中編6
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呪術

長い駄文で失礼します。

自分には霊感なんてものはありません。ただ一回を除いては、この27年間で霊を見た事はもちろん、ラップ音すら聞いた事はありません。

なので3年前に起きた事が未だに信じられないでいます。

事の発端は

「俺、最近見えるようになったんだよね。」

という職場の同僚Aの一言でした。

酒の席という事もあり話半分に聞いていたのですが、彼は話し続けました。

「一週間前たまたま見つけたサイトでさ、霊が見えるようになる方法ってのをみつけたんよ。んで試しにやって見たら本当に効果あってな。マジスゲーのよ!」

余りの胡散臭さと彼の鼻高々な様子に自分はAをからかってやろうと思いました。が、イマイチいい案が浮かびませんでした。そこでその場に居合わせた同僚のBと協力し、Aの目の前でその方法とやらを実践し何も起こらないと詰問する、という案を思いつきました。

今思うと、とても低次元で意地の悪い話だと思います。

しかしその日のうちに私たち3人はAの自宅でその方法の準備を始めたのです。

時刻はもう午前1時前。次の日は休日のはずなのに周りの住宅地は静まりかえっていました。

まずAは私達に儀式の方法だけを教えました。そんなに複雑ではなく、

1、コップ一杯の水と塩とを灰の様なもの(Aが持っていました)を用意する。

2、皿に3センチ程塩を盛り、その頂点に水を数滴垂らす。

3、コップの水に灰の様なものをひとつまみ入れ、よく掻き回す。

4、その水を両目の上にこちらも数滴垂らす。

5、最後に部屋の明かりを消しその水を家の北側に撒いてお終い。

との事でした。

早速行う事にしたのですが、さっきまで同調していたBが乗り気ではなくなっていました。終いには

「馬鹿らしいしやめようよ。」

とまで言い出しました。しかしここまで来て引き下がるのも惜しく、渋るBを横目に私だけ儀式を始めたのです。

誰も話さない静かな部屋の中、私は淡々と事を進めました。そして目に水をかけようとしたところ、突然Bが私の空いた手をガッと掴んだのです。

何事かと思いBの顔を伺うと、何を言うでもなく頭痛に耐えるような顔をして私と、私の後ろあたりにいるAの顔を交互に見交わしているだけでした。

怪訝に思いながらも、

「どしたん?早くしなよ。スゲーから!」

と急かすAの声を耳にし、残りの行程を済ませました。

何も変わりはありません。異変と言えばただちょっと水が目に入って気持ち悪いと言ったぐらいでした。

「なんも見えないじゃん。まぁわかってた事だけどね。」

と私はAをなじるつもりで水を捨てた窓から彼に向き直りました。

しかし月明かりで照らし出されたそこにAはいませんでした。心配そうに見つめるBだけがその暗闇の中にとどまっていましたが、水を捨てるまでいたAは煙のように消え去ったのでした。

「あれ?Aは??」

と聞くわたしをBは一瞬苦虫を噛み潰したような顔になり、

「やっぱり・・・。」

と呟きました。すると部屋の玄関の方(ちなみにAの家はよくある1K?のボロアパートでした)から何かが歩いて来ます。

まだ電気のついていない部屋で、月明かりも届いていない玄関なのでよく見えませんでしたが、うっすらと見えたのは、巨大な顔。1.3mはあったように思います。よく居酒屋にあるポスターに写っている、ビールを持ったモデルのような顔立ちと笑顔でした。その巨大な頭の両耳あたりから二本の腕が生えていて、そいつが微笑んだ表情を変えず目線だけをこちらへ向け少しずつ、手を足のように使い近づいて来ました。よく見ると、そいつの目に白目はなくすべて漆黒、瞳の部分は紅く染まっていました。

私は無意識のうちに叫んでいたようです。Bは絶叫した私を唖然とした様子で見つめており、「それ」には気がついていなかったように思います。

気が付くと私はAの部屋で布団に横になっていました。横には何やら話すAとB。唯一聞き取れたのは「・・・と続くね。」というどちらかの声。私が体を起こすと二人は向き直り、一斉に話し始めました。

「大丈夫?」

「どうしたんだよ?」

「あんまり急に動かないで」

「気分悪くないか?」

など矢継ぎ早に聞かれ、わたしとしても訳の分からない状況でした。

「お前、水捨てた直後急に叫び出して倒れたんだわ。覚えてない?」

とAの説明を聞いてもどうもピンと来ません。Aは分かりませんがBはあの状況に居たはずですがやだ頷くだけで黙っていました。

「あぁ・・・そっか。」

と何かを理解したわけでもなく呟いた放心状態の私にBが

「まぁ元気そうだし今日はいったん寝て明日ちゃんと病院行きなよ。」

と言ったのを最後に私はまた意識が遠のいて行きました。

次の日、起きると二人は机の上で突っ伏して寝ておりいつも通りの朝でした。その表情を見ると何故だか昨日の事を問い詰める気にはなれず、頃合いを見て二人を起こし体に異常が無い事を伝えると私はまっすぐに帰宅しました。その日の夜は異変もなく過ぎました。

次の出勤日、いつも通り会社に行くとAが来ていませんでした。不思議に思っているとBが足速に近づいて来て、

「なぁ、あの夜の事やっぱり覚えてるんだろ?」

と聞いて来ました。

「やっぱりあれは・・・」

とまで言うとBは深いため息をつき話し始めました。結構長い話で何回かに分けて話されたので要約しますと、

・あの日の事は実際にあった。

・私にはAが見えなかったが、Bには全く異変はなくそのまま座っていたAが見えていた。

・Bが儀式を拒んだのは、知り合いの寺で知った呪術の方法に酷似していたから。

・Bが腕を掴んだ時、Bの方を向いていた私の後ろにいたAの目が漆黒と紅に染まっていた。怖くて言い出せなかったらしい。

・Bが知っていた呪術と違う部分は、水を目ではなく呪いをかけたい相手の家や持ち物にかけるというところだけで後は同じ。

・Bも詳しい事は知らないが、これは彼の地元の地方で行われていたらしい呪術で、相手に「何か」をけしかける効果がある。

・Aはあの後いつも通りの彼に戻ったが、儀式に関しては覚えていたが起きた事については記憶にないらしい。

・Aは今お祓いのためにBの地元へ向かった。

といったことでしたが、私にはまだ分からない事ばかりでした。「Aはどこからあの方法を知ったのか」「あの時出て来たあれは何なのか」「何故Aは私にあんなことをさせたのか」そして「もう二度と起こらないのか」など思い付くことすべてをBに問い詰めましたが詳しくは知らないという答え以外は得られませんでした。

ただ最後に彼が教えてくれたことには

「さっきも言ったとおり普通は呪いたい相手の持ち物などにかけるんだったと思う。だけどそれを目に直接っていうのは余りにもおかしい。下手したらその場にいた自分も巻き込まれるかも知れないんだ。」

Aはやはり何かに操られていたのでしょうか。彼は未だに帰って来ていないようなので分かりませんが、彼の本心から行ったのではないことを願っています。

その後は会社を辞めたこと(理由は今回の事とは関係ありません)以外何の異常もなく過ごしていますが、一つだけBに聞き逃した事がありました。

私が起きた時聞いた「続く」とは、どちらが何について放った言葉だったのか、という事です。

二人とも連絡が取れなくなった今となっては調べ様がないことではあるのですが。

長文失礼しました。

怖い話投稿:ホラーテラー Osh0wさん  

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