ある日先輩の部屋でこたつに入りゴロゴロしていた時の事。
僕は友達とオールで遊んでいた為酷く疲れていた。気を抜くと一瞬で寝てしまいそうになる。
先輩は何をするでもなく僕の方を見ている。気持ち悪い。
しかし相手にする程元気もなく寝ちまおうかと横になっていると、
「ところでそれ何?」
と聞いてきた。
「それ?ああこのネックレスですか?これは昨日」
「いや、その人」
ああ、やっぱりか。と思った。実は前日の深夜、遊んでいる時に人身事故を目撃していた。
車の下敷きになっているおばさんを助けるでもなく遠巻きに見る十数人。不謹慎にも写メールを撮る人もいた。とても腹が立った。
それ以上に、頭の悪そうな運転手と思わしき男が「人轢いてしまってぇ」なんて保険屋に電話で話ししている。おばさんを助ける努力をしろよ。
でも僕も何もしなかった人間だった。もう死んでいると分かっていたから。下敷きになっているおばさんのそばに、おばさんその人が立っていたから。
おばさんと目があった。キョトンとしている。
ずっとキーンと耳なりがしていた。
すぐに救急車が来て群集は散る。僕も一緒に立ち去った。
「で、今に至ると」
先輩が苦い顔で頭を掻きながら言う。
「突然過ぎて何が何やら分からないんだろうな。」
少し切なくなった。僕にはもう見えなかったが、彼が言うには隣にいるらしい。
どうして僕なのかと聞くと
「俺らが見ている世界とその人が見えている世界はまったく違う」
「事故に遭った時その人にはきっとお前しか見えていなかったはずだよ」
「だからお前に憑いてきた」
ニヤニヤ笑いながら指を差してきた。僕より若干左側を。
「お前はたまたま見えただけだろうけどね。霊感が高ぶればまた見えるさ。」
彼曰わく人間にも見える人と見えない人がいるように幽霊にもそれがある。さらに幽霊程それが重要らしい。
「まあ悪い霊じゃないし問題ないんじゃない?払うなんて無粋な事しなくても、そのうち離れてくれるさ」
彼のとても優しい笑顔は僕に対して向けられたものではない事はすぐに分かった。
いつでもいいので成仏しましょうね。と心の中で呟いた後、僕は眠りに落ちた。
怖い話投稿:ホラーテラー 雪さん
作者怖話