私、吉田二郎と申します。今年で54歳になるはずでした。
光洋タクシーに勤めて20年、タクシーの運転手です。
このはなしは2年前の秋口に体験した不思議な出来事です。
夜中2時半、昼間はまだまだ暑さが残るが、この時間はさすがに涼しくなってきた。
最後の客になるであろう乗客を降ろし、帰路につこうかと考えていると…
ん?
少し街から離れた国道沿いに女性が。
薄い黄色だったと記憶してますが、ワンピースを着た女性が手を挙げて待っている。
まさかな………
運転手仲間からは、俗に言う、幽霊話しを聞いた事も有り、実際、私も何度か体験した事があるので、一瞬怖くなったんですが。
そんな訳がない。
そう自分に言い聞かせ、売上も悪い事だし、と、乗せる事にした。
女性の前で車を停める。
「どこまでですか?」
「あそこ…」
女性が山の方を指差す…
「あそこじゃちょっとわからないんですが…」
「…山町…まで…」
「はっ?」
「…〇〇山町…の…〇峠まで…」
「えっ!!あ、はい……」
おかしい、明らかにおかしい…女性が言った場所は山の中に有り、ホテルも住宅も何も無いところ。
「お、おねがいします…」
「は、はい。わかりました…」
しかし、断る訳にも行かず、車を発車させた…
あれを乗せちゃったかな…まさかな…
恐る恐るバックミラーを見る。
消えてるんじゃ無いかと思いながら、ミラーごしに後部席を見る、女性はうつむきながらも座っていた。
こんな山の中になんの用だろ、もしかしたら住宅や何かの施設があるのかも知れない。
確かに何かしら建物があったような…
「こんな時間に何か用事が有るんですか?」
「………………」
「ホテルか何か有りましたかね?」
「…………………」 「ふふっ」気のせいか女性が笑った気がした。
全くしゃべるきがないようなので、私はこれ以上は何も聞かずに運転に専念した。
かなり急な坂を登り、蛇行した道路を進む。
ナビの画像はそろそろ道路の終わりを示していた。
「そろそろですけど、この辺りでいいですか?」
「…だめ…あっち…」
女性が指を指す方向には、言われなければわからない細い荒れ果てた道があった。
「は、はい…」
車のヘッドライトがその道の先を照らす…真っ暗だ。
車一台がやっと通れる幅。
ナビにはもう山しか写っていない
Uターン出来るのか、バックじゃ厳しいな…等と心配ていると、突然目の前には生い茂る森が広がる。
道路らしき、ケモノ道はそこで終わっているようだった。
そこで私は半ば100%決め付けていた。
私が乗せたのは、間違いなく、あれだろうと。
「これ以上いけないですよ、どうします?」
覚悟を決めてミラーを見る。
まだいる………
そして女性はかわいらしい笑顔でミラーごしに私を見ている。
その時、身体の力が抜けて行くのを感じた。ホッとした…
「こんなとこで降りても………!」
振り返りざまに聞いてみる…………いない………やっぱり……
そして耳元に気配が!
「…ありが…とう……みつけて…くれ……て…」
思わず前を向く!
目の前にはさっきまで無かったはずの物がヘッドライトに照らされている!
人間の遺体が首を吊って垂れ下がっている。
そこにいるのはさっきまで車に乗ってた女性…
「ぎゃーっ!」
急いでギアをRに入れてバックする。
山を抜けるのにどのくらい時間がかかったのだろう…気がつくと信号待ちで停まっていた。
むかいにはパトロール中のパトカー。
そうだ、警察に言わなければ!
青に変わる寸前だったが、私は急いで車を降り、パトカーにかけよった。
パトカーは不足の事態を感じたのか、一度走らせた車を急停車させた。
「すみません!遺体を見つけました。あの山の………」
場所が余りにもわかりにくい所というので、嫌でしたが私のタクシーが先導して、あの場所まで案内しました。
「この先です」
二人の警官にさっき私が入って行った道を指差し、伝える。
「あれ?」
そこは間違いなくあの場所でしたが、そこにはケモノ道でなく、荒れた道でも無く、ただの木が生い茂る森が広がっていた。車なんか入る事は到底不可能な状態だった。
警官は少し呆れた顔をする。
しかし余りにも私がひつこく必死に訴えるので、一度、中に入ろうと言う事になりました。
それから7、8分位たっただろうか。応援のパトカーが来て、合計6人で薄明かりに照らされる森で捜索を始めました。
「ただいま…」
もう朝の6時だ。
妻の反応は無い…
シャワーを浴びて、食欲も無いので、寝る事にした。
布団に入る………横に寝る妻は、私に反応はしないが、寝言だろうか…
「アナタ、アナタ、ドコニイル…ノ」
悪い夢でも見てるのか…私は妻の耳元で
「ただいま」
と一言だけつぶやく
掛け布団をかぶり、少し今日あった事を思い出した。
あれはなんだったんだ…何故女性の遺体はみつからなかったんだ…
疲れや錯覚では説明がつかない事ばかりだ。
6人で行った捜索では結局遺体は見つからなかった。
警官達は私の目の錯覚、木か看板の見間違えだと半ば強引に捜索を終了させた。
私にも捜索を続けさすだけの、気力も体力も、そして証拠もなかった。
警官は無線で何かを伝え、パトカーで走りさっていってしまった。
あの、荒れ果てたケモノ道があったはずの入口に一人残されてしまった。
私は、本当に自分が見たのかも、自信が持てなくなり、車に向かった。その時あるものを見て、やはり間違いじゃ無い、実際にあった事だと確信を持てました。
生い茂る森から突如道路に飛び出すブレーキ跡。
私がつけた物だ。
それは、道路から向かって行くのではなく、明らかに森から飛び出して来た跡だった。
セミがまだまだ大合唱している
暑い…
いまは昼過ぎだ、今日は夕方から出社しなければいけない。
「おい、何か食べる物無いか?」
妻はこちらを見向きもせず電話で必死に何かを話している。
まぁ、いいか。コンビニでも寄ろう。
私はクローゼットを開けて着替えだす。ズボンをはき、シャツを着る。
ん?
家のチャイムがなる。誰だ?
妻と誰かしらの会話が聞こえてくる。
「まだ…ですか……どこに…連絡……です」
「車ごと…見つかってな…です」
何かあったのか?
ネクタイを取り首に巻く。片方の手で押さえ、もう片方でネクタイを引っ張り、締め上げた時……
!?!苦しい…
その時、目の前が急に明るく光る、見た事の有る風景が広がる。
森の中…昨日の夜中から朝までいたその森が目の前に。
なぜだ?く、苦しい…!
もがく私、ロープがきしみ、引っ掛けられた枝が揺れる。
あれは…。
足元には車、あれは、俺のタクシーだ。
フロントガラスにはなにかが写っている。霞む視界でよく見てみると、シャツを着て、ネクタイをしめて、ロープでぶら下がってる男の姿。
わた…し…だ……
しかしその写りこんでる姿は、微動だにもせず、青白い顔、飛び出た目でこちらを見ている。
苦しい!もがき続ける、しかしその姿はガラスに写っていない。
写っているのは、苦しむ私の行く末だった………
そうです。ワタシハ二年前に死にまシタ。
ここにはダレモキテクれません。
あの女性の気持ちがワカル気がします。
早く私をミツケテクダサイ
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話