これは、私の伯父から聞いた話です。
幽霊など一切信じない伯父が、「あれだけは今でも不思議だ」と親戚が集まるたびに話すので、内容をすっかり覚えてしまった不思議な出来事です。
20年以上前のことです。
伯父は定年退職後、家でじっとしていると早く老けこみそうだと思い、
幼馴染の友人(Aさん)が経営する、新聞販売店でアルバイトをしていました。
とは言っても、新聞を配達する仕事ではなくて折り込み広告の仕分けや、経理の方も少し手伝っていたらしいのです。
ある日、配達員のBさんが急病で来られなくなり、Aさんが自ら配達に行ってくると言いましたが、大変だろうからと伯父も手伝うことにしたそうです。
Bさんの担当地区は伯父の家もある地区で、二人で手分けして朝刊の配達に
出かけました。
晩秋の早朝は、まだ真っ暗です。
しかし、人も車もほとんどいないその時間帯に、昨夜の月がまだ輝いているのを見るとなんだか得をしたいい気分になり、この仕事をしてよかったと思ったそうです。
配達先に、ある1軒の古い家がありました。
少し洋館の趣があるその家の存在を、伯父は以前から知っていましたが、高い塀と、敷地内にあるたくさんの木で建物の姿はほとんど見えません。
その日、初めて門の前に行き、中の様子と建物の全体を見たそうです。
門のところの新聞受けに入れようとしたら、新聞が入っています。
(エッ?間違えた?)
配達する家を間違えたのかと、一瞬思ったのですがよく見ると2日分の新聞が溜まっています。
(おい、おい、なんで取っていないんだ?)
(留守なのか?それなら連絡があるだろうに)
(まさか、人知れず死んでいるってことないよな?)
伯父がいろいろ考え、新聞を入れていると・・いつからそこにいたのでしょう?
白髪を薄紫色に染めた、お婆さんがいました。
お婆さんは伯父には気付かず、ホウキで玄関前の落ち葉を掃いています。
伯父は「おはようございます。あのー新聞溜まっていますよ」と声をかけました。
お婆さんは、伯父の方を向きにっこりとほほ笑むだけで、また落ち葉を掃いています。
伯父は、(とりあえず死んではいなかったからまあいいか、しかし変わった婆さんだ。まだ暗いのに庭の掃除か?年寄りは朝が早いな。掃除をする前に溜まった新聞とってくれよ..)と思いながら配達を続けました。
店に戻ると、Aさんは一足先に戻っていました。
Aさん「おつかれさん。助かったよ」
伯父 「いやあ、なかなか大変だなあ配達って。あっ、それより新聞溜めて
取りこんでいない家が….」
Aさん「あーそれそれ、言うのを忘れていたよ。今日も溜めていた?」
伯父 「あそこの洋館だろ?」
Aさん「そうそうBさんがね、昨日言っていたんだ。新聞が溜まっているって」
伯父 「ちょっと変わった婆さんだな、溜まった新聞には目もくれず、庭掃除
していたぞ」
Aさん「婆さん?あそこに婆さんはいない。とっくに亡くなっているよ。
爺さん一人だ」
伯父 「いや・・婆さんだ、新聞が溜まっていると声をかけたらニコッと
して」
Bさん「?・・しゃべったのか?」
伯父 「・・・いや・・俺が声をかけただけだ。婆さんはニコッとしただけで
何も言わなかった。掃除していたよ。一生懸命、落ち葉を掃いていた」
二人は変だなあと思いながらも、親族か誰か来ているのだろうとしか思って
いなかったそうです。
翌日、休んでいたAさんが出勤してきました。
伯父と、Bさんは昨日のことを、Aさんに話しました。
Aさん「そうですか。やっぱり、溜まっていましたか。
えーっ!!Cさん(伯父)も見たんですか?お婆さんを?」
Aさんは、一昨日の配達の時に新聞が溜まっているのが気になりながらも、
まあ以前にも、一日取りこんでいないこともあったし・・とその場を去ろうとした時に、庭の奥から(ザッザッ..)と音がしました。
暗い庭の先に大きなイチョウの木があり、その下に誰かいます。
(泥棒?)
人影は玄関の方に歩いてきました。
それを見たAさんは、「あっ..」と声をあげました。
死んだはずのこの家のお婆さんです。
幽霊?
そんなばかな・・でも・・
白髪を薄紫色に染めたお婆さんはこの辺では、ここのお婆さんしかいません。
Aさんはここの家族とは何回も顔をあわせています。
見間違えるはずはないと思いながらも、きっとお婆さんの姉妹がいてその人が
来ているのだろう。
おばけや幽霊なんて軽々しく言ってはいけないと思ったのです。
そして、店に戻ってから留守の連絡があったのかだけを、Bさんに確認したのです。
お爺さんに何かあったのかな?
長期に留守にするなら連絡してくるだろうし・・
今日、配達に行ってまだ取りこんでいなかったら、警察に行くか・・
ひととおり配達が終わってからでは遅くなるし、3人で手分けしてさっさとすませて、3人であの家に行こうということになりました。
正直なところ、Aさんも伯父も、またお婆さんの幽霊?を見るのは怖いという思いがありました。
お婆さんはいませんでしたが・・
新聞は昨日、伯父が入れたままの形でありました。
2日分の新聞で新聞入れの袋の中はいっぱいで、昨日はお婆さんが取り込むだろうと思い、そのうえから差し込む形でいれたのでほとんどはみ出る状態だったのです。
やはりおかしい・・
チャイムを鳴らしますが応答はありません。
胸騒ぎがしました。
お婆さんの幽霊?がなにか知らせてくれているのかもと、本気で思ったそうです。
3人は警察に相談に行きました。
まさに、危機一髪でした。
この家の主のお爺さんが、家の中で倒れていたのです。
すぐに救急車を呼びました。
お爺さんは、家の中で転倒して足の骨を折り動けない状態でした。
そして、4日間倒れたままで、亡くなっても不思議ではないぐらい衰弱していましたが、なんとか命は助かりました。
そして驚くほど元気になり、退院しました。
お爺さんは、倒れてから動けなくなりもう駄目だ、このまま誰にも発見されず死んでいくと思っていたそうです。
トミコ(お婆さん)のところに行くのだから、それもいいと・・
ところが、夢の中にトミコが出てきて「せっかく一人でのんびりしているのに邪魔するな」と言って、銀杏を投げるんですよ。あれがあたると痛いんですよ。
それだけではなく、ホウキを振り上げ「来るなー!」と言って私を追い払うんですよ。
お爺さんの話を聞いた伯父さんたちは、それでお婆さんはイチョウの木の下にいたり、掃き掃除をしていたのか・・
きっと配達の時間をみはからって出てきて、お爺さんのことを知らせてくれたのだろうと納得したそうです。
今年もお盆には親戚が集まります。
伯父さんの話をホラテラに投稿したことを言おうかな・・
「ほら寺?どこの寺だ?」・・そんなこと言いそうな伯父の不思議体験。
長文にお付き合いしていただき、ありがとうございました。
怖い話投稿:ホラーテラー 妖子さん
作者怖話