短編2
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探し物

心霊体験ではありません。

25年前、我が家は 市営住宅に住んでいました。

その部屋に前に住んでいた家族は、詳しい事情は知りませんが、夜逃げ同然に引っ越していったという噂でした。

引っ越して来て一年ほど経ったある土曜日の午後。

玄関のドアをノック する音がしたので出てみると、灰色の作業服姿で、帽子を目深にかぶった四十年配の男の人が立っていました。

何ですか? と聴くと、前に住んでいた〇〇だけど、引っ越す時に置き忘れて行ったものがあるから探させてくれ、という 返事が返って来ました。

解りました、と言って中に入れると、押し入れのある部屋に行き、襖を開いて仕切り板の上に乗り、天井の板を外して天井裏を探し始めました。

五分ほどしてから、スーパーマーケットなどで使われる、小型の紙袋を携えて帰って行きました。

それから3ヶ月ほど経ってから、県内ニュースを観ていたら、その男の人が手錠をかけられてパトカーに乗せられようとしているのが映りました。

慌ててボリュームを上げると、こんなアナウンスが聞こえて来ました。

「…〇〇容疑者は、覚醒剤約500グラムと共に、拳銃も所持していた事から、覚醒剤取締法違反並びに、銃刀法違反についても追求する方針です」と。

帰って来た母親にその事を話すと、真っ青な顔色になり、

「…やっぱり…」 と呟きました。

その部屋には10年住みましたが、それ以降、怪しい人物が訪ねてきたことは一度もありませんでした。

現在は新興住宅地に買った土地に建てた家に住んでいるので安全ですが、あの時、運命の歯車が少しでも狂っていたら…と思うと、昔日には感じなかった恐怖が、十何倍にも増幅されて蘇って来ます。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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