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中編4
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即身成仏 前編

私が育ったのはド田舎の古い家。今時見掛けないけど当時は茅葺きの屋根で、まるでマンガ日本昔話に出て来る様な家。

家族構成は父、母、兄、私、祖母そして見た事のない祖父…。

確かに祖父の姿を見た事は一度もなかったが、家族の中ではいる事になっていた。

近所の人が尋ねてきて祖父の事を『元気にしてる?最近めっきり見ないから…』と聞かれた事があったが、私は『元気だよ』もしくは『ばあちゃんじゃないとわからない』としか答えなかった。

兄以外の家族全員に祖父の事を聞かれたらそう答える様に教え込まれたからだ。

この家にはたくさんの決まり事があり、幼い頃から大人達に言い聞かされてきた。

その中でも祖母の部屋に入る事はかたく禁じられていた。しかし幼い子供は好奇心の塊のようなもの。小学生になる前に一度だけそっと祖母の部屋の襖を開けた事があった。それを母に見つかり、少々手荒なお仕置きを受けた覚えがある。当時は躾と言われていたが、今では虐待に相当するだろうお仕置きだった。

兄はいつも友達の家で遊んで夕飯ギリギリ前に帰宅していた。家に友達を連れて来る事は一度もなかった。無論、私もだ。

家族以外の者を家に上げてはいけないという決まりがあったからだ。

このような小さな世界の中だけで生きているうちは何も不自然に思わないものだが、小学生になって他の家庭を見ていくうちに、自分の家が少し異常に思える事もあった。

兄がいつまでも友達の家に遊びに行っている気持ちもだんだんとわかるようになっていた。自分の家は制限する物事が多く、好奇心旺盛な年頃の兄や私には窮屈に思える環境だったから。

ある年の夏休み。両親は兄を連れて母方の実家に出掛けていた。

私は持病である喘息の発作が軽く出ていたという事で、祖母と一応いると言われている祖父と留守番をする事になった。

昼過ぎまで寝て、起きるとちゃぶ台にそうめんとスイカが用意されていた。

祖母は畑仕事に出ていた。

食事を済ませ、庭先に水を撒いて涼を取ろうとしていた時、縁側の日陰で猫がゴロゴロしていた。良く見ると友達の家で飼っているミケだった。

私は本当は動物好きだが、家の敷地内で犬猫に触る事も許されていなかったので見掛けてもいつも追い払っていた。

その時もミケが家に入ってはいけないと思い、ミケに向かって水を撒いた。

しかしミケはサッとかわして家の中に入ってしまった。

『まずい…ばあちゃんに見つかったら大変だ…』

実は何年か前の冬に、ひなたぼっこをしていたであろう小猫が祖母に見つかり慌てて逃げ出したが誤って家の中に入ってしまった事がある。祖母は鬼の形相で追い回し、小猫にほうきを何度も振り下ろした…何度も何度も…。

その後、小猫はどうなったのかはわからないが次の日に庭の一角に土の盛り上がってる部分があった。

兄の憶測だが、小猫は祖母によって叩き殺されたのだろうと言っていた…。普段は厳しくも優しい祖母でいつも笑顔が絶えない人だっただけに、その姿には相当なショックを受けた。二度と祖母のあんな顔は見たくない。

過去にそんな事があったので、ミケも見つかったら殺されてしまうと思った。祖母が帰る前になんとか家の外に出さなければ。

私は辺りを見て祖母がいない事を確認し、急いで家の中に戻った。

家の中はシーンと静まりかえっている。私は家の中を片っ端から捜していると、廊下の奥で『ゴトッ』と音がした。

足音を立てない様にそろりと近付くと、祖母の部屋の前にミケがいた。

あろう事か祖母の部屋の襖が開いている。しかし長い暖簾が掛かっていて中は見えない。

『ミケ!ダメダメ。早くこっちへ来るんだ。』

そんな言葉も虚しくミケは背を向けて祖母の部屋に堂々と暖簾をめくり入って行った。

まずい事になった。私は一度、外に出て祖母の畑を覗きに行った。

休憩を取っている様だ。木陰で水筒を傾けていたので、しばらく帰らない事を確信し、ダッシュで祖母の部屋へ向かった。

再び、部屋の前に立つが、とてつもない緊張感に包まれた。祖母の鬼の形相が脳裏によぎる。

『大丈夫…大丈夫。』

そう自分に言い聞かせ、私はそっと暖簾をくぐった。

祖母の部屋は以前覗き見てた時と変わっていなかった。

とはいえ、正面からしか見ていなかったのでやはり未知の世界に踏み込む感覚だった。

中はなんだか他の部屋に比べて湿っぽい感じがした。独特の香りが部屋を包んでいる。俗に言うおばあちゃんの匂いだ。

入ってすぐ内側にある茶箪笥の上には即席で作ったかのような仏壇があった。

知らない老人の写真が立て掛けられている。写真を手に取り裏をみると○山(私の苗字)○○朗 昭和○○年○月と書いてある。

私の父と漢字一文字違いの名前だ。

『これが、じぃちゃんなのか…?』

私が声を上げたのと同時に部屋の隅の方から

『ニャーン』

とミケが鳴いた。

写真ではあるが、祖父かもしれない人物との対面に少々動揺していたが、本題はミケを外に逃がす事だった。

ミケは私をサラリとかわし、反対側の隅へ逃げ出した。

するとそこには、階段とも言い切れない、梯子の上等な物が天井に向かって掛けられていた。

しかも、天井の一部が外れている。

ミケは当たり前のように梯子を駆け上がり、天井裏へと消えて行った。

続きます…

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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