Mさん夫妻に待望の子が授かった。男の子だった。
お参りの時、神主さんに「この子は大変な子供だから、目を離さず大切に育てて下さい」と言われたのは気になったそうだが、大変おとなしく利発に育った。
おとなしすぎる位で、容貌からも女の子と間違われる事が多かった。
三歳の頃から奇妙な一人遊びをはじめた。
Mさんの嫁入り道具に豪華な三面鏡があったのだが、この子は鏡台に立ち、三面鏡を閉じて中に入ってしまう。
丁度三面鏡で三角の空間を作りその中に立つのだ。
これをすると小一時間は無言でじっとしている。
「なにが面白いの?」と尋ねると、「いっぱいいるもの」と答えたそうだ。
Mさんは流石に中には立てないので顔だけ突っ込み、真似をしてみた。合わせ鏡の原理で自分の顔が無限に見える、だんだん青みがかり何重にも写る自分に半ば畏れを
抱いたが、子供には面白いのかもしれないと考えていた。
ある日、Mさんが洗濯物を干していると、鏡台に立つ子が見えた。
楽で良いわね・・・・・などと思っていたが、唐突に心臓を鷲掴みにされる恐怖を覚えた。「気をつけなされ!」老人の声が頭に響いた気がした。
慌てて部屋に戻った。三面鏡は三角を形取っている。
が、気配はなかった。
「Kちゃん・・・・・」鏡を開くと無人だった。
Mさんは恐怖から声を張り上げた。
「Kちゃん、どこにいるの返事をしなさい!」
「は~い」
返事は聞こえた。それがMさんをさらに恐怖に陥れた。声はMさんの頭の中でした。
「Kちゃん! どこにいるの? ふざけていないで、出て来なさい!」
生まれて初めて出す、恐怖の絶叫だった。
その時、閉めてあった洋服タンスに気配が生まれた。洋服タンスは中から押し出されるように、バンと開いて、Kちゃんが転がる落ちた。
火がついたように泣いた。
洋服タンスには許容量一杯に服が入っている。
Kちゃんが最初からそこにいたら、気配すらしないなんて事はありえなかった。
Kちゃんは「ママが悪い」と泣く。
要約すると、鏡の中で遊んでいたのにママが出口を無くしたので洋服タンスから慌てて出たから、転んだのだと言う。
Mさんは開いた洋服タンスの戸を見た。そこには小さな鏡があった。
Mさんは三面鏡を処分した。
神主の薦めで家の全ての鏡にお札を貼った。
話し終えたMさんは左肩をめくって見せた。五芒星の焼き印が小さくあった。
「あの子にもあるのよ」
「・・・・・封じ?」
そう尋ねると「神隠しのね」とうなずいた。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名ARGENTINOさん
作者怖話