俺はたった一人、弘川寺に桜を見に来ていた。
女のようだと言われればそのとおりだが、俺はここが気に入っている。
その桜の下に、今日もあの少女がいた。
目の大きな可愛らしい子だ。
「まだいるのか」
少女が振り返る。
「お兄ちゃんが来るまでいますよ。約束したもの。」
この娘はそう言いながら、3年間ずっと春にはここにいる。
いつも同じ、赤い模様の服を着ていた。
「また、一緒に桜を見に行こうねって。」
帰りの電車で、俺は友人Tに電話をかけた。
「お前、たまには弘川寺にでも花見に行ったらどうだ」
「何だいきなり」
Tの声が強張っているのが、よく分かる。
「桜の下に、可愛い女の子がいるんだよ。
兄との約束を守るためにね。
行ってあげたらどうだい?
君が殺した妹だよ。」
怖い話投稿:ホラーテラー 陽一さん
作者怖話