風がザワザワと梢を揺らしあたり一面に咲く、鬼百合が香る。
まだ鬱蒼と茂る夏草をかきわけて、遠近が苦笑いをする。
その顔を見て椎名が無言で俺の背中をグイグイ押す。
山歩きが好きな友人達が偶然見つけた洞穴。
どうせなら装備を整えて、三人で行こうと…。
「行くか」
遠近が先頭を歩き椎名を挟んで殿は俺の順で進む。 三人で軽口をたたきながら。
ずいぶん進んだ気がする。
どこまで続いているんだろうか?と考えていた。
「うわっ!!」
遠近の声と同時に蝙の群れがバタバタと出口へと向かっていく。
「大丈夫か?」
椎名の問いに遠近は軽く頷き灯りをある一点に向けた。
行き止まりだ。
大きな岩が崩れている。
いや、例え更に道が続いていたとしても俺は…俺達は先へは進めなかっただろう…。
広い空間にぽつんと小さな頭蓋骨。
眼球のあった部分からは蛇が鎌首をもたげ、チロチロと舌を動かしていた。
「なんて事を…」
遠近の声は震えていた。
鎖に繋がれた小さな白い骨…。
錆びて朽ちた鎖は未だにその役目を愚鈍に果たしているかのようで…見ていてたまらなかった。
近づいてその鎖を外そうとした瞬間、体が動かなくなった。
何も聞こえないし声も出せない。
次第に意識が薄れて、ぼんやりする頭に声を殺して泣く女の子の泣き声だけがはっきりと聞こえていた。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話