先日、ニュースで芸能人・Sがシャブで逮捕されたのを聞き、『また捕まったの?』と思わず言葉に出た。
すると女房が、『死ななきゃ治んないんじゃない?』と言っていたのを聞いて、ある奴の事を思い出した。
ある奴とは俺が建築の仕事をしていた時、一緒に働いていた船木(仮名)と言う同じ歳の奴…。
地方から出て来て、話では年少あがりで意気がっていたのを覚えている。
そんな奴だから、職場でもあまり好かれておらず、よく一人でフラフラしていた。
年少行ったのもシャブらしい…。
でも、一人で飯食っている後ろ姿を見ると何だか可哀想になり、声をかけて一緒に弁当を食った事もある。すると喜んでニコニコしていた。
同じ歳はソイツだけだったので、なんかほっとけない部分もあった。
でも、そのお節介が後で自分を苦しめる事となる…。
ちょくちょく話しかけて来るようになり、一服の時なんか俺が煙草を切らすと、こっちが、『一本ちょうだい?』って言う前に、『ブンタ(セブンスター)で良いんならこれ(まるまる一箱)持ってなよ…。』とくれる。結構、いろんな事に気が利く奴でよく助かっていた。
周りの者には意気がっていたが、俺にはそんな態度は一度もしなかった。
しかし、数ヶ月経つと変わって来た。
いや…正確に言うと変わる時といつも通りの時とまちまち…。
そして、それが何故だか判る時が来た。
現場のトイレを入ろうとした時の事…。
鍵もかかっていなかったドアを開けるとそこには、注射器を左腕に自ら打っている船木がいた。
打ち終わったばかりなのか、意識が朦朧としていた。
俺は横っ面をひっぱたいた後、直ぐに人の居ない所に奴を連れて行った…。
最近、落ち着きが無い状態・いきなり機嫌が悪くなったり、良くなったり…。
これをまた、始めていたかと目の当たりにした。
こんこんと説教をすると、
『佑(俺)、今直ぐ…警察に連れて行ってほしい…。お前に見っかって、良かった…。頼む…。呼んだら現場の人等に迷惑かかるから、連れてってくれ…。
行ったら行ったでお前にも迷惑かかるけど…。』
そう言って船木は俺に持っていた証拠品を渡した。
親方と現場監督に事情を話し、俺は船木を警察に連れて行った。
警察から事情を聞くと年少を出てからこれで2度目らしく、今度はそう簡単には出て来れないと言われた。
面会に行った時に船木は俺にこう言ってた。
『佑みたいな奴に昔から出会っていたら、俺…止められていたかなぁ…。ハハ…甘えだな…。でも、佑に出会って本当に良かった。
お前が初めての友達だ。』
それから約2年半後…。
刑務所から出て、故郷に帰ったと風の便りで知った。
それから、どれくらい月日が経っただろう…?
会社が終わってから、同僚と一杯やって夜中に帰っていた時にずぅ〜と付いて来る奴がいるのに気付いた。
最初は同じ方向に歩いているんだなぁくらいにしか思っていなかったが、途中で小便がしたくなり近くに公園があるので、公園のトイレに寄った。
皆さんも解るだろうが、公園のトイレの匂いを嗅いだ途端、モヨウしてきて小のつもりが大の方に入る羽目になった…。
!・!・!・!・・。
全てが出尽くした時、何か声が聞こえた気がした…。
(ん…?誰か入っているのか?)
しかし、誰も居ない…。
すると外で人の気配がした。何だか怖くなり、便所掃除用のモップがあったのでそれを持ち出し、表に出ると…誰も居ない。
足早に家路を急ぐと再び、誰かが付けて来る。
いい加減、頭に来て…!
『誰だ!コラッ!…。』
すると、声がした。
いや…。何て言ったら良いのか判らないが、敢えて言うなれば頭の中で聞こえる感じ…?
『タスケテ……。』
何だかなぁ…と思いながらも周りを見渡したが、人の気配は無い…。
首を傾げながら、帰った。
その夜だ…。
夢で俺はあの(タスケテ……。)の声が聞こえていた。夢の中では声がする方に進んで行くと一軒のアパートに来ていた。
二階に上がり、再び声のする方に行くとある部屋から声がした。
ドアを開けると、そこには痩せこけて上半身、裸でパンツ姿の男が寝転がっている…。
良く見るとその男は……、
船木だった…。
その姿は変わり果てていて、見る影も無かった。
両腕・太もも・足の甲にまで注射の跡があった…。
思わず俺は、『ナキ!(俺が付けた船木のあだ名)お前、何やってんだよ!』
そう叫んだ後、ガバッと起きた。
あまりにリアルな夢だったので凄く気になっていた。
時計を見ると夜中の3時を過ぎた頃だった。
ある休みの日…。久しぶりの連休だったのでゆっくり寝て曜日にするとこだったのに、電話で起こされた。(それでも既に夕方近かった。)
その電話は建築時代の親方からだった。
俺は現場修行から建築会社に移っていた為、親方とは1年ぶり…。
電話の内容は…船木が亡くなったと…。
『船木な…自分の家で寝転がって死んでいたらしいよ…アイツ、やめていなかったそうだ…。警察の話じゃシャブの多量摂取によるショック死だそうだ…。』
何故、警察から親方の所に電話があったかと言うと、部屋の中に皆で行った慰安旅行の写真があり、それと一緒に働いていた頃の自分の名刺に書いてある会社の電話番号を頼りに連絡したらしい…。
船木は親御さんも居なかったそうで、警察も困っていたそうだ…。
親方に船木の死亡推定の日と時間を聞いて驚いた…。
あの夢を見た日で夜中の3時頃だと…。
知らせたかったのかなぁと思うと同時に何でだよとも思った。
だが、これだけでは終わらなかった。
それから、何日かおきに夢で船木が出て来て、何かを伝えようとしている。
それが続いて、俺も寝不足気味になっていたある日、同僚達から元気が無いと飲みに誘われた…。
そんな気分じゃ無かったが無理やりに連れて行かれた。
店に着くと一人のホステスが、
『言ってたの、この人でしょ…。ヤバイよおたく…、甘えられているよ…。』
元気が無かった俺を心配して同僚の一人がこの店の常連でこのホステスに相談してみたら、一度連れて来てほしいと言われ、来たらしい。
話半分と最初は思っていたが、そのホステスの言う事がズバズバ当たるのでビックリしていた。
死ぬ前にも夢に出て来た事・最近も出て来ては何かを言いたそうな素振りを見せる事…その時である。
『ソイツ…貴方に何て言っているか、判ります?』
『助けてくれ…って?』
そのホステスは寒気がする一言を俺に言った…。
『あのね、【今もやめれねぇ〜んだよ…。】って言ってんの…。貴方の知り合い…死んでも薬、止められないみたい…。でも、その人も苦しんでいるみたいよ…。貴方が祓ってあげたら喜ぶよ…。』
彼女の紹介である地方にいる霊媒師の所に行って、お祓いしてもらったのは言うまでもない…。
おわり…。
怖い話投稿:ホラーテラー 血魅呶露さん
作者怖話