私は球体が怖い。
写真や絵画など、平面に映されているものなら平気だけど、
立体で存在する球体が恐ろしい。
一目見ただけで、恐怖でパニックになってしまう。
世の中には、尖端恐怖症というものがある。
刃物など尖ったもので傷つけられたりしたことが原因で、
尖ったものに対して、異常なほどの恐怖を感じる症状。
私の場合も、これと似ている。
きっかけは子供の頃の出来事だった。
近所で交通事故が起こった。
トラックとトラックが衝突して、派手に壊れた。
野菜や果物を積んだトラックと、スポーツ用品を積んだトラック。
事故が起きた場所は長い坂道の上で、
荷台から落ちた大量の荷物が、坂道を転がった。
坂の上から転がってくる、大量の球体。
スイカ、メロン、ジャガイモ、トマト、レモン、ブルーベリー、
リンゴ、オレンジ、グレープフルーツ、キウイ、パイナップル、
野球のボール、ボーリングの玉、テニスボール、ゴルフボール、
バスケットボール、バレーボール、サッカーボール、ピンポン玉。
丁度そのとき、私は坂の下を歩いていた。
まだ幼く小さかった私の身体は、
球体の波に飲み込まれ、球体の中に埋まった。
私は全身を骨折する重傷を負い、入院した。
以来、私は球体に対して恐怖を抱くようになった。
退院した私は、手始めに、部屋にあった地球儀を叩き割った。
ボールなど球状のオモチャの類も、全部捨てた。
親に注文をつけ、球状の野菜や果物は、食卓に上らなくなった。
パンも丸いパンは食べない。食パンやフランスパンだけ。
トイレの電球や芳香剤も、球状でないものに取り替えた。
でも、一歩外に出れば、どうしても球体が目に入る。
野菜や果物やスポーツ用品のボールだけでなく、
丸い形のオブジェや、ドーム状の建物も駄目。
夜空を見上げれば、月という巨大な球体が浮かんでいる。
そうして、私は部屋に引きこもるようになった。
私の部屋は、角張ったものに埋め尽くされている。
角張ったものに囲まれていれば安心でいられる。
食事は親が運んでくれるし、風呂とトイレ以外では部屋から出ない。
人と会わなくたって生きていくことはできる。
人恋しくなったら、パソコンを使えばネット上で他人と交流することもできる。
欲しいものがあれば、通信販売で注文すればいい。
たまに、モニターに球体が表示されて不快になることはある。
球体間接人形などは、おぞましくてたまらない。
それでも、実物でなければ、まだ大丈夫。
パニックになるほどではない。
ああ、けれど、なんてこと。
どうして今まで気がつかなかったのか。
あるとき、人体の仕組みを説明したサイトを見ていた私は、
恐ろしいことに気が付いてしまった。
こんなところに球体があったなんて。なんて恐ろしいのかしら。
私は発作的に、自分の眼球を手でくりぬいた。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話