『なあ、俺は今生きる価値がある人間なのかな?』
またか。
毎晩こうして自分を否定する言葉を問い掛けてくる彼が私は嫌いだ。
『俺思うんだよ。世の中にもう俺って必要ないんじゃないかって』
ああそう。
だったら今すぐ死んでみなさいよ。
所詮死にたがりはそんな度胸などないもの。
口に出して構って欲しいだけ、そして同情して慰めて欲しいだけなんでしょう?
哀しいわね。
『早く星になりてぇなあ』
じゃあなりなさいよ。
この地球の人はなりたくなくても星になる人は毎日たくさん居るのよ。
私が貴方の代わりに110歳まで生きてあげるわ。
『毎日相手してくれてありがとな…喋れない奴に話し掛ける俺はどうかしてるな』
勘違いしないでくれる?
私はただ、貴方のことけなしているだけなんだから。
『お前も大分大きくなったな!嬉しいぞ!』
今宵は満月。
明日は貴方の命が決まる大事な手術。
……頑張るのよ。
私、精一杯応援するからね。
月の光りが窓から優しく照らし込む。
『手術成功率は半分以下だ…まあ死なぬも運命、死んだら定めだな…おやすみ…』
馬鹿ね。
私が貴方を死なせない。
一晩限りのこの力、私の命を持って一生懸命育ててくれた貴方のために使うわ。
感謝してよね。
…ありがとう。
今まで育ててくれて。
さようなら。
『良かったですね!もう大丈夫ですよ!手術は大成功ですよ!よく頑張りましたね』
『あぁ、看護婦さん、花が…俺が一生懸命育ててきた花が枯れちまったよ…』
男は寝たままの状態で鉢に手を伸ばす。
『月光花でしたよね?一晩だけしか花を咲かせない代わりに願いが叶うって言われてる…』
『先に逝った婆さんがこの花が大好きでなあ、こいつが婆さんの代わりのような気がして安心するんだ』
『一晩限りの命が奇跡を起こしてくれたのかも知れませんね…』
『そうに違いねぇ。ありがとな、お前が繋いでくれた命だ。俺は長生きするからな』
その時、男の耳元で微かに声が聞こえた。
『見守ってるからね』
それは紛れも無く、先立った妻の声だった。
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怖い話投稿:ホラーテラー Aさん
作者怖話