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中編6
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故郷の老人

 子供の頃の記憶で、やけに印象に残っている場面ってありませんか?でも、意外と、家族に話しても、誰も覚えてない時があります。

これは、私が体験した、記憶にまつわる、実話です。

 

 

 私が、働き盛りだった頃の夏、お盆休みが取れたので、家族で私の実家に帰りました。

 家に着くと、両親が笑顔で迎えてくれました。

孫と手をつなぎ、家の中に入っていく母の姿を見ていると、安心したのか、どっと疲れが襲ってきて、眠くなってきました。

「おふくろ、ちょっと寝ていいか?」

私が声をかけると、

「いいよ」

快活な声が返ってきました。

私は、久しぶりに、生まれ育った家の畳に体を広げ、そのまま深い眠りに落ちました。

 気づくと、時計は午後四時を指し、カナカナゼミ(正式名称かどうか分かりませんが。

)が、優しく、柔らかい声で鳴いていました。

風もひんやりとしてきて、ちょうど良い涼しさです。

私は、トランプゲームをやっている娘たちをちらっと見て、そのまま外へ向かいました。

眠気覚ましと、なつかしい風景を見たかったからです。

 私は、一本道の農道を進んでいきました。

すると、右手に墓地が見えました。

この墓地は、小さな山を削って作ったものでした。

この墓地を見ながら、私は、ふと、子供の頃の記憶を辿りました。

そうです、この墓地の隣に、小道があったんです。

私は、そっと、墓地の脇を覗きました。

ありました。

小道です。

小道は、ちょっとした上り坂になっています。

私は、何のためらいも無く、進んでいきました。

幼い頃の記憶に残っている・・・・。

この道の先には、小さな原っぱがあって、真ん中に、小さなお社(やしろ)がある・・・・。

ありました。

あったんです。

原っぱがあって、お社が残っていました。

私は嬉しくなり、ここで遊んだ記憶を鮮明に呼び戻しました。

 同級生たちと鬼ごっこなんかをやって遊んだなぁ。

弟もいたな。

誰か泣かしたっけ?そんな楽しい記憶の中に、一人のおじいさんの姿がありました。

あぁ、そうだ。

俺たちが遊び終わって、帰る頃になると、あのおじいさんが飴を必ずくれたんだ・・・・。

あのおじいさん、このお社のそばに落ちている石に座って、笑顔で俺たちの遊んでいる姿を見ていたんだ。

 私は急に、あのおじいさんに挨拶がしたくなって、昔お世話になった近所の方々に、訪ねて回ったんですが、誰もおじいさんのことを知らなかったんです。

私たちが遊んでいる姿は、皆覚えているのに、肝心のおじいさんのことは誰も思いだせない・・・・。

「まぁ、仕方ないか。

ここも過疎化して、高齢の方ばかりだからな・・・・。

俺の子供の頃なんて、うっすらとしか覚えてなんだろうな・・・・」

私は、肩を落として家へ帰ることにしました。

でも、なぜか、あの原っぱが気になって、もう一度、原っぱへ行きました。

御社があります。

私は、あのおじいさんがしていたように、お社の脇の石に、腰掛けました。

私は、急になんだか温かいものを、胸の内に感じて、涙を流しそうになりました。

よく分かりませんが、私は、あのおじいさんに、父のような大きさを感じていたのかもしれません。

しばらく、私はうつむいてぼーっとしていました。

しばらくして、ふと、自分の左側に目をやると、靴が見えます。

ぼろぼろの革靴です。

「え?」私は、半信半疑で、顔を上げました。

いたんです。

おじいさんが。

だぼだぼのズボンをはいて、汚いジャンパーを羽織り、はげ頭で、丸眼鏡・・・・。

おじいさんは、私と目が合うと、優しく微笑みました。

「おじいさん、久しぶり!」私は、おじいさんに声をかけましたが、おじいさんは何も言わず、颯爽と、小道を下って行きました。

「待って!!挨拶がしたいんです!」私が呼びかけ、おじいさんの姿を捉えようとするも、おじいさんはもう、いませんでした。

 夕食が終わって、私は父と母に聞いてみました。

「ねぇ、俺たちさ、よく、お墓の上の原っぱで遊んだよね?」

「うん。

そうだね」

「でさ、その時、おじいさんいなかった?」

「えっ?おじいさん?」

「うん。

(おじいさんの服装、身長などを伝えた)」

「あら・・・・」

母の顔色が変わり、さっきまで酔って寝転んでいた父も、体を起こしました。

「あなた、あのおじいさん」

「ああ。

そうだな。

離れの○○さんだろ」

父が言いました。

「へぇ。

初耳だなぁ。

明日、そこに行って、挨拶してくるよ」

私が言うと、

「何言ってるの。

あのおじいさんは亡くなったのよ」

「は?」

「亡くなったのよ」

私は単純におかしいと思いました。

「おかしいよ」

「何が?」

「だって俺、さっき会ったぞ・・・・」

「そんなこと・・・・無いわよ。

だって、八年前くらいに亡くなってるのよ、あのおじいさん」

父が口をはさみます。

「だいたい何でおまえが離れのじいさんのこと知ってるんだ。

「さっきも言っただろ、原っぱにいたって」

「馬鹿。

何言ってるんだよ、この男は」

父に軽く受け流され、私は何も言い返せませんでした。

「とりあえず、明日、花束とお線香持って行きなさい」

「だから、死んでないって!」

「いいから、一応」

「一応とかじゃなくて!!八年前とかほんと勘違いじゃないの?」

父がテレビをつけ、この言い争いは、うやむやのうちに終わりました。

 次の日の早朝。

私は、散歩に出かけました。

すると、玄関に花束とお線香が。

「ライター、自分の持ってるよね?」

「はぁ・・・・」

私は、ここまで用意してくれた母に悪い気がして、仕方なく花束とお線香を持っていきました。

 お墓に着きました。

迎えが済んだのでしょう。

どのお墓にも、花が手向けられています。

私は、その小さな墓地に入っていき、おじいさんの名前を探しましたが、そのようなお墓は、どこにもありませんでした。

「やっぱり、生きてる」

私は、何を思ったのか、その後、またあの原っぱへ行きました。

小道を進んで行き、原っぱが見えました。

「おじいさん、また来ているかもしれない・・・・」私は、辺りを見回しました。

原っぱが広がり、その真ん中に小さなお社が・・・・。

「ん?」違うんです。

お社じゃないんです。

真ん中に立ってるの、お社じゃないんです。

私は目を凝らしてよーく見ました。

それ、お社じゃなくて、お墓だったんです。

私は、もう、何も考えられなくなって、お墓の前に立ちました。

古い石のお墓。

汚れが染み付き、苔まで張っています。

でも、しっかりと、おじいさんの名前が刻んでありました。

私は「こんなはずじゃない!あの原っぱの真ん中には、御社があって、みんなで遊んだんだ!!」と必死で思いながら、花束とお線香をその場に落とし、家まで駆けていきました。

そして、玄関を開けて、母に向かって大声を上げました。

「どういうこと!?」

「何?」

「原っぱだよ・・・・何で、何でお墓があるの!?」

「花束とお線香あげて・・・・」

「何で!!」

静まり返りました。

「亡くなったからよ」

「八年前に?嘘だ。

勘違いだ。

俺はおじいさんにあったんだ」

また、静まり返りました。

そして、ようやく母が口を開きました。

「あなた・・・・何か勘違いしてない?」

「な・・・何を?」

「おじいさんが亡くなったのはね、あなたが生まれる八年前よ」

私は硬直してしまいました。

 おそらく、あのおじいさん、私たちが遊んでいたあの時から、もうこの世の人じゃ無かったんですよね・・・・。

記憶って不思議です。

あの時、私の記憶の中に、あのおじいさんの姿がはっきりと、鮮明に、残っていたんですから。

怖い話投稿:ホラーテラー かたりやさん  

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