オレは人間達の怒号と上から照らされる光で目が覚めた。
見知らぬ場所…ここは…どこだ?
ぼんやりした意識の中、横たわった体を動かそうとして初めて気が付く……体が動かない……それだけじゃない…これは…氷だ…
徐々に意識がはっきりしてくるにつれて、感覚も戻るのが分かる。
寒い…クソッ!何でこんなところに!?
オレが戸惑っている間も怒号が聞こえる。
『45万!』 『46万5千!』 『47万!』
…何のことだ?何を言っている?
だが、明らかにそれらの怒号はオレの方に向けられたものだ。…いや、オレだけじゃない。体は動かせないが、視界の隅にオレと同様に氷にまみれて寝かされている仲間がいるのが見える。
…そうだ…ここに来る前のこと…最後の記憶がよみがえる…
あれは…オレがお目当ての彼女と性交にふけっていた時だ…
突然…何者かに捕まって…ここまでしか思い出せないが…そうだった……オレは捕らえられたのだ…
!!彼女は!?
慌てて彼女を探し始める。限られた視界の中だったが…いた!
彼女も捕まり、同じ目にあっている。だが、良かった…無事なんだな!
オレが最悪の状況下で光を見出した瞬間だった。
ドガッ!
彼女が突如、足蹴にされた。
『次はコイツだ!どこを取ってもキレイなもんだよ!さぁさぁ!始めた始めたぁ!!』
『48万!』 『48万5千!』 『49万』 『51万!』
ここにきて、ようやく状況が理解できた。理解したくもない状況が…。そうか…オレは、オレ達は…
『よし!55万だ!決まりだ!』
その声が辺りに響くと、一人の人間が彼女に近付いて、にやけた口で言う。
『コイツは上物だ。競り落とした甲斐がある。』
やめろっ!彼女に何をする!離せ!!離せぇっ!!
オレは心の中でそいつを呪い、ありったけの怨を込めて睨みつけた。
だが、それも虚しく彼女は連れ去られていく…
ガッ!っという音と共に脇腹に嫌な痛みが走る。
そうか…次はオレか…
それが分かると、憔悴しきったオレは考えるのを止めた…辺りには再び怒号が響き渡る…
『ただいま~帰ったよ~』
『おう!お帰り!今日はどうだった?』
『うん。最近にしては良いのが入ったよ。…なぁ、親父…』
『何だ?』
『さっき市場で、他のマグロに睨まれた気がする…』
『ははっ。まさか!』
こうして魚河岸の朝が始まる…
怖い話投稿:ホラーテラー うみんちゅさん
作者怖話