長文なので苦手な方はスルーしてください。
私の趣味は釣りなんですけど、これは近場にある湖に釣りに行った時の話です。
トラウトフィッシングで有名なその湖は透明度も高く、2〜3メートル程度の浅い所なら底が見える程でした。
朝早く始め水温の上がる昼間に休み、夕方に再開して日が沈む頃に引き上げる。そんな予定を立て私は日が昇る前に出発しました。
到着した私を、湖は朝霧に包まれ昇りかけの朝日に照らされた、美しい姿で出迎えてくれていました。
幸いまだ誰も来ておらず、私は悠々とフローター(浮輪とボートの中間のようなもの)を身につけ湖に入りました。
その日の釣りのスタイルはフローターで湖の浅瀬を漂いながら、箱眼鏡(湖面からでも水中が見える道具)を使い水中の様子を見ながらポイントを探す、といったものでした。
よさ気だなと感じ釣りを始めた場所は、湖の東側にある急深部の手前の浅い水深(1.5メートル前後)のところで、山陰が朝日を遮っていました。
しばらくは誰もいない湖に竿先が空を裂く音、ルアーが湖面に着水する音、そしてリールを巻く音の三つだけが響いていました。
釣り始めてから半刻程たった時でしょうか、急深部と浅瀬の境目(それこそ湖底では崖の様な地形)辺りに
「ゴボッ!」
っと大きな気泡が浮かびました。
私は不思議に思い箱眼鏡を使って湖の中を見てみました。
急深部との境目の湖底辺りに何かが見えます。少し近付くとそれが何なのかが解りました。
溺死体でした。おそらく男性、俯せの状態で湖底を漂っていました。
私が岸に戻り警察に連絡するために、箱眼鏡から顔離そうとした次の瞬間
「ぐるんッ!!」
と勢いよく男性の顔が上を向きました。
その顔は長い間水中を漂っていたのでしょう、ふやけ、崩れ、原型を留めていません。
そして、生きているはずのないその顔には嫌らしく悪意に満ちた笑みが貼り付き、その口の隙間から
「ゴボッ!」
っと大きな気泡が漏れ出ました。
顔が上がった瞬間から私は金縛りに襲われ箱眼鏡を覗いた格好から身動き一つとれずいました。
ソレは私に近付いて来ました。先程までの漂うような動きではなく、両手を湖底に這わせ這いずるように近付いてきます。
緩慢に、ですが確実に…
私はもう生きた心地がしませんでした。
ソレは近付いて来ます。
後、数メートル…
後、数十センチ…
後、数センチ…
ソレが湖底から手を伸ばし私の足を掴もうとしたその時
「釣れましたか−?」
岸から声をかけられました。
その声を境に金縛りが解け、ソレもただの溺死体に戻ったかのように動きを止めました。
動けるようになった私は必死で岸に戻りました。
私に声をかけてくれたのは、私と同じ釣り人でした。
岸に着いてその釣り人に事情(溺死体が動いた事を伏せた上で)を説明して警察に連絡しソレは溺死体として回収され、私は事なきを得ました。
後日警察の方から聞いた話によると、やはりあの溺死体は自殺者でした。
遺書が湖の岸に残されていたものの遺体は発見されていなかったそうです。
最初の気泡、アレはやっぱり笑ったんでしょうか、私という道連れを見つけられて嬉しくて…
注釈が多く読みにくい文章だったかもしれませんが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
怖い話投稿:ホラーテラー 零崎さん
作者怖話