生前の祖父から聞いた話です。
長いですし乱文ですがよろしければ。
祖父は戦争でスマトラだかボルネオだかの熱帯地域に行ったそうです。
ジャングルを行軍中、祖父の戦友Aが敵の爆撃を受けて亡くなってしまいました。
同じ地元から召集されたその方は、幼い頃から共に育った仲間だったので祖父は大変悲しみ、なんとか弔ってやりたいと思いました。
しかし火葬にするとその煙で敵に居場所がばれてしまいます。かといって、こんな異国のジャングルに1人埋めていくのも忍びなく。命からがら敗走している今の状況では、時間もありませんでした。
祖父は腕の骨だけでも日本の墓に入れてやろうと、親友の腕を切り落として首から下げ、戦況が落ち着くまで持ち歩くことにしました。
戦況は酷くなる一方で、しかも熱帯のジャングルの中。切り落とした腕は荼毘にふす暇もなく、だんだん腐ってひどく臭うようになってきました。虫も湧いてきます。そして非常に重いのです。
祖父は何度めかの攻撃を受けた際に、たまりかねてその腕を捨てました。
数日のち、蒸し暑い昼間の野営中のことでした。祖父は疲労のあまりぼんやり過ごしていたそうです。
そのとき、仲間がとっさに銃を構えました。隊に緊張が走り、銃口の先を目で追うといつのまにか一匹の獣がいました。熊かと思うほど大きかったそうです。獣は近くの岩の上から兵隊たちをじぃっと見下ろしていました。
獣の姿形は猿に似ていたそうです。祖父は、変わった猿がいるな…と思ってぼんやり見ていました。獣はじっとこちらを見ているのですが…やがて妙な顔をしていることに気付いたのです。
歯を剥き出しにして食い縛り、両目をぎゅっとつぶっている。獣があんな顔をするものでしょうか。まるで苦悶にのたうちまわる人のような…
獣を狙っていた隊員も気付いたのでしょう、銃口を向けたまま固まってしまいました。皆の目にも見えているらしく、全員が岩の上を見つめたまま言葉を失い、立ちすくみました。
(なんだあれは…)
獣は微動だにせず、こちらに顔を向けています。
そして祖父はもっとおかしなことに気付きました。
獣の背中から腕が生えているのです。
どう見ても人間の腕が、体毛のない男の腕が1本、もがくように空を掻いていました。確かに動いています。獣が背負っているんじゃない、背中から生えた腕だけがくねくねと動き回り、
祖父にオイデオイデをしているのです。
仲間が発砲し、他の仲間も一斉に撃ちました。それを機に隊は逃げ出しました。
誰もが見、気付いていました。あれはAの腕だと。
祖父は恐ろしくて必死に逃げました、遠い異国に1人置き去りにされる親友が、自分を責めているようで、自分を道連れにしようとしているようで…
(すまん、A、すまん、堪忍してくれ…成仏してくれ…)
心の中で叫びながら逃げる途中、悲しげな吠え声を聞いたといいます。
基地に辿り着いた頃には獣は消えていました。
その後まもなく終戦になり、祖父は無事日本に帰ることが出来ました。
しかし無念の死をとげた親友の、切り落として捨てた腕は。
時々夢に現れては死ぬまで祖父を苦しめたのです。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話