―申し訳ありませんが、携帯機種の関係でコマ切れになってしまいます。拙い文ですが、読んでいただけたら嬉しいですm(__)m
娘は裸足のまま泣きながら夜道を走った。闇など怖くなかった。いっそ魔物に喰われた方がマシだと思った。
悲しかった…
父親に殴られたほっぺたがヒリヒリしていた。
キッカのおばちゃんの家に辿りついた娘はいきなり玄関の扉を開けた。
娘『おばちゃぁん…』
あとは言葉にならず大泣きした。
キ『◇◇(娘の名前)ちゃん、どうしたん?…まぁ上がりんちゃい。』
暖かいお茶の飲んで、ようやく泣き止んだ。
キ『…さぁ、どうしたんか、ユックリ話してみんちゃい。』――
―その夜、家族で街で行われた祭りに出かけた。
大きな祭ではないが、それなりに賑わいをみせていた。
やがて、父親の知人達が家族の回りに集まり話に花が咲いていた。
娘もその人達と面識があったので楽しく過ごしていた。
男『◇◇ちゃん、はいよ!』
遅れてきたヒョットコのお面をつけた男性がワタアメを娘に渡そうとした時だった。
(!!…)
娘は完全にフリーズしてしまった。
―黒いグニュグニュ!―
娘にはそう見えた。
その黒いグニュグニュが男性の体から湧いては体に戻り…、体中にマトワリついている…
(…コワイ…コワイよ!)
男『◇◇ちゃん、どうしたん?ホレ、ワ・タ・ア・メ♪』
ヒョットコのお面が間近まで近づく…
娘『いらん!!』
娘は泣きながら母親の陰に隠れた。
母『すみませんね。お面が怖かったみたいで…。気い悪うせんでつかぁさいね。』
母親がフォローした。
男『…ああ、このお面かぁ(笑)。こっちこそスマンかったのう、◇◇ちゃん』
お面をとって男性が近づいてきた。
(ちがう!ちがうんよ!! ウチが怖いんは!)
娘は泣きながら走りさった。
一人で先に家に帰った娘は黒いグニュグニュのことを考えていた…
(お化け?…ううん…違う怖さじゃった…なんじゃろう…?)
そこへ両親と妹が帰ってきた。
父『なんじゃ!あの態度は!せっかく気ぃ遣ぉて菓子まで買うてくれたのに…挨拶もお礼もせんと、いらん!じゃとぉ?』
酒が入っていたせいもあり、父親はかなり怒っていた。
娘『だって、怖かったんじゃもん!』
父『何が怖いんか!いつも可愛いがってもろうとるじゃろうが!』
娘『だって!あのおじちゃんの周りに黒いグニュグニュがようけおったんじゃ!きっと悪い事起きるんよ!』
父『何っ!嘘をつくな!何を言うとるんか!そがいなモノおらん!』
娘『ホンマじゃ…』
―バシっ!!
父親の平手が飛んだ!
父『お前は頭おかしゅうなったんか?キ〇ガイか?そがいなヤツはワシの娘じゃない!』―――
―黙って聞いていたキッカのおばちゃんが静かに話し始めた…
キ『◇◇ちゃん、そりゃあ切なかったのぉ…。アレを見えん人に分かってもらうんは難しいんよ…見えてもどうしようもないモノもある… ほいじゃが、いつか父さんも◇◇ちゃんの事をちゃんと分かってくれるけぇ。大丈夫よ。』
娘『ホンマに?』
キ『当たり前よね!◇◇ちゃんの親じゃもの。』――
それから3日後、そのヒョットコのお面の男性は亡くなった。急性心不全だった。
娘は黒いグニュグニュがなんだったのか察した。
それは《死の気配》…
娘は身近な人達に黒にグニュグニュがマトワリついたら…と思うとたまらく怖かった。
そして、ソレを二度と見ることがないように願った。
―時は流れ…
娘は成人し、家庭を持って母ちゃんになった。
母ちゃんは新築祝いに、キッカのおばちゃんから一本のバラの苗木をもらっていた。
大切に育てたバラは毎年見事な花を咲かせていた。
ある年のバラ満開の時期ー
キッカのおばちゃんは病室にいた。風邪をこじらせたらしい。高齢だったので大事をとって入院したとのこと。
母ちゃんがお見舞いに行くとおばちゃんが笑顔で迎えてくれた。息子さんが来ていて、明後日退院だと教えてくれた。
『そりゃ良かったわ!』と言いながら、母ちゃんは胸が押し潰されそうなショックを受けていた。
―黒いグニュグニュ…
キッカのおばちゃんにソレがマトワリついていた。
(嘘じゃ!ウチの見間違いじゃ!…)
しかし、何度瞬きしても黒いグニュグニュはそこにあった…
悟られまいと帰ろうとした時、キッカのおばちゃんに呼び止められた…
キ『◇◇ちゃん、ありがとうね。また会うやぁ。時間はまだあるけん。』
『ほうじゃね。また子供ら連れて、おばちゃんンとこ遊びに行くけん。』
―病室を出た母ちゃんは泣くのを堪えることが出来なかった。
(キッカのおばちゃんはもうわかっとるんじゃ…、じゃけ、ウチにあんなことを…)
《見えてもどうすることもできんモノもある…》
いつか聞いたキッカのおばちゃんの言葉が蘇った…
(なんで、どうにもできんモノが見えるん!見えんかったらエエのに!…ウチは何をしたらエエんじゃ?)
家に帰った母ちゃんはカメラを探した。、残っていたフィルムは14枚…。すべて使い切るまでバラの花の写真を撮った。
キッカのおばちゃんに沢山の花を見せる為に。
急いで現像に回したが、仕上がりは翌日だという。
〜当時の我が家では現像は近くのクリーニング屋(取り次ぎ?)に出していた〜
―深夜、電話が鳴った―
キッカのおばちゃんの息子さんからだった。
―キッカのおばちゃんが亡くなった―
容態の悪化があまりにも突然で、息子さんも間に合わなかったとのこと。
最期に付いていたのは看護婦さんだけ…。
キッカのおばちゃんの最期の言葉は
『もう十分じゃけぇ…ありがとう…』
だったと。
母ちゃんは泣いた…
まるで子供に戻ったように泣いた…
《見えてもどうすることもできんモノもある…》
何もできなかった自分…
切な過ぎたのだ。
その悲しみはあまりに深く、当時まだ幼かった俺の心にも直接伝わってきた。
キッカのおばちゃんの通夜から戻ってきた母ちゃんはまるで脱け殻のようだった…
父ちゃんが写真のことを思い出し、葬式の時に持って行ったらどうかと提案すると母ちゃんは静かに頷いた。
俺と父ちゃんと二人で写真を受取りに行った。
家に帰り写真を見て、驚いた…
それは、鮮やかなモノクロの花の写真がだった。
他の写真は全て普通にカラーで写っているのに、母ちゃんが撮ったバラの写真だけは14枚全部モノクロで写っていた…
そのモノクロのバラの花は凛としてとても美しかった…
『おばちゃん…』
母ちゃんはまた泣いた。
これがキッカのおばちゃんの最期の挨拶だったと…。
―何故バラの写真だけ、モノクロだったのか俺にはわかりません。そしてそれがどんなメッセージなのかも。きっと母ちゃんにしか分からないことなのだと思います。ただ、何となくですが、キッカのおばちゃんは母ちゃんの想いと一緒に花の色をマトって旅立ったような気がしています。
―モノクロのバラの写真は今でもキッチンのカウンターに飾ってあります。
台所仕事をする母ちゃんからよく見える位置に。
―最後までお付き合いいただき、ありがとうございましたm(__)m―
怖い話投稿:ホラーテラー B級グルメさん
作者怖話