ねぇ、お酒ちょうだいよー。
ちょっとひっかけりゃ、舌も動きやすくなるんだからぁ。
……だめって?
なんでよぉ、けちくさい連中だねぇ。
だからさぁ。私にグダグダ訊くより、あのくそったれオヤジに訊けっつってんだろう!
ああ。亭主だよ。
あのオヤジのせいなんだからさぁ。
お酒ちょうだいよ。だめ?
だいたい、あのオヤジが人形ばかり集めるのが悪いのよ。
だっておかしいじゃん。男のくせに。普通じゃないわよ。
集めりゃいいってもんじゃないでしょう。
それも10コや20コじゃないんだから。
家の中、部屋中よ、部屋中!
どの部屋に入っても、まわりすべて、人形。
あいつは人形だったらなんでもいいんだ。
どんな人形でも、目に付いたらすぐ手に入れて来んのよ。
……え?
わかってるわよ、あの日のことでしょ。話してあげるわよ。
聞けば、あいつのせいってわかるからさぁ。
第一、あいつは今、どっかに消えちゃってるんだよ?
そっちを探すのが筋ってもんじゃないの。
ねぇ、お酒ちょうだいよ。
私はもともと、人形が大っ嫌いでさあ。
だって気味悪いじゃない。
いつもぽかんとした目でこっちのこと見てるし。
え? あの日のこと? わかってるって。
とにかく、私は人形が大嫌いだってこと。
うん。あの日も飲んでた。
でも……酔ってなかったって。
一升ぐらいで酔っぱらうような生娘じゃないよ。
そのぐらい飲まないと、しゃっきっとしないんだよ。
とにかくさぁ、スロットから帰ってきたら、相変わらず家の中は人形だらけでね。
それだけでも頭がおかしくなりそうなところへ持ってきてよ、
ガキが寝てる部屋に入ったら、ふざけたことしてるんだよ。
え?……そう。
赤ん坊がいるんだ。6ヶ月……だったっけ。
なんとなくできちゃったガキでさ、フフフ。
まあいいじゃない。そんでいつもガキを寝かせてる布団を見たらさぁ。
驚いたよ。
……なんだっけ? キューピー……人形?
あれを布団に寝かせてやがんの。
思ったね。
このおやじ、とうとういっちゃったなって。
それ見たら、私も切れちゃって・・・スロット負けてイラついてたし。
キューピーの足つかんで。振り回してやったのさ。
そしたらよ、いつも大人しい亭主が、なんかわけのわからないことをわめきながら、
私に抱きついてきたのよ。
あたしはもうガキはいらないから、
殴り返してやったよ。今度は近くにあった灰皿つかんでね。
「せいとうぼーえい」って言うんでしょ? いいんでしょ? 殴り返しても。
ま、何もなくても、あの虚弱オヤジをよく殴ってたっけ。
キャハハハハハ。
ん。一発食らわしてやったら、あいつは静かになったわけ。
それで、転がってたキューピーの足をもっぺんつかんでさぁ、壁に叩きつけてやったのよ。
けっこう重いもんなんだね、キューピーって。
があん、とか音立てて。頭が砕けてさ。
ざまみろって思ったよ。
んで、ちっと気がおさまってさ。あいつがどこにいるか見たらさ。
・・・いなのよ。どこにも。
うん。消えちゃったのよ。
その代わりに、何があったと思う。
キューピーのときよりも驚いたわ。
マネキンよ。
うん。マネキン人形が寝っ転がってんのよ。
何もよりによって、マネキンまで集めるぅ?それも男の。
ねっ? これだけ聞いても、あのオヤジの方がおかしいって、わかるでしょ。
・・・で、そのマネキン見てたら、またむかついてきてね。
このくそったれマネキンもぶっ壊してやろうと思ってさ。
イーッヒッヒッヒッヒッヒ。
ま、何もノコギリまで持ち出すことはなかったかもね。
手も足も、もちろん頭もぶった切ってね。
それから・・・胴体の中の「詰め物」もぶちまけてやったら・・・すっとした。
……え? マネキンに「詰め物」があるかって?
まあ。そう言われりゃ、そうかなあ。
そんなのもあるんじゃないの?
……これで話は全部終わりよ。
マネキンをぶっ壊したところで、あんたらが入ってきてさぁ。
アタシをここに放り込んだ……ってわけ。
わかったでしょ。
アタシに説明させてる場合じゃ・な・い・の。
あのオヤジを見つければ、万事オーケーなんだって。
あの人形狂いの亭主が、みいんな悪いんだって。
私は何もしてないって、何度いえばわかるのっ!
だからさぁ。お酒ちょうだいよぉ。お酒え!
怖い話投稿:ホラーテラー 彩子さん
作者怖話