新たに越して来た家族。
ご近所への挨拶は丁寧過ぎるくらい、一生懸命にしていた。
人当たりも良く、会う人々に挨拶は欠かさなかった。
しかし、日が経つにつれて家族構成が明るみになると、街の者は驚きを隠せなかった…。
何故かと言うと…夫婦に娘、それに学年の関係で(中学三年生)で学校を変えたくなく、親戚の家から通うもう一人の娘がいた。
数年前に事件があった家主とまったく同じ家族構成…。
人々はなんにも起こらない事を願うばかりであった…。
街にも慣れ始め、家の中も整理された頃、家族は庭にある大きな花壇に花を植える事にした。
種や球根を買って来て、春の昼下がりに家族仲良く花壇造りに励んでいた。
土を馴らしながら掘っていた時、何かに当たった。
ガチッ
少し掘り出すとコンクリートの塊が出てきた。
父親が大きなスコップを持って来て、花壇全体を掘り始めると花壇の底はコンクリートで硬められていた。
そのうえ、真ん中は大きく抉られており虫歯のようだった…。
『なんなんだ…。これ』
その日はそのままにして、作業を止めた。
その夜…娘は喉の渇きを覚え、一階で水を飲みに行った。自分の部屋に戻り、窓から花壇を見下ろすと、花壇の周辺が霧掛かっていた。
目を凝らして見るとそこに誰かがいる…、ジッと見てみると女の子がいる。
娘よりも(小学六年生)少し下に見えた。
『こんな時間に誰だろう…何のようかな?』
そう思うと、その女の子はいきなりこちらを見た。
目が合い瞬きをしている間に女の子は消えていた。
不思議に思い、花壇まで行くと…、
誰もいない…。
『やっぱり…見間違いか…。』
そう思って部屋に戻ろうとした瞬間…手を握る感触がした。
ゆっくり握られた手を見ると、さっきの女の子がニコニコしながら、そこにいた。
そして…その女の子はこう言った。
『パパがね…殺すって、ママがね…許さないって。』
そう言い終わると気味の悪い笑みを浮かべ、ギュッと握った手を強めた。
『痛いっ』
そこで目が覚めた…。
『夢…かぁ…。』
手の痛みに気が付き、見てみると、握られた跡があった…。
それから数日、娘はまったく同じ夢を見続けた。
娘は元気も食欲も無くしたいた。変わり行く娘を心配した母親は病院に連れて行った。
だが、状況は変わらない…。
そのうちに、母親にもおかしな現象が感じ始めていたのだ。
お風呂に入り、座って髪を洗っていた時、ふと自分の足元を見ると横に子供の足が見えた。
娘が入って来たのかと思い、
『湯船に浸かってて…。』
と、言い振り替えると誰もいない…。トイレに入っている時にドアを強く叩いていたので、
『入っているでしょ』
と、ドアを開けると誰もいない。
不思議な事が度々、起こっていた。
娘が学校から帰って来てから部屋に閉じこもっていたある日、夕飯の支度が出来たので娘の部屋に入った。
すると、娘はベッドに仰向けになって寝転がっていた。
『ご飯が出来たから食べなさい…。』
声をかけて近寄った母親は娘の異変に気が付いた。
目の焦点は定まっておらず、天井を見つめながら何かを言っている。
母親が娘の肩を掴んだ時、娘の腕の先を見て戦略が走った…。
娘の手を握る…小さな手がベッドと壁の間から見えたのだ。
恐る恐る、体制をずらしながら見るとそこには、低学年くらいの女の子がいた。
あり得ない隙間から娘の手を握り、ニコニコしていた。
しかし、その顔はこの世のものでは無いと判るくらい、笑いながらも恐ろしい顔をしていた。
その時、娘がキャッキャッと笑い出して、こう言った…、『パパがね…殺すって、ママがね…許さないって』
娘は精神科の病院に入ったらしく、それからは娘の姿を見る者はいなかったらしい…。
それからその家族は半年も居ないうちに、街から出て行ったそうだ…。
再び…《売家》の看板が出た。
不動産屋の新入社員がこの屋敷の担当になり、訪れた時、ドアに貼り紙があった。
それは、《忌》と白地に黒で書かれた一枚の貼り紙だった…。
『…ったく誰だよ、こんなイタズラすんの…。』
新入社員は後から来る先輩社員を待つ為にドアを開けて、先に掃除をし始めた。
玄関・廊下・階段…そして二階に上がり部屋の窓を開けた。
窓を開け、庭を見下ろすと花壇が見えた…。
『花壇…造る途中だったのかなぁ?掘り起こしたまんまだ…。』
そんな事を考えていたら、階段を上がる足音が聞こえた。
先輩社員が来た!と思い、振り返ると誰も上がって来なかった…。
不思議に思いながらも気のせいかと違う部屋に移動する。
二階全ての部屋の窓を開けて、一階に下りる時に誰かがいる気配を感じた…。
(やっぱり先輩…来ていたんじゃん)
一階に下りて、音のする方に向かうと真っ暗だった。
『先輩来てんなら雨戸と窓開けて空気の入れ換えくらいしてくださいよ』
誰もいなかった。
ゴトッ…。
その部屋にある押し入れから音がした…。
『いい加減にしてくださいな』
押し入れを開けても何にもなかった。
すると、後ろから声がした…。
『何を一人で遊んでんだ。とっとと終わらせんぞこんな不気味な家…。』
新入社員はそれとなく、先輩社員にいろいろと質問をした。
先輩は不敏に思ったのか、全ての事を話した。
花壇については…。
『あの花壇な、元々は池だったのよ…。さっき話した通り、母親と娘が埋められていた場所だ。
そのままにしたんじゃ縁起も悪いし、気味も悪い。
そんなもんだから、業者をたのでレンガで縁取った綺麗な花壇にしたって訳…。もしかしたら前の家族、花壇を掘り起こした後に何かあったのかもな…。』
『この花壇を見た時、あまりにも大きいし、ひょうたんのような形してるからおかしいと思っていたんですよ…。
話は変わりますが、先輩さっき二階に来ませんでした?』
『いいや…お前に声掛けた時、初めて屋敷に入って来たんだよ…。
なんで…?』
つづく
怖い話投稿:ホラーテラー 珠唸童子さん
作者怖話