① 彼氏の事情
最近彼女の様子がおかしい。
鬱、というより、少しイカレテしまったようだ。
どうやら僕が密かに浮気しているのを知ってしまったらしい。
だが、僕としては彼女がどうなろうと知ったこっちゃ無い。
僕の中ではもう既に「元彼女」という存在でしかないからだ。
丁度いい、これを理由に上手いこと周囲を納得させて別れよう、ぐらいにしか思っていない。
それにしても、彼女は僕から見ても哀れな状態だ。
鏡の中の自分と会話し、両手足をまるで別人の物のようにばらばらに動かしてみたり、泣きながら笑っていたり。
僕はそんな彼女が薄気味悪くなって、まともに意思の疎通が出来るうちに別れ話を、と思っていた矢先の事。
僕はベッドに寝かされ、身動きが出来ない状態で目覚めた。
彼女が僕の傍らに立ち、笑顔で涙を零しながら見下ろしていた。
右手に包丁、左手に大きな鋏、自傷したのだろうか、所々衣服が赤く染まっている。
彼女は目を閉じ何か呟いているが、アクションを起こさない。
短い時間で色々な感情が沸いてきたが、最後に僕の心に残ったのは「後悔」だった。
僕は、本当は、本当に彼女の事を愛していたのかもしれない。
僕は静かに目を閉じた。
② 彼女の事情
最近彼の様子がおかしい。
浮気しているのは知っているけれど、このところその事実を隠そうともしない。
彼のことは愛している、と思っていたけれど、もう無理かもしれない。
私は鏡に向かって自問自答してみた。
そんな姿を彼に見つかり、殴られたり蹴られたり、時には命の危険すら感じて滅茶苦茶に抵抗したりもした。
その動きが彼にしてみれば面白かったらしく、嘲笑され、「一緒に笑え」と言われたこともある。
私は笑った。
楽しかった日々を思い出し、泣きながら。
別れを決意したその日に、彼から連絡が。
彼はベッドに横たわっていた。
もう一人の彼が、時間が無いからこのロープで身体を縛ってくれ、
と私に告げる。
私は躊躇したが、もう一人の私はロープを受け取り直ぐに作業を始めた。
破滅
私は作業を終えた私に、ロープを切る為に用意された鋏を突きつけた。
手遅れだった。
もう一方の手に包丁を持ち、彼のベッドに向かう。
泣いている筈なのに笑っていた。
私は静かに目を閉じた。
③ センセイの事情
「ほう、これは珍しい。」
私は司法解剖した遺体(女性)を一瞥すると、思わず呟いてしまった。
一般的にはあまり知られていないが、
脳の奇形
は結構な確率で発生している。
今回のモノは、脳が四つに割れているという症例。
右脳、左脳がそれぞれ二分割されている。
もちろん、均等なサイズではなく、メインが9、サブが1、程度である。
レントゲンやMRIでは、単なるシワでスルーされる。
脳機能的には、何の影響も確認されていないからだ。
2体続けて同じ症例。
これが医師を唸らせた理由である。
先に解剖した遺体(男性)との関係を聞き、医師は更に興味深く頷くのだった。
終
怖い話投稿:ホラーテラー ジロウさん
作者怖話