―今回は母ちゃんが高校生だった時にR子叔母ちゃん(母ちゃんの妹)と体験した話です。
拙い文ですが、読んでいただけたら嬉しいですm(__)m
『明けましておめでとうございます。』
『おめでとうございます。』
すれ違い人達は声を掛け合っている。
例年より雪は多いものの、穏やか年明けだった。
姉妹は自宅の破魔矢とキッカのおばちゃんの家の破魔矢を手に町外れの神社に向かっていた。
その神社の宮司さんが毎年姉妹の家にお祓いに来ていることもあり、初詣と言っても親戚の家に年始に行くような気持ちだった。
いつの頃からか、除夜の鐘の音を聞きつつ歩いて詣でるというのが姉妹の家での慣例となっていたため、今回も零時少し前に出発した。
手にした去年の破魔矢を納め、新しい破魔矢を買って来るのが役目なのだが、初詣客に振る舞われる暖かい甘酒目当てでもあった。
さすがに新年を迎える日を迎える日ということもあり、各家々の門灯が点り道は明るかった。これから初詣に出掛ける人、零時とともに初詣を済ませて帰る人…往来も結構あつた。
妹『姉ちゃん、近道せん?』
姉『えっ!そりゃ、いけんじゃろう。』
妹『ええじゃん!ウチ近道見つけたんよ。』姉『いけんよ。キッカのおばちゃんが言いおったじゃろ?神様参る時は時間がかかってもちゃんとした道を行きんちゃいよ、って。』
妹『姉ちゃん、ホンマ頭堅いね。参道をちゃんと通りゃエエじゃろ?ウチは行くよ。姉ちゃんより先に着いちゃるけんねぇ(笑)』
妹はドンドン脇道を進み始めた。
道とは名ばかりの農道は除雪もされておらず、家々の光も疎らだった。
さすがに小学生の妹だけ行かせる訳にもいかず、姉は後を追いかけた。
姉(確かにこの農道を通り空地を突っ切れば、神社の裏手に着くじゃろう。ただ農道も空地も除雪されていないから、歩きにくいと思うんじゃけどなぁ。)
案の定、途中から妹が立ち止まることが多くなった。
姉『…もう気が済んだじゃろ?引き返してちゃんとした道を行こうやぁ。』
妹『…ほうじゃね…。姉ちゃん、ゴメン。』
姉『エエよ。ホレ、ウチが前歩くけん、その足跡を付いてきんちゃい。』
妹『うん!』
姉妹が引き返そうとしたその時―
妹『あっ!…ね、姉ちゃん!!来る!!!アレ!』
後ろから来ている妹の声に姉は振り返ると、妹はある方向を指差し泣きそうな顔をしている。
妹の指す方向を見ると…
確かに何かが走って来ている!
数は?1匹?…犬?
いや、…ちがう!
ソレは真っ直ぐ妹に向かって来ている。
妹『姉ちゃん!!』
絶叫に近い声だった―
妹とソレの距離は30mほどだった!
とっさに姉は妹とソレの間に入った。
『ハッッ!!』
ソレの方に向かって手にしていた二本の破魔矢を思い切り振り下ろした。
【グッ…】
なんとも言えない声を出してソレは来た方向に走り去って行った。
姉の手に握られていた破魔矢は二本とも真中でへし折れていた。
姉『あぁ、ビックリしたね(笑)もう行ったけぇ、大丈夫じゃ(笑)』
姉が振り返ると妹が震えながら泣いていた。
妹『…姉ちゃん…怖くなかったん?』
姉『ん?』
妹『顔…アレの顔…人間みたいな顔じゃったじゃろ?犬の頭の上にあったアレ!(泣)目ぇはこんな開いてから黒目だけが小ぃそうて、口が真っ黒で耳まで裂けとる人間の顔が載ったじゃろ?(泣)』
姉『!』
妹『(泣)コッチに走ってくる時は《喰ってやる!》ってゆうとったじゃろ?…(泣)ほいでから、姉ちゃんに追い払われる時、《くそっ!》ってゆうてから逃げたじゃろ?』
姉(見えとったんじゃ…ウチよりハッキリ…)
姉『……とにかく、明るい元の道まで戻ろうや。手ぇ繋いであげるけん。』
二人は元の道まで戻り、妹も落ち着いた。
姉『…見えるんじゃね?……なんで今まで言わんかったん?』
姉は静かに聞いた。
妹『…だって…父さん、姉ちゃんをいつもその事で怒りおるけぇ…ウチ、姉ちゃんみたいに父さんに怒られたり殴られたりするんはイヤなんじゃ…』
妹は申し訳なさそうに答えた。
―その時期、姉は父親にかなり辛く当たられていて、妹の言い分も分からなくはなかった―
姉『ほうか…』
やがて二人は神社に辿りついた。参道から本殿まで、結構な列になっていた。
参道の途中にはお世話になったお守りや破魔矢を納める箱ある。
そこにいつも姉妹の家にお祓いに来てくれる宮司さんがいた。
へし折れた破魔矢を見て《ほぅ…》と驚いた顔した。
破魔矢を粗末に扱ったと思われたくなかったが、人の流れに押されて事情を話すこともできず会釈だけして参拝しにいった。
社には息子さんの方の宮司さんが居て参拝客を一人ずつお祓いしている。
シャッ…シャッ…
和紙のヒラヒラが沢山付いた棒のような物で頭上を祓ってもらった。新しい破魔矢を買いに行こうとした時、いつもの宮司さんに呼び止められた。
姉は破魔矢を粗末に扱ったと叱られるのだと思い、尋ねられる前に事の次第を話して謝った。ただし、アレの事は犬として。
宮司さんはニコニコ笑いながら
『ほぅ…。叱りはせんよ。破魔矢がちゃんとその役目をしてくれたんじゃのう。エかったのう。
さぁさ、甘酒飲んでいきんちゃい。』
と言ってくれた。
姉妹はホッとして暖かい甘酒を飲んでから、破魔矢を買って帰ることにした。
―帰り道
姉『なぁ…見えることは内緒にしておきたいん?』
妹『うん…』
姉『…ほうか。わかった。姉ちゃんは誰にも言わん。ほいじゃが、何かあったら姉ちゃんにゆうてなぁ…』
妹『…うん。』
新しい二本の破魔矢に付いている鈴の音が雪道に微かに響いていた。
―最後まで読んでいただきありがとうございました。
怖い話投稿:ホラーテラー B級グルメさん
作者怖話