の部屋に妙な封筒が届くようになった。
何処にでも売っている様な普通サイズの茶色い封筒に、宛名は『田所隆様』と書かれている。僕は田所でもなければ、隆でもない。しかも差出人の『鈴木淳子』という人も僕は知らない。
最初は配達員が間違って投函してしまったのだろう、くらいに思っていた。けれど、それが一週間の内に四通続けて投函されて。そろそろ僕も、おやこれは? と思い始めた。
そうして、三通目あたりでようやく気付いたことがあった。(間の抜けた話だけれど、)届いた封筒には全部、切手が貼ってなかった。これじゃあ届かない。でもこうして届いてる。差出人が直に僕の部屋の郵便受けに投函しているのかと思うと、多少気味が悪くなった。
けれども、封筒を開けて中を見たりはしなかった。もうスルーしちゃえと思って、封筒は全部玄関の靴箱の上にピザのチラシなんかと一緒に放っておいた。
何も反応が無かったら、差出人も間違いに気付くだろうと思っていた。
また一週間経って。封筒の数は倍以上に増えていた。
どうやら僕が大学へ行っている間に投函されているらしい。その茶色い封筒が十枚を越えた辺りで、はっきりと気味が悪くなった。何やら面倒なゴタゴタに巻き込まれているのだろうかと思った。
ひとつ気付いたことがあった。封筒を振ると、シャカシャカと音がする。普通に手紙が入っていると思っていたので、これには驚いた。一体何が入っているのだろうか。
いずれにしても、気味が悪かった。中を見る気は無かった。好奇心より、厄介なことに関わりたくない、という気持ちの方が強かった。
このアパートの玄関には表札がない。だから、差出人はいつまでも勘違いしているのだろう。僕は、玄関に自分の名前を書いた張り紙を貼ったほうが良いのだろうか、と思った。けれど。わざわざ、そんなことをすれば自己主張の激しい奴と周りから勘違いされるかもしれない。
ぐずぐずしている内に、茶色い封筒は十三通目に到達。
気味が悪くてもう駄目だ。明日は張り紙を貼ろう。
と、それは、そう僕が決意した矢先のことだった。
次の日、僕が目を覚ますと、部屋の外は朝だと言うのにガヤガヤと騒がしかった。というより騒がしかったから起きたというところ。
何だ何だと思って外の様子をうかがうと、アパートの外にパトカーが数台停まっていた。
外には警察官や、野次馬がたくさんいた。玄関のドアを半開きにぽかんとしていると、警察官らしき人が一人僕の方にやって来て、隣の部屋で、事件が起きたのだと言った。何の事件か話してくれなかったけれど、野次馬や警官の人数からして、これはおおごとなのだ、とは感じた。
その後、なんやかんやあって。どうやら僕の部屋の隣に住む男性が酷い暴行を受けたらしい、ということが分かった。しばらくして警官が僕に話を聞きに部屋にやって来た。でも実際僕と隣人は隣同士といっても接点は何も無く。僕は近所付き合いがすこぶるヘタで、隣人の名前すら知らないのだ。
今日の早朝不審な人を見なかったか、とか、隣人がもめごとをしているのを見たり聞いたりしてないか、とかそんなことを三つ四つ聞かれた。僕は正直に答えた。知りません。聞いてません。見たことありません。
ご協力ありがとうございました、と言って警官は去って行った。その際に一度だけ、半開きのドアの隙間から、玄関の靴箱の上にある封筒の山を見たけれど、何も言ってはこなかった。
後で知ったことだが、隣人は、搬送先の病院で亡くなったらしい。噂によると、背中や腕などを数か所刺されていたようだ。何とか助かろうとして、玄関先まで這い出たところを、近所の人(と言うより、アパートの他の部屋の人)が見つけ、警察に通報した。
その際、隣人は、うわごとのように言っていたそうだ。
「女にやられた……。女にやられた……」
と。
そんな痛ましい事件があった日。僕の方にも、一つ事件が起きていた。元隣人には申し訳ないけれど、僕にとってはこちらが本題だ。
警察にちょっと質問されて、その後のこと。僕は大学を休んでベッドの上でぼんやりしていた。騒がしかった外がようやく静かになって来た頃。かつん、という僅かな音が聞こえた。
玄関を見てみると、茶色い封筒が届いていた。十四通目の封筒。
こんな時でも来るのか、とうんざりしつつも手に取ってみると、その封筒にはいつもと違うところがあった。宛名が無かった。そして、差出人の名前が微妙に違うことに気付いた。当初は『鈴木淳子』だったのに、今回のは『鈴木直子』となっていた。どっちにしろ知らない名前だけども。
しかし今日は好奇心が勝った。宛名が無いのだから、これは僕に宛てた封筒である可能性もあるよな。などと、わざとらしく考える。
僕は、思い切って封筒を開けてみた。中にはB5用紙が1枚、三つ折りになって入っていた。僕宛の手紙の様だった。内容は横書きで、短くシンプルかつ訳が分からないものだった。
以下手紙の内容。(※うろ覚え)
…………
この度はご迷惑をおかけしました。あなたの部屋にそれを送り続けていた理由は、こちらが勘違いをしていたからです。当惑されたことでしょう。本当に申し訳ありませんでした。
(※それからB5用紙のほとんどは白紙で、一番下に……)
ありがとうございました。
…………
勝手に封筒を送りつけられて、勝手に謝られて、勝手に感謝された。僕は、何が何だか分からずに、そのボールペンで書かれたのだろう、えらく達筆な字を何度か眺めた。
それから、どうしても気になったので、僕は残りの封筒も開けてみることにした。
封筒の一つを手にとって、開ける。中から出てきたものは一枚の写真と、大匙三杯分くらいの白い砂の様なモノだった。
僕はその白いモノを見て、アブナイ薬か!? と一瞬疑ったけれど、それはどうやら違うようで。粒の大きさもバラバラで、硬質な、何だか卵のカラを細かく砕いた感じだった。
写真の方は女性が一人写っていた。何処かの夜の海をバックに手すりにもたれかかっている。幸せそうに微笑を浮かべた、黒髪ロングヘアーの綺麗な人だった。
次に開けた封筒の中には、髪が入っていた。黒くて長い髪。それが写真に絡まって出て来た。三つ折りのB5用紙がギリギリ入るくらい小さな封筒に、びっくりするくらい大量の毛髪が詰め込まれていた。それが髪だと分かった瞬間、僕は「わぎゃっ!」と妙な声を出していた。
いったん落ち着いてから整理してみると、髪が入っているのが三通、白い砂の様なモノが十通。写真は最後に届いた手紙の封筒以外、十三通全ての封筒の中に入っていた。それぞれ写っている場所は違ったけれど、被写体はどれも同じ女性だった。
整理して並べてみてから、どうしようかこれ、と思った。実際、僕としてはどうしようもなかった。だから、十四通の封筒と中身を全部スーパーのビニール袋に入れると、僕は近所のコンビニのゴミ箱の中にそいつを突っ込んだ。
頭の片隅で、この封筒が今日起こった隣人の事件と何か関わりがある様な気がしていた。警察に言った方が良いのかなと思ったけれど、でも言うタイミングは逃したし、本当に関わりがあるのか疑問だし、僕関係ないしで、結局警察には言うことはなかった。
その辺りから想像が膨らんで、僕は封筒に入っていたあの白い砂の様なモノは、もしかして人の骨を砕いたものじゃないか、と思い始めていた。でも捨ててしまったのだからもう分からない。
部屋に戻ってもしばらく、見なけりゃ良かったかな、と後悔していた。中身を見てしまったことで、何か良からぬことが起きそうな気がした。けれど、実際は何も無かった。あれから数年経ったけれど、もう茶色い封筒が来ることも無く、同じアパートで、僕は平和に暮らしている。
だから、僕がそれを知ったのはごく最近のことだ。友達と、昔話に花を咲かせていた時。
数年前のここで起こった事件の話になった。
その最近知り合った友達は、僕ですら知らなかった隣人の名前を知っていた。
殺された隣人は、『田所』というのだそうだった。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話