いつもの道。
夜、俺はその日も仕事帰りに、その道を歩いていた。
両側には田んぼが広がっていて、周りに民家がないので明かりはほとんどない。
代わりに道に沿って立ち並ぶ、数少ない古びた街灯がチカチカと不規則に点滅し、その道を不気味に照らし出している。
正直言うと、その道はあまり好きじゃない。理由は暗過ぎて不気味だからだ。
どうして好きでもない道を通るか。
理由は単純。自宅への近道だからだ。そこを通らないと帰宅するのが10分は遅れる。出勤の場合も同じだ。
俺はいつものように携帯の画面を見ながらその道を歩いていた。
すると視界の隅に、黒い何かが入り込んで来た。
道の隅に設置されているゴミ捨て場だ。
そのゴミ捨て場は薄い鉄でできていて、長方形の箱の形をしている。
蓋はないため、そのまま中にゴミをほうり込めるようになっている。
外見は酷く錆び付いていて、全体が汚いオレンジ色に見えてしまう程だ。
そのゴミ捨て場は長い間誰にも使われていない。
それもそうだ。
近くに民家なんてないのだから、使う人はいない。
なぜこんなところに設置したのだろうか。
かなり前に使ってる人達はいたが、その人達が捨てるゴミというのは、処分の面倒な電化製品など。
このゴミ捨て場は電化製品を捨ててはいけない事になっている。
でも人目が少ないという事で、よくそういうゴミが捨てられていた。
今ではそんな人達は全く見ないし、電化製品だって捨てられていない。
なのでこのゴミ捨て場は長い間、誰にも使われていないのだ。
いつも見るゴミ捨て場。
俺がその横を通り過ぎようとした時だった。
ガサ ガサ
ん?
俺は足を止めた。
ビニール袋をいじった時のような音。
音はゴミ捨て場から聞こえてきている。
俺は、どうせ猫でも入り込んでゴミを食い荒らしているんだろうと思い、気にせず再び歩き始めた。
だが…
ガサ ガサ ゴソ ガサ
猫にしては音が激しい。
音は一度も鳴り止まない。
俺は気になってゴミ捨て場に足を進めた。
そして中を覗こう思った時。
ん…?
音が止んだ。
そして俺が中を覗き込むと、チカチカと点滅する明かりの中、黒い大きなゴミ袋が見えた。
めずらしくゴミが捨てられていたので、少し驚いた。
また電化製品か何かだろう。
そう思った俺。
それにしてもさっきの音はなんだったんだ?
この袋の音だと思うんだけど。
やっぱり猫が袋を破ろうとしてたのか?
でも猫なんて見てないしな。
風も吹いてなので、袋が揺らされたなんて事はない。それにそんな音じゃなかった。
俺は少し気持ち悪さを感じながら、ゴミ捨て場を後にした。
一体何だったんだろう。
そんな事を考えながら自宅に帰って来た。
その日は落ち着かないまま眠りについた。
翌朝。
土曜日だ。
仕事が休みだった事もあり、俺はゆっくり過ごそうと思った。
昨日の事などすっかり忘れていた。
ベッドから起きてソファーに座り、テレビを点ける。
その瞬間、あるニュースが目に入った。
画面には見覚えのあるものがが映し出されている。
……え?
映っていたのは昨日の−俺がいつも通る道にあるゴミ捨て場だった。
俺は少し驚いたが、ニュースの内容を聞いて耳を疑った。
今朝、ゴミ捨て場の黒いゴミ袋から、女性のバラバラ死体が発見されたというのだ。
犯人はまだ捕まっていないという。
第一発見者のおばあさんは朝、いつものように道のゴミ拾いをしていてたのだが、めずらしくゴミ捨て場にゴミがあったので、気になって袋を開けたところ、死体を発見したらしい。
俺は昨日の事を思い出した。
…あの黒いゴミ袋の中に死体が入っていたんだ。
ニュースでも黒いゴミ袋から死体が発見されたと言っている。
間違いない。
つまり…
俺は目の前で死体の入った袋を見ていたという事だ。
そう考えると恐怖が襲ってきた。
そして…
なぜあの袋はガサガサと激しい音をたてていたのか…
俺は寒気を感じ始めた。
女性はバラバラにされて死んでいたはず。
女性が生きていれば、音をたてる事は可能だ。
だが死んでいたはずなのだ。
ではあの音はいったい何だったのだろう。
俺に戦慄が走る。
最初は猫だと思ったけど、猫の姿なんて見ていない。
それ以外の動物も見ていない。
風も吹いていなかった。
あの袋が動いていたとしか考えられない。
つまり死体が動いていた…
俺は思った。
女性は、死んでからもバラバラの体を動かして俺に助けを求めていたのかもしれない…
ここにいるから見つけてと…
怖い話投稿:ホラーテラー スナイパーさん
作者怖話